そうだ、牛乳を飲もう
「あくまで私的な考えなのですが、『ミネラル』は『体を作る』、または補助する栄養素のグループで、『ビタミン』は『体を保つ』の栄養素グループと今は考えておいてください。
ミネラルとビタミンが慢性的に欠乏すると、『お腹いっぱい食べてるのにどんどん体調が悪くなる』という摩訶不思議な現象が起きます」
「それは、腹いっぱい食ってもやつれていくという意味かい?俺は見たことねえなあ」
「ちょっと違います。疲れやすいとか、風邪をひきやすいとか、変わったところだとイライラしやすいとか、内面に悪影響が出ます」
「食べ物とイライラなんて関係あるのか?ってーと苛つかなくなる食べ物があるのか?想像つかねえな」
「えーと、結果的にイライラするという感じでしょうか。いくつかのミネラルは、不足すると体の動きが鈍くなります。そうすると興奮しやすくなり、間接的に苛ついてしまう、と言えます」
正確には、細胞間の神経伝達物質の働きが鈍ってしまって神経過敏になるから、のようです。
「代表格は、牛乳に多く含まれる『カルシウム』です。カルシウム不足はイライラと関係します」
「じゃあ簡単だな。牛乳を飲めばいいんだろ?寝る前にホットミルクを飲むと落ち着くのはそのせいか。昔、よくお袋にホットミルクを飲まされたなあ」
「んー…。実は、カルシウムが様々に影響してイライラを抑えるまでに半日はかかるんですよ。ですから、寝る前にホットミルクを飲むと落ち着くのは、カルシウムは関係なく、ホットミルクが美味しくて温かい飲み物だからかと思います」
「そうなのか?でもよ、同じホットドリンクでも、コーヒーや紅茶だと目が覚めちまうぜ?」
「それなんですが、コーヒーや紅茶には『カフェイン』という頭を覚醒させる成分が含まれているからです。一方、牛乳にはカフェインが含まれていないので、飲んでも目が覚めません。という理由から、相対的にホットミルクが安眠に効果があると思われるのだと思います」
「へえ〜。経験則はあてになるようでならんもんだな」
「カルシウムはミネラルの代表格とみなしてもいいと思います。カルシウムのほとんどは骨や歯などの『体を作る』のに使われます。残りのほんのちょっとが体をスムーズに動かす潤滑油として使われます。不足するとイライラにつながるのは先程の通りです」
繰り返しますと、カルシウムを最も効率よく摂れる食材は牛乳です。実はいわしや海藻類にも含まれてますけど、かなりの量を食べないといけませんし、和食の味つけではかなりの塩分もくっついてきてしまいます。牛乳をコップ1杯飲むのが一番手っ取り早いんです。体質的に牛乳が飲めなければヨーグルトやチーズでもいいですね。
「カルシウム以外の有名どころだと、『カルシウム』は骨や歯を作り、『鉄』や『銅』は血液を作ります」
「鉄ぅ?鉄って、金属の鉄か?そんなもんが体の中にあるのか?」
「はい。鉄は血液にとって大事な栄養素なんです。鉄が不足すると貧血になりがちになります。特に女性は鉄と銅をセットで意識して多めに摂る必要があります」
「そう言えば、総務のジョディさんがたびたび休憩時間に医務室で横になっています。貧血気味とのことで、わたしも見かねて、勤務時間や日数を減らしてはいかがですかと何度も提案したのですが、家族のためにも給料を下げたくないと頑として譲りませんでした。貧血は食事で改善できるのでしょうか」
「病気でなければ、鉄分の多い食材を普段から摂るようにすれば改善できます。代表は何と言ってもレバーです。牛、豚、鶏、どれでもOKです」
「レバー、ですか。ここで手に入るのはパテくらいのものですね…。今度ジョディさんにオススメしてみましょう」
「レバー…」
アンジェリカが露骨に嫌な顔をしました。
「あ、レンズ豆も鉄分多いですね。少々多めに食べる必要がありますけど」
「どうも貧血で悩むのは女性というイメージがあります。女性は男性と比べて体内の鉄分が少ないのですか?」
「えーと…女性には、月一で血液を大きく失うイベントがありまして、察していただけるとありがたく…」
「ああ、なるほど。大変失礼しました」
微妙に気まずくなった空気の中、アンジェリカだけは状況を把握できていないようでした。
「毎月血を失うって何のこと?わたしは大怪我なんて一度もしたことないわよ。この間も鎧のおかげで擦り傷で済んだし」
ちっとも身に覚えがないという純粋な目でアンジェリカが言いました。全員ぎょっとして、さらに気まずい空気が濃くなります。
どっちだ…?気づいていないだけなのか、それとも本当に知らないと…?
「みんなどうしたの?わたし、変なこと言ったかしら?」
あ、これ本当に知らないやつだ。そのときが来たら教えてあげよう…。そのときはきっと今日のことを思い出して悶絶するんだろうな。ははは…。




