071 Rinnovo di un contratto
「菓子を用意していなかったな」
「それより、契約の話しはどうなったんだよ」
「菓子を食べながらでも良いだろう。それに夜は長い……時間はたっぷりあるでの」
アッシュは大皿をテーブルの上に置いた。大皿には三日月型のドーナツらしき物が五個乗せられている。
「なんだこれ?」
「キプフェルである。オーストリアの伝統的な菓子だよ」
「へー。キプフェルか」
聖人はキプフェルを人指し指と親指で挟んで、持ち上げた。
「食べてみるがいい」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
キプフェルを口の中に放り込んだ聖人。すると、聖人の脳内に電撃が走った。
「う、う、う、美味い!」
「だろう」
アッシュは自慢気な顔でニヤけた。
「サクサク食感と口の中に広がる甘い香り……絶品だ!」
「おかわりはたんとあるぞ」
「いただきまーす!」
両手でキプフェルをわし掴みにして、二個のキプフェルを同時に口の中に入れた聖人。
むしゃむしゃと頬張って食べる姿は、まるでハムスターの様だった。
「ゲフ……ごちそうさま」
あっという間に五個のキプフェルを平らげた聖人。
「すっかり、気に入った様であるな」
「あー。もっと欲しいぜ」
「すまん。キプフェルはあれで最後だ」
「マジかよ」
素直に落胆する聖人は、喉の乾きを感じて、レモンティーを飲み干した。
「それで、契約の話しであるが」
「そうそう契約だよ契約」
さっきまで、ご機嫌だった聖人が、いきなり不機嫌な顔に変わった。
「何か不都合でもあったかの?」
「家族が欲しいってお願いしたのに……いっこうに増える気配が無いぞ!」
「家族なら増えたではないか」
「え、増えたか?」
「目の前にいるだろう」
アッシュが胸を張って、言ったのだ。
「はい?」
「ペットという家族が増えただろう」
「誰がペットだ。お前は使い魔じゃねぇか!」
「貴公は……こんなに可愛らしい猫を家族と認めぬというのか」
「自分で言うなよ」
「じゃが、実際にクラスの女子達にも人気である」
魅惑のハーレム現場を堂々と自慢するアッシュ。アッシュは休み時間に女子達に全身を触られて喉をグルグルと鳴らしていた。
「それはお前が猫だからだろう」
「認めたな。吾輩が猫だと」
「猫とは認めたけど、お前がペットだとは認めてないぞ」
「いいのかな?」
「何が」
「夜中にこっそりコンビニ弁当を食べていた事を神代に言ってやろうかの」
アッシュは切り札を出した。さすがの聖人も、これには太刀打ち出来ない。
「ぐぐぐ……!」
何か言いたそうに口を動かす聖人であったが、肝心の声が出ていない。
「分かったなら契約更新といこうか」
「仕方ない」
諦めた聖人はその場で項垂れた。
「吾輩が黙っている変わりに、貴公は吾輩に猫缶を差し出したまえ」
「いくらだ?」
「七個」
「七個だと! 一日で?」
「そうである」
「そんなの横暴だ」
聖人は椅子から立ち上がった。
「落ち着け、口止め料としてなら安い方であろう」
「ド畜生め」
「では、契約成立だな」
アッシュと聖人が握手を交わすと、二人は光に包まれて、現実世界に戻っていった。




