日替わりのキッシュ〜栄養バランスを添えて〜
「キッシュは残ってる?」
「はい、ございます」
ん?キッシュとな?
「なら、キッシュとカフェラテをお願い」
「ねえ、キッシュってなに?」
「タルト生地の器にクリームや野菜を入れて焼いた料理よ」
「それは知ってるから。そうじゃなくて、キッシュなんてメニューに書いてないじゃん」
「日替わりで数量限定だからよ。入口の黒板にメニューが書いてあったでしょ?今日のキッシュはほうれん草だって」
「気がつかなかった…。数量限定なの?」
「はい。キッシュを焼くと30分はオーブンを占領してしまうので、開店前に一日の分をまとめて焼いています。当店の人気メニューでして、お昼前に売り切れてしまう日が多いですよ。今はまだ余裕がありますので、おひとついかがですか?」
「お願いします!あとわたしもカフェラテで」
「かしこまりました。キッシュとカフェラテを2つずつですね」
キッシュとカフェラテはすぐに運ばれてきました。キッシュはホールサイズを6等分に切った三角のピースで、Mサイズのピザ1切れ並のサイズです。思ったより大きくて、アンジェリカは食べ切れるのかな?と疑問を抱くも心配は無用だったようです。キッシュの生地は重いタルト生地ではなく、さくさくと食べられるパイ生地で、卵とクリームとチーズのアパレイユ(器に入れる中身)はスフレのようにふわふわです。ほうれん草の苦味がアパレイユにアクセントを添えています。
「ん〜、キッシュ美味しい!毎日来て日替わりを楽しもうかしらん」
「あら、チーズは苦手なんじゃなかった?」
「チーズフォンデュで使うグリュイエールチーズって種類でしょ?これだけは平気なんだ」
「つまらないの」
こいつは…。まあ、気を取り直して。
「美味しくて、栄養的にももってこいのメニューだよ。牛乳とチーズと卵で第1群、ほうれん草で第3群、パイ生地が第4群。これでたんぱく源があれば完璧。…
そうか、豆乳を使えば…」
「そうそう、それよ。昨日の夜も第何群がどうとか何点とか、栄養の計算をしていたでしょ?さっきギルドに行ったとき、たまたま伯父様がいたから話したのよ。そうしたら興味津々で、りぼんに栄養について講義をして欲しいと頼まれたの」
「講義!?わたしが!?」
「あなた以外に誰がいるのよ。さっそく今夜に頼むわね」
「…はあ?今夜?嘘でしょ?」
「本当よ。伯父様はあなたのために新しい職種を設立したけど、まだ誰一人としてあなたの仕事内容を知らないのよ?クエストで忙しくなる前に説明しておいたほうがいいわ。今やらなくていつやるのよ。今でしょ?」
「で、でも、ちょっと性急過ぎやしませんか…」
「あなたの国では『善は急げ』と言うらしいじゃない。なにも取って喰おうとはしないから気楽にやりなさい。ま、取って喰う部位もないけど」
「お前に言われたくねえよ」
長いため息を吐いて、黙々とキッシュを平らげました。あまり味がわかりませんでした。
…なんだか、このお店に来るとため息を吐いてばかりの気がします。




