楽師トールの絶唱
広場で集結したデーン人たちは、どうやら港までの間を、当たるを幸いなぎ倒す勢いで駆け抜けたらしい。鎧のない平服の胸や腹、首元などを無残に突き破られた遺体があちこちに倒れているのが目に入った。装備などから見てウェセックスの農民兵だ。
「村の皆はまだ無事みたいだな」
遺体はごく狭い範囲に集中している。幅4mほどの、帯状。ちょうど大蛇が通った跡になぎ倒された木々が散乱しているといった様相だった。
「スルズモルズ! 俺に力を!」
喧騒の中でもはっきり聞き取れる声。その方向へ体ごと視線を向けると、敵の盾壁に巨剣を振るって突進する姿があった。
「ホルガー、無茶だ!」
完全な盾壁は、敵の攻撃一つを盾四枚ないし五枚に分散させて受け止める。勢いを殺された相手を弾き返し、剣や槍で突き、斧で断ち割るのだ。通常は一個人で突破できるものではない。
だが、恐るべし! ホルガーの剣は一度に三枚の盾を割り開き、返す一振りで二つの首を斬り飛ばした。盾壁からどよめきが上がり、壁がわずかにまた後ろへ下がった。
「無茶でもなかったか……」
驚愕と安堵が俺の胸を灼く。あの男は心底、規格外だ。
盾壁の穴はすぐに左右からふさがれた。だがホルガーの武勇に奮い立ち、アンスヘイムの男達が槍を並べて突進した。手に持っている槍はどうやら、周囲で倒れた農民兵の装備だったものだ。
「それ、死者の怨念が宿った槍を食らいやがれ!」
ハーコンの槍がデーン戦士の眼窩を貫き、穂先が後頭部へ突き抜けるのが見えた。脳漿と血しぶきが後方に撒き散らされ、後詰めの位置にいた男が朱に染まって絶叫を上げる。
だが、それは無残な結果を呼んだ。骨に食い込んだ槍が引っかかり、ハーコンの退避がやや遅れたのだ。盾壁の後ろから投げ込まれた手斧が彼を撃った。
「従兄者!」
グンナルが悲鳴を上げる。
ハーコンの顔面、左目の辺りから下顎にかけてに斧の刃が食い込んでいた。どう、と倒れて斧がはずれ、転がった。
アルノルが叫んだ。
「グンナル、従兄貴を連れて下がれ! フォカス殿に診せろ!」
「し、しかし!」
「ここは任せて、行け! ゴルム爺様のただ一人残った息子を死なせるな!」
「クソッ、分ったよ!」
涙を浮べて髭面がゆがむ。
「まだ息はある。流石だな従兄者……」
俺はイレーネを振り返った。
「彼をフォカスのところに案内してやってくれ。一刻を争う」
「分った、任せてくれ!」
踵を返したイレーネはグンナルを追って走った。乗馬服の後姿が松明に照らされたオレンジ色の闇の奥へ消える。
盾壁に視線を戻す。斧を投げた男の姿が俺の目を射た。右頬に傷のある、左右の目が不釣合いな顔の男。
「ローガランのエイリーク……!」
シグリの仇。
「エイリークだと?!」
ヨルグが吼えた。
「『焼き討ち』エイリークか? スネーフェルヴィクを焼いた!」
その声はエイリークに届いたらしかった。
「俺の二つ名を知るものがこの地にいたか! その通り、俺はローガランのエイリーク! ランダベルクの『焼き討ち』エイリークだ!」
「貴様かッ!」
ロルフが叫んだ。その声を芯に集まるように、アンスヘイム勢の怒号が上がる。
「『焼き討ち』エイリーク! 焼いては逃げる卑怯者!」
「『竜骨の娘』の親仇が!」
竜骨の娘。それはアンスヘイムの男達がシグリに冠した二つ名だった。彼女が乗せられて焼き討ちを逃れた、古いカーヴの竜骨を使って、村の新しいクナル『大山羊号』が建造されたことに由来して名づけられたものだ。
「なにやら俺に因縁が有るようだが、貴様らの顔には覚えがないな! 相手をしている暇も相手をする気もないわ、せいぜいそこで吼えておれ!」
叫ぶと、彼は数本の手斧を腰の辺りから取り出して次々に投擲した。
