チキンメイドの憂鬱
枝豆パワーで胸を張って歩き出したのも束の間、ギルドに近づくとみるみるうちに足取りが重くなりました。
だいたい、枝豆があるから何だってんでしょうか。歴史的にほぼ日本人しか食してこなかったらしいただの成長途中の大豆です。大豆と同じ重さで比べると栄養成分は半分にも満ちませんが、殻が固くて食べにくい大豆よりもずっと食べやすく、美味しくてたくさん食べられて、ビタミンCも気持ち摂れ、メチオニンという成分がアルコールの分解を助けるというただの豆です。
ギルドに着いた頃にはすっかりメランコリックでアンニュイな気分でした。就職活動ってこんな感じなんでしょうか…。
ギルドに入って受付の葵さんの前に立つと、葵さんがよそ行きの営業スマイルで迎えてくれました。いまさらわたしに気を遣わなくてもいいのに、ちょっと違和感があります。
「あら、マクミラン家のメイドさん。アンジェリカにご用ですか?ただいまアンジェリカは会議室…あら?もしかしてりぼんちゃん?」
「ど、どうも…」
どうやらわたしを本職のメイドさんだと勘違いしたようです。メイド服パワー恐るべし。
「かわいいじゃない!よく似合ってるわ」
「勘弁してください。二十歳にメイド服はきっついですよ」
「いくつで着ても何もおかしくないわよ?ここじゃメイドは普通の職業だもの。あっちのメイド喫茶だって二十歳くらい普通よ」
「わたし的になしですよっ。穴があったら入りたい…」
「本音は?」
「ちょっと気に入ってます」
「ふふ。ところで、それはマクミラン家のメイド服よね?どうしたの?」
「はい。止むに止まれぬ事情がありまして…。支部長さんに呼ばれて来たんですけど、支部長さんはいずこに?」
「ちょうど揃ったところよ。会議室に案内するわね」
揃った?嫌な予感しかしません…。
「ここよ。さあ入って」
案内された2Fの会議室の扉は、これぞ西洋というデザインのマホガニー製でした。葵さんは少しくすんだ真鍮のドアノブを慣れた手つきで押し開いてわたしを招きました。
「失礼しま…」
必要もないのに頭を下げて足を踏み入れた途端、多数の期待の眼差しを浴びて、一気に足がすくみました。支部長さん、秘書のクリスさん、フランツさん、葵さん、なんか偉い人っぽい職員さんが数人、そしてアンジェリカ。大きなテーブルを囲んで座っています。錚々たる面子(顔見知りばかりですけど)が勢揃いです。
たじろぐわたしに支部長さんが笑顔で声をかけてくれました。
「おお、待っていたよ。そう固くならないでくれたまえ。ここにいるのは、りぼん君の仕事に興味がある人たちだ。肩の力を抜いて気楽にやろう」
「うちのコーヒーとサンドイッチの出張サービスもあるぜ。終わったら用意するから、楽しみにしててくれよな」
ウエンツのサンドイッチ…テンションが上がってきました。つい数秒前までビビっていたのが嘘のようです。我ながら現金なものです。




