カルミネ予算委員長
「会計部長としての君の意見は真っ当だ。しかし、私は彼女に十分な予算を与えるべきだと考えている。
新職種の設立にあたり、仕事内容と進め方にある程度の目処がつくまで試行錯誤が必要になる。食事の研究にかかる経費はもちろん、時には街の外に出て食材や道具を買い付けに行くこともあるだろう。街の市場で事足りればいいが、そうはいくまい。
そして彼女の滞在費は、フロレンス出身ではない彼女に土地勘をつけてもらうためだ。覚えるべきことはいくらでもある。市場の品揃え、旬の食材、物価や相場、街の飲食店など、街に住み込んで馴染む必要がある。例え今の給仕すべき対象がアンジェリカ一人であっても、一朝一夕の付き合いでできる仕事ではないのは君も想像がつくだろう?」
「なるほど、道理です。それでも予算が多いと思われますが…おいおい経費の内容を精査して調整するのが妥当でしょうな」
「長期的な目で見れば、冒険者全員の健康、ひいてはフロレンスの発展にも好影響をもたらすと信じている」
「…して、いつまで待てば成果を見られるのですかな?一月ですか?三カ月ですか?それとも半年から一年ですか?いえ、そもそも何をもって成果とするのでしょうか?」
「む…」
あの支部長さんがひるみました。渋い顔もダンディです。
「失礼ながらお嬢様のお体は丈夫な方だとは言い難いですけれども、健康をどのようにして評価するつもりなのですか?
体力測定では病気への耐性を測れません。体を鍛えすぎた結果、体調を崩しやすくなる場合もあります。
病気への耐性も測定不可能です。できることはせいぜい寝込む頻度を数えるくらいでしょうが、短期間で結論を下せる問題ではありません。
また、仮に何らかの方法で健康を評価できたとして、食事との因果関係は証明できるのでしょうか?成長によって自然と体が丈夫になる可能性もあると考えられませんか?」
「それは…」
支部長さんは再び言葉に詰まりました。無理もありません。カルミネさんの疑問は当然です。
人の体は栄養に関して、ハーレムラノベの難聴系主人公ばりに鈍感で、不能系主人公ばりに不感です。ビタミンやミネラルの不足も充実も自覚できません。しかも栄養は減点主義です。脂肪以外の栄養素を過剰に摂ってもためることはできません。
「最大の疑問は、最初の対象がアンジェリカお嬢様だという点です。お嬢様が対象となることに不満があるのではありません。問題は、なぜお嬢様が最初なのか、ということです」
「君は、私が公私混同していると言いたいのかね?」
「まさか!心外です。あなたに限ってそれはあり得ません」
そう言うと、くるっと首を回したカルミネさんに見られてびくっと体が震えました。
「先程、りぼんさんは食事で病気を予防できると仰いました。ビタミンB1は脚気、ビタミンCは壊血病でしたね。脚気や壊血病の問題を解決できるのなら、貿易業を営むマクミラン家にとって願ってもない話のはずです。内陸地であるフロレンスより、カミラ様の経営する貿易会社がある港町イスタッドにりぼんさんを派遣されればよろしいのではありませんか?その方が冒険者として働くよりも安全で、かつ待遇もいいはずです。仮に病気の予防が無理でも、食糧事情のよい街なら労働者の健康に貢献できるでしょう」
「それこそ公私混同だ。私はこの街が抱える食糧事情の問題を少しでも軽くするために彼女にここで働いてもらいたいのだ。確かに病気の問題は重要だが、なぜ他の街を優先しなければならないのかね?」
「…支部長、あなたは実のところ、りぼんさんに懐疑的なのではありませんか?」