「それッ、それッ! こいつは兜の支え(頭)を容易に打ち割るぞ、命が惜しければ退くがいい」
その叫びを合図に盾壁がばらりと解け、敵の戦士たちはこちらに盾を構えたまま、器用に後ろ向きで走り始めた。
アンスヘイムの男達はといえば、飛来した手斧を盾で防いだために、後退する敵を追撃するタイミングを絶妙に狂わされていた。
「あの船を出港させるな! 軍船を出して進路をふさげ!」
アルフレッドが号令をかける。だが、ようやく船に乗り込んだ兵士達がオールにつき、漕ぎ出したときには、エイリークを乗せたクナルはすでに港の外周にある突堤を越えようとするところだった。
「ええい、畜生! 鎖蛇号が我らの手に戻っておれば!」
「嘆くな。ここに鎖蛇号があったら、エイリークがあれを持ち逃げしたかも知れん」
アルノルがホルガーを宥めるが、その目はどこかうつろで、心ここにあらずといった様子だった。遠縁のハーコンを案じていたのだろう。
軍船はしばらくクナルを追跡したのだが、明け方に戻ってきた。
「なんとなれば夜のこと……小回りの効かない長い船では、ウェアハム水路の入り組んだ場所を通り抜けかねたのでござる」
船団を指揮していた士官は、唇をかみながらアルフレッドに報告した。
「仕方ありません。船一隻は惜しいが、デーン人どもを全員乗せられるわけでも無し…あなたの失策ではない。今後も忠勤を期待しています」
士官は無言で頭を垂れた。
気にかかったのは、クナルの進路だった。ウェアハムへ向かってフルーム川をさかのぼるかと思いきや、エイリークたちはウェアハム水路をさらに東へ向かい、いわゆる英仏海峡へ抜けたらしいのだ。
「逃げたのか……まさか、デーン陣営を見捨てて?」
「奴はノースで、デーン人にとってはよそ者だ。ウェアハムのあの状況では、見限って逃げるかもしれませんね。付き合う理由がない」
オウッタルはそう分析した。
「逃げたのなら仕方ない。せいぜい笑ってやるまでよ」
「いずれ運命の手が奴を我らの前に召しだすこともあろう」
運命論が色濃くはびこるヴァイキングたちの間では、この手のことには比較的淡白だった。
「口惜しいのはハーコンの傷だが……トール、フォカス殿は何と?」
俺に話題が振られる。フォカスの元で手当てを受けるハーコンには、このとき、イレーネとグンナル、それにロルフが付き添っていた。
「何とか命は取り留めそうだといっていた……左目は光を失うことになるだろう」
「ならばよし、命があればどうと言うことはない」
ホルガーは晴れやかに笑った。父をなくし、従兄夫婦を亡くした彼にしてみれば、死以外には決定的な絶望はないのかもしれない。
「従兄貴もいい歳だ、そろそろ畑に専念してもよかろう」
アルノルが年上の縁者の行く末をひどく軽々しく占った。
「ああ、しかしなんとも寂しいな。これで来年のヴァイキング行に参加できぬ者が三人になったか」
オーラブがしみじみと呟く。かつてサムセー島沖で矢傷を受けた彼にしてみれば、事によっては自分もと云う思いが胸中にあるのだろう。
「……掠奪にならないのなら、ロルフは参加するだろうさ」
「そいつはこちらの意志だけでは決められんのだ、トール。目的地が交易都市だけに限らないのであればな」
ロルフへの擁護はホルガーによってばっさりと切って捨てられた。だが、それよりもさらに手痛い一言が、オウッタルの口からもたらされた。
「忘れては困る。あなた方、来年は戦争ですよ……ノルウェー統一の」
「む……」
そうだった! アンスヘイムは蓬髪王ハラルドの戦略に組み込まれ、来年になれば目下クラウスたちが建設中の軍港に付随する拠点となって、征服に加担するのだ……次は一体、何人生き残れるのだろう?
