ミスター・ブラウンの相談
わたしとブラウンさんは玄関ロビーに場を移しました。 玄関ロビーは大きなランプが両側の壁にかけられており、宿の中で最も明るい場所です。
「今日はありがとうございました」
ブラウンは深々と頭を下げられました。
「い、いえいえ、こちらこそお二人にお世話になりました、はい」
わたしも負けずにへこへこと何度もお辞儀を返します。
「オリバーがあんなに食べたのは久し振りです。以前は人並みによく食べる子供だったのですが、妻が出て行ってからはめっきり食欲が落ちてしまったようで…。ごらんのように痩せてしまい、外で遊ぶ体力もなくなって、友達とも疎遠になってしまいました。それが昨日今日と、りぼんさんのおかげで活き活きできました。本当に感謝しています」
「いえいえいえいえ」
真正面から真面目に感謝されることに慣れていないわたしは、再びへこへこと何度も頭を上げ下げするしかできません。
「それで相談というのは、もしよろしければ、今後もオリバーに仕事を与えてはいただけないでしょうか。どんな小さな仕事でも結構ですから、熱中できることを見つけてやりたいんです」
「仕事…ですか?オリバーくんはお父さんのお役に立ちたいようですけど、宿の仕事があるのでは?」
「実は、オリバーにできる仕事はあまりないんですよ。うちは力仕事や交渉事が中心で、事務仕事や菜園もオリバーにはまだ難しくて…。でも、今日のスプーンのような工作や、ダイズの収穫ならオリバーにもできるようです。報酬はいりませんので、一考していただけると助かります。うちのオーブンも自由に使っていただいて構いません」
ふむ。オリバーくんの手先の器用さはわかりましたし、地味で根気のいる収穫作業も向いてそうです。これからわたしもアンジェリカの付き添いで宿を離れる日が多くなりそうなことを考えると、収穫作業だけでも任せられるとありがたいです。
というわけで、大豆の収穫作業のお手伝いをお願いしました。
「ところで、オリバーくんとブラウンさんの苦手な食べ物や体質的に食べられないものはあります?」
「オリバーもわたしも基本的に好き嫌いはありませんが、オリバーは体質的に食べにくいものがいくつかあります。お腹が弱くて、牛乳と生野菜を食べるとお腹を壊しやすいですね」
「なるほどなるほど。オーブンを貸していただく日は、お二人の食事も作らせてください」
「しかし、そこまでお世話になるには…」
「二人分作るのも四人分作るのも変わりませんよ。というか、自分達の分だけ作って失礼するのは気が引けると言いますか…」
「ありがとうございます、それでばお言葉に甘えさせていただきます。わたしにも手伝いが必要であれば、遠慮なく申しつけください」
ちょうど話が終わって、オリバーくんが駆けつけてきました。わたしとブラウンさんを交互に見て、お湯が沸いたと知らせてくれました。明日も大豆の収穫を手伝ってもらえるかな?と聞くと、やる気満々にうなずいてくれました。自分が人の役に立てるのが嬉しいと言った感じです。もしかすると、相手がお父さんでなくてもよかったのかもしれません。
オリバーくんはアンジェリカのティーセットとトレイまでしっかり用意してくれていました。わたしも嬉しくなって、適当な鼻歌交じりで部屋に戻りました。




