042 真実は深遠の底に
全てはラストラッシュの思惑通りである。
霧登風華を拐い、身代金を要求する……そんなチンピラが思いつく程度の真似はしない。大強盗で知られるラストラッシュは、常に大局を見ていた。
「他人以外は誰も信用出来ない、真実は心の底に閉まっておけ」そう、恩師の『40日』に教えられた論理を、奇しくも悪の道で活かしているラストラッシュであった。
そして、渦中のラストラッシュは盗賊ギルドのバーカウンターでウィスキーを嗜んでいた。一本三百万もする特注品だ。
ラストラッシュが仕事一回で稼ぐ金は、最低でも一億。一億以下の仕事は受けないのだ。
よって、三百万のウィスキーなど、彼にとってはお手頃な値段なのである。
「I feel so good(最高の気分だ)」
酒に酔っているのでは無い。世界に酔っているのだ。
そういった感覚はラストラッシュが酒を飲む時に一番大切にしている物である。
「ラストラッシュ兄貴」
自分の名前を呼ばれて振り返ると、クドラクとハリティーが、なんともいえない悲しい表情を浮かべていた。ラストラッシュは瞬時に「任務に失敗したんだな」と悟った。
「いかがなさいましたか?」
そうと分かっていても、ラストラッシュは笑顔で子供達を出迎えた。
「エルレウス取れなかった」
「ごめんなちゃい」
今にも泣きそうな顔で喋る二人。そんな二人の頭を優しく撫でたラストラッシュ。
「大丈夫ですよ。人間は失敗して学ぶ生き物ですから」
「兄貴……」
二人は感動して言葉も出なかった。それと同時に、このような寛大なる兄貴を怒らせた日には……と心配して、武者震いをしてしまう。
「今日は遅いですし、嫌な事は寝て忘れましょう」
「その前にさ」
クドラクが急に表情を明るく変えた。
「あたち達ね、喋る使い魔見ちゃった!」
「姉ちゃん。手柄横取りするなよ」
「それは本当ですか?」
目の色を変えたラストラッシュ。それは、所謂盗賊の目であった。
「嘘なんてつくもんか」
「そうよ! あたち達本当に見たんだから」
「………………」
このギルド内で、喋る使い魔がどういう意味を表すのか、それを知る者はラストラッシュしか居ない。
よって、ラストラッシュはこの真実も心の中に閉まい込む事にした。
「貴重な情報をありがとうございます」
御礼は忘れない。ラストラッシュの信条である。
「どういたちまして」
「兄貴の役に立てて良かったぜ」
二人は最後に「おやすみ」と言い残して、寝室に向かって行った。
一人残ったラストラッシュは、ウィスキーを再び口に入れた。
いつもより多めにだ。「今日は寝ずに飲んでも構わないであろう」と思うラストラッシュであった。