今年の勘定書きも定まらないうちに考えることでもない。そんな考えが不意に頭に浮かんで、俺は苦笑せざるをえなかった。
「明日は剣を振るう必要のない戦いだ。ハーコンにはゆっくり体を休めてもらうさ」
「いよいよ、あれをやるのか。まあ、我らが楽師殿のやることだ、きっと首尾よく行くだろうて」
事前に俺の説明を聞いたアルノルが、にやにやと笑った。
「ジョン・レノンにもボブ・ディランにも、誰にも出来なかったことだ。だが、この時代、この場所でなら――」
「誰だ、そりゃあ」
俺の呟きに混じる聞きなれない人名を聞きとがめて、誰かが混ぜっ返した。
「蒔いた種が花開くところまで、見届けられるかもしれない」
もしそれが叶うなら。いや、叶えなければ。イレーネをアンスヘイムに迎えて暮らすために。俺達の幸せのために。
いまこの地にある、全ての者の幸せのために。
翌日、ウェセックス軍とアンスヘイムヴァイキングの一団、そして俺とイレーネは、再び軍船を連ねてウェアハムに上陸した。西側、正門のある方角へ。
修道院はがっちりと堅く門を閉ざし、何者の侵入も許さない構えに見えた。いや、むしろ何者の脱出も許さない、と言うことかもしれない。助勢を約束して同行していたエイリークの離脱は、彼らの心胆を単なる人数以上に寒からしめたことだろう。
「デーンの首領、いや、デーン王グソルムよ!」
アルフレッドが叫んだ。デンマークはごく小さな王国が複数並立する、緩やかな連合国家だ。
グソルムは単なる武装集団の長=首領ではなく、そうした小王の一人だという情報がもたらされていて、アルフレッドはそれに従って対陣相手への敬意を示したのだった。
「ウェアハムから手を引き、我らの神、主イエス・キリストに仕える修道女達を解き放て! 昨日の通告の通り、余らにはそなたらを臣民として遇する用意がある! 血を流し畑地に骨肉をばら撒かずとも、耕作地と定住の暮らしは手に入るのだぞ!」
応えはない。
「よかろう……フィンの楽師トールが、お前達に捧げる歌と舞踊を用意した! それを見てもう一度考えるがいい」
アルフレッドは兵士達が固めた隊列の内側へ退いた。
バン ババババン バン……
ウィリアムの叩く太鼓が低く響いた。銅の太い響線を張った小太鼓がいくつか用意され、打ち寄せる波のようなざあざあと響くドラムロールが奏でられる。
「おお、畜生。いまになって膝が震えてきた」
「頑張れ! 僕がついてる。一緒に歌わせてくれるんだろう?」
「ああ、頼むぜ」
オウッタルの角笛がジークフリードのテーマ(改)を高らかに鳴らす。
俺の周りにいた兵士達が幕を開けたようにさっと遠ざかり、右手から光の差し込む草原に俺は一人立たされた。ええい、ここが一世一代の正念場だ!
俺は故郷をなくした男
貧しく 飢えて 寄る辺なし
行き交う人のありふれた
荷物が俺の目を奪う
お前が持ってるその宝 俺によこせよ必要なんだ
焚き火の上で焼ける肉 貰い受けるぞこの剣で!
サウサンプトンの宿でイレーネとつむぎ上げたあの歌。
『Let's Share our Lack and Life(我らをして生命と足らざるものを分かち合わせ給え)』を、俺はウードをかき鳴らし、吼え謳った。
1パート目の歌詞が終わるところへ、アンスヘイムのヴァイキングたちが行進してくる。盾を左に構えて列を成した、船上での配置を連想させる姿で。俺の斜め後ろに正面を向いて立ち並び、問答歌の返答部を雄々しく歌い上げる。
(待てよ兄弟 その手を下ろせ
船にはまだまだ席がある
乗れよ 行こうぜあの海へ
肩を並べて 漕ぎ出そう)
俺には足りないものがある
余っているなら分けてくれ
この時代へ来て、言葉も通じずフリーダの後について駆け回った日々が思い起こされた。あの頃の俺には足りないどころか何もなかった――何もないと思っていた。
(お前に足りないものがある
余りは無いが分け合おう)
だが、あの時まさに、フリーダは、インゴルフは――アンスヘイムのヴァイキングたちは、俺に生きるための必要な全てを与えてくれていたのだ。
届かぬ夢と膝折る前に オールを掴め、もう一度!
