ガール・ミーツ・エダマメ
わたしの腹の虫が鳴ろうとしたとき、窓と反対の入口側に座っていた支部長さんが立ち上がり、声を張って話し始めました。
「それでは始めよう。どうやら皆すでに面識があるようだが、改めて紹介しよう。彼女はタカハシ・りぼん君だ。アオイ君と同郷で、ニホンという遠い東の国から数日前にフロレンスに来た。
りぼん君は栄養に関する知識を持ち、本ギルドは栄護士という新しい職種を設立し、彼女に第一号になってもらった。
今日は彼女に仕事内容を紹介してもらおうと思う。とは言え、肩肘張らずに聞いて欲しい。その後はフランツくんが用意してくれた新作サンドイッチを楽しもう」
新…作!サンド!イッチ!
「え、栄護士の高橋りぼんです。よろしくお願いします」
パチパチパチと大きな拍手が会議室に響きました。うう…夏休み明けの転校生になった気分です。
「ところで、なぜうちの屋敷のメイドの格好をしているのかね?」
「はあ、この格好がアンジェリカの家で働くメイドとして身元証明の代わりになるそうで、外に出るときは常に着ろと」
「それはいいアイデアだ。先に私が皆に経緯を説明するから、君はそれまで座って休んでいてくれたまえ。
さて、栄護士という職種を設立した理由を話そう。先日各地の全ギルドに所属する冒険者を対象に行われた身体検査の結果が…」
支部長さんは、わたしと面談したときに話してくれた身体検査の統計を引き合いに出して説明を始めました。
アンジェリカの隣の空席に座って一息つきました。枝豆を入れたバッグを抱え、まだ見ぬ数々のサンドイッチを想像してしまいました。たっぷりたまごサンド、シャキシャキなレタスサンド、ローストビーフ、パストラミビーフ、ハニーチキン、アボカド&シュリンプ、BLTにツナマヨにハムにチーズ…あう、よだれが湧いて止まりません。へへ、へへへ…。
「ちょっと!はしたないでしょ!うちのメイドとしての気品を保ちなさいよ!」
「お、おお、失礼しました」
アンジェリカに小声で怒られました。メイドったって格好だけのはずなのに、すんなり従ってしまうわたし。
「ったく、荷物も下に置きなさいよ」
「あ、それは…」
アンジェリカは有無を言わせずわたしのバッグをつかんで床に置きました。そのときにバッグの中身が見えたようで、枝豆を一つ手に取ってじっと見つめます。かと思うと、枝豆のさやを丸ごと口に入れました。すわ驚くと、すぐにぺっぺと手のひらに吐き出しました。
「汚ったな!あんたこそお嬢様としての気品を保ちなさいよ!」
「何よこれ。食べられないじゃない」
「ちゃうちゃう、皮は食べないの。こうやって…」
わたしも枝豆を一つ持って、皮の上から実を押し出して口に放り込んでみせました。うん、やっぱり美味しい。
アンジェリカも見よう見まねでさやを押します。ところが、さやを口に向けていなかったものですから、さやから飛び出た実はテーブルの中央に着地しました。
「あ…」
すっ飛んだ実を目で追うと、皆さんがくすくす笑っています。支部長さんの呆れた目が大学の先生を思い出させます。授業中に友人と小声でしゃべっていたらいつの間にか声が大きくなり、気がつくと教室がしーんと静寂に包まれており、黙って教室の扉を指差した先生の目が懐かしいです。
「気楽にやろうとは言ったが…まあいい。それで、この緑の実は何だね?」
支部長さんが枝豆を拾い上げたのを見て、葵さんがびっくりして椅子をがたっと揺らしました。
「まさか…枝豆!?枝豆なのね!」
「知っているのか、アオイ君?」




