フロレンス ・ミーツ・エダマメ
見た目に似合わず興奮した葵さんが言いました。
「支部長。食べてみてください、枝豆を」
支部長さんは、アンジェリカが吐き出したさやから飛び出た枝豆を口に入れ、皆さんが見守る謎の空気の中で咀嚼します。微妙な行儀の悪さも血筋なのでしょうか。
「これは美味い。ほんのりした塩味と爽やかな苦味が甘味を引き立てている。爽やかな苦味こりこりとした食感も面白い。少々土臭さがあるが、かえって懐かしさを感じさせてくれる」
まるで孤独なグルメ人が心の中でつぶやきそうな食レポです。
「アオイ君は知っているようだが、このエダマメとはニホンの食べ物なのかね?仕事柄、珍しい食べ物を目にする機会が多い私でも見たことがない。いんげんやそら豆から派生した品種にも見えない」
「成長途中の未熟な大豆をゆでで塩をふったものです。あとで紹介する予定だったんですが、バレちゃ仕方がありません」
「ダイズ?ああ、君が持っていた豆か。…もう育ったのか!?」
「やたらと成長が早い魔法の豆…みたいです。枝豆はニホンでは子供からお年寄りまで大人気でして、特にお酒のつまみに定番です」
「まさか…ここに来て毎日食べられるの!?」葵さん大感激です。
「酒のつまみか…。興味深い」
わたしは枝豆を皆さんに一つずつお渡しして試食してもらいました。
反応はまちまちでした。クリスさんは美味しいと言ってくれましたが、他の方々は「ふーん…」的な反応でした。フランツさんは何か考え込んでいます。まあ…豆ですからね。食べた瞬間に人生観がひっくり返る豆はそうないでしょう。…が、葵さんだけは「枝豆きゅん…会いたかったわ…」とむせび泣いていました。
がさがさバッグを漁る音がして隣を見ると、アンジェリカが枝豆をぽりぽり食べていました。
「あ、気に入った?」
「昨日の夕食のスープに入っていた野菜は皮つきだったわよね。エダマメの皮は捨てるのかしら?」
「え?考えたことなかったな。ちょっと待って」
アンジュルムを開いて、枝豆の成分を探します。
「あ、項目がある。体内でビタミンAに変わるβカロテンと食物繊維が豊富…ということは、カロテンは脂溶性だから、油で調理するとよい、と。でも固くて食べられそうにないよなあ…」
「りぼん君、そろそろ始めて欲しいが準備はいいかな?」
「あ、はい。ただいま」
しかし、いざ皆さんの前に立つとやっぱり緊張します。わたしを見つめる目、目、目。授業で何度かレポートの発表をしたときよりも緊張します。そこで一つ、アンジェリカに耳打ちして頼みました。
「そんなことしてどうするの?」
「いいからおねが…」
途中まで言いかけた刹那、アンジェリカはわたしの頬を手のひらで景気よく叩きました。
「あいった!」
「これでいい?」
「い、いきなりひっぱたくやつがいるか!そこは普通確認するでしょ!『いくわよ』からのスパーン!でしょ!」
文句を言った刹那、今度は反対側の頬をひっぱたかれました。
「いったわよ」
「報連相!報連相!」
「…始めてくれないかね?」
「すいません!すいません!」
痛いし恥ずかしいし散々でしたが、おかげで緊張がほぐれました。深呼吸をして頭をリセットです。
よし、始めましょう。両頬がひりひりする…。