(バン! ババババン!)
ウィィリアムの太鼓が歌の一幕を締めくくった。
アルフレッドだろうか? バグパイプが鳴り響く。ウェアハムへの行軍の間に思いもかけず生まれた、間奏のスリリングな響きと展開が、ドローン(持続音)管のどこまでも続く全音符の上に繰り広げられた。
イレーネが進み出る。俺の隣、だが少しだけ距離を開けて。
頭上には翼飾りの兜の代わりに、花嫁のベールを模したような白く薄い布を載せていた。右手には槍ではなく、麦の穂やラベンダー、ライラック、それにマロニエの白い花をつけた枝――それらをまとめた武器めいた長さの花束。
張りのある声で歌いだす。サウサンプトンの浴室で聴いた、あの良く響くアルトだ。だが今の彼女の声は、わずかな緊張と気負いが内側からの圧力を与え、あの日の何倍も美しく輝く、力強い歌となった。
私は故郷に戻れぬ女
孤独に 疲れて 老いてゆく
佇む人妻 その腕に
眠る嬰児に眼をそらす
これは修道女達を勇気付ける歌となるだろう。歌詞の中の『私』は、身分あるがゆえに修道院での生活を余儀なくされた幾人かの女性達と、さほど変わるところはない。
放浪と幽閉。社会の中で人と交わって生きることのままならない暮らしと云う点で、そこにどれほどの違いがあるか?
私が求める幸せは 誰かの書いた本の中
囚われ朽ちる定めなら 終わりにしようかこの剣で
ヴァイキングたちが再びコーラスを始める。俺はイレーネに歩み寄り、花束を手にしたその腕をとり、俺から見て左側へ高々と持ち上げ、そのまま口づけんばかりに抱き寄せた。
(待てよ姉妹よ その手を下ろせ
この世はまだまだ楽しめる
遠くを見るのに 疲れても
隣の誰かに 気づくはず)
イレーネは少し頬を染め、俺の抱擁をすり抜けて後ろへ下がると、ヴィブラートがかかった声で柔らかく歌った
私に足りないものがある
――余っているなら少しだけ
俺の答えは変わらない。たとえ千年の時間を共に、飽きるほど暮らしたとしても。俺の答えが、変わることはない。
(お前に足りないものがある
余りは無いが全部取れ)
命でも何でも、必要なものはすべてくれてやる。ヴァイキングたちもそれを祝福してくれる! 俺は再びイレーネと手を取り合い、皆に囲まれて――皆と共に歌った。
逃げるも追うもつまるは同じ 娘に還れ、月桂樹!
ウェアハムからは何の反応もなかったが、俺は直感していた。
彼らは見ている。聴いている。
グソルムが、ミルドレッドが、アルフレッドの姉エセルスリスが、きっと俺達の歌とダンスを、息を潜め耳を澄まし、目を見開いて見ているはずだ。ならばこそ、伝えなければ。最後まで、歌わなければ!
(我らは故郷を 求める仲間
眼差し交わし 手をのばす
言葉も肌も 似つかぬが
等しく食らうはパンと酒)
ヴァイキングたちの勇壮なコーラスから抜け出し、今度は俺とイレーネが歌い交わす。互いの肩と腰に腕を廻し、波濤の中にそびえる岩のように、堅く抱き合って。
お前の求める幸せを 俺にも隣で見せてくれ――
――路傍に凍える孤児を 抱き上げ歌おう、この歌を!
彼女の声帯が起こす振動が胸の中で共鳴し、俺の心臓へと伝わる。腕の中に彼女の存在を感じる。俺に与えられた奇跡。
カシッ
シンバル代わりの金物の音を合図に、演奏と歌が凍りついたように止まる。急遽付け加えたアレンジだが、鳥肌が立つほど綺麗にタイミングが合った。
そして、一拍置いて怒涛のように再開する。ウィリアムが激しいフィルインを叩き込み、あらかじめ練習に参加していた兵士達が、全員で加わった。
(進め兄弟 いざ帆を上げて
船にはまだまだ席がある
彼方に見える あの大地
肩を並べて 降り立とう)
我らに足りないものがある
余っているなら分けてくれ
(我らも足りないものがある
酒盃掲げて分け合おう)
愚かな夢とそむけた眼には 決して映らぬ花を知れ!
歴史を知るものの傲慢といえばその通りだが――知っているからには伝えないわけには行かない。共生と共存の可能性を。交流とその中からはぐくまれる、愛と友情の可能性を。
たとえ歴史の流れが俺達を同じ河口へ導くとしても、その中で傷つき沈んで脱落する者を少しでも減らせるものならば、減らしたいと俺は願う。
愚かな理想主義者とあざ笑われてもいい、だが理想を顧みようともしない者の手に、よりよい未来が掴みとれるとは俺は決して信じない。
届け、届いてくれ。
届いてくれれば、俺はこの時代に流されてよかったと本当に思えるだろうから。
演奏が終わった後、兵士達は分列行進を繰り返し、やがてアルフレッドを中心に整列して修道院に正対する陣形を整え上げた。
俺とアンスヘイム勢はその斜め前にやや雑然と整列し、修道院側に何か動きが出るのを待ち受けた。
オウッタルが俺の隣に来て、少し腹立たしげに呟いた。
「やれやれ……あなたは恐ろしい男だ、トール。こんなものを見せられては私としても決意が鈍ってしまう」
「ん? 何の話だ、オウッタルさん」
「デーン人とサクソン人の間に和解と平和が実現する……それも歌で! そんな可能性をちらつかされては、自国内の戦争など実にやりにくくて仕方がない。まあ、商人オウッタルとしては大いに愉快でしたが」
「……どういう意味だ」
「ああ、じれったい。頭が切れてよく廻る割りに、肝心なところで鈍感だな、あなたは! まだ分ってなかったんですか!」
オウッタルはいつもの色鮮やかなサーミ帽を頭から取り去り、たくし込んでいた背中までの長さの見事な金髪がなだれ落ちるに任せた。
「私はヴェストフォルの王、ハラルド。『美髪王』ハラルドだ。あなた方がトンスベルクで出会った『蓬髪王ハラルド』はつまり影武者。正体は、わが盟友メール侯ラグンヴァルドの息子、ロロなのだ」
何だって。その名前なら俺も知っている。ノルマンディー公ロロ!? まさかあの、どこかの特撮ヒーロー物のラスボスみたいなのが!?
それに美髪王ハラルド。その圧政がアイスランド植民のきっかけになったと伝説に残る、あの……
「なにやってんですか、あんた」
「……そう返されると確かに言葉もないな」
いやまあ想像は出来ますけどね。
「商人として自由に動くことで、ノルウェーを対外貿易とイングランドとの緩やかな同盟関係によって富ませる、とかそういうことですかねえ」
「……君のような男が謀臣として傍にいてくれればと願わずにいられんな」
「買いかぶりすぎだ。俺は『事例を少しばかり知ってる』だけのことです」
目の廻るような思いだ。ヘーゼビューでアストリッドに不埒な真似を働かなくて本当によかった! 要するにアレは王妃の誰かってことだろう。
俺がオウッタルのとんでもない告白に驚いている間に、修道院の防壁はその門を開き、グソルムが供回りの者達を連れて現れた。
――この日『ウェアハムの和議』が成ったのだった。
ここまでこぎつけたー!
まあなんだ、冷静に読めば噴飯ものでしょうが、「ばいめた!」はこういう話なんです。
オウッタルの正体は多分、今まで読んでくださった方の多くは「いまさら」だったことでしょうか。何度となく金髪ぶちまけたり帽子が王冠に見えたりとほのめかしてはいたわけで。