第六話 地球の命運
「でも、星ごと滅ぼされたなら……お前も一緒に消えたんじゃないのか?」
「アストラ人の中には、自分を別の星に飛ばせる奴がいる。俺はその力で、星が消える前に魂だけ地球に送り込んだ」
さらりと言ってから、ガウルは拓真を睨んだ。
「あと、お前じゃねえ。ガウルだ」
「あ、ああ……ガウル」
魂だけを、送り込んだ。
サラッと出てくる言葉はどれも理解が追いつかず、拓真の混乱は加速していく。
「本当なら、地球に着いた時点で自分の身体を取り戻せるはずだった。それが、お前と衝突することになってな」
「頭に……」
拓真は、思わず自分の頭に手を当てた。
「じゃあ、あの時……頭に当たったのって」
「俺だ。気づいたら、このザマだ」
「いやいや……ちょっと待ってくれ。俺の身体、乗っ取られてるってこと?」
「その逆だ」
ガウルは不機嫌そうに眉をひそめた。
「主導権は基本的にお前にある。多分俺が意図的に身体を動かせるのは、お前の意識が途切れた時と命が危ない時だろう。昨日みたいにな」
「命が危ない時……」
拓真は小さく身を震わせた。
「それと、昨日の頭痛。覚えてるか?」
「あ、ああ。急に、割れるみたいな激痛が……」
「アレは星衛軍が近くにいる合図になる。覚えとけ」
「いや……ちょっと待って」
拓真は、ようやく一番大事なことに気づいた。
「その星衛軍ってのが、なんで地球にいるんだよ?」
ガウルは、少しだけ間を置いた。
「話の流れで理解できなかったか? 決まってんだろ。次はここだ」
「ここって……」
「地球を滅ぼすつもりなんだよ。穢れが溜まっているとかで、あいつらの理屈でな」
部屋の空気が、しんと冷えた気がした。
あまりにも突拍子のない話だった。けれど、拓真には笑い飛ばすことができなかった。
昨日の出来事が、何よりの証拠だった。
ガウルは自分の手のひらを見下ろし、苛立たしげに吐き捨てる。
「言っておくが、お前の身体じゃ俺の力の半分も出せねえ。でもまあ、なんとかなんだろ」
「お、おい! なんかこれもう……俺が星衛軍から地球を守るみたいになってない!?」
するとガウルは、口角を上げて拓真を見た。
「お前は俺の力を借りて地球を守る英雄になれる。そして俺も、あいつらに復讐することができる。なにか問題でもあるのか?」
「……そんな、急にそんな話をされても」
ガウルが再びため息をついて、拓真を指さした。
「じゃあ、あのクソ猫を野放しにしてたらどうなっていた? それを阻止したのは誰だ?」
「でも、俺はガウルの力を借りただけで……だから別に。っていうか!」
拓真はガウルに、ずっと引っかかっていることがあることを伝える。
「あの猫が、言ってたよな」
「あ?」
「同胞を何人も殺めた、って。ガウルはアストラで……何をしてたんだ?」
ガウルの動きが、一瞬だけ止まった。
「……ただの喧嘩屋だ。アストラじゃ殺人なんて日常茶飯事だったぜ」
それきり、ガウルは窓の外へ視線を逸らした。
部屋に沈黙が落ちる。
テレビの中では、アナウンサーが淡々と次のニュースを読み上げていた。
拓真は、それ以上聞けなかった。聞いてはいけないような気がしたのだ。
少しだけ迷ってから、ぽつりと拓真は言った。
「毎晩、ご飯をあげてたんだ。あの猫に、何か月も」
項垂れている拓真を見て、ガウルは声をかける。
「それがどうした? ショックなのか?」
「あの猫……どうしてすぐに俺を殺さなかったのかなって」
「さあな、監視でもされてたんじゃねえのか。俺はあいつらのことはそこまで知らねえ。だがあの時、殺らなきゃ殺られていたぜ」
ガウルはそう言った。
だが、ガウルの言うことは正しいのかもしれなかった。
あのまま躊躇っていたら、死んでいたのは拓真の方だった。
それは、拓真にもわかっている。
すると、ガウルが再び拓真に声をかけた。
「で…お前、名前は?」
「拓真でいいよ。みんなそう言う」
「おう。わかったぜ」
その後、他愛もない会話が続いた。
そして筋肉痛とは違う痛みが、そこにはまだ残っていた。
あの猫を、自分の手で終わらせた感触が。
ガウルは何も言わなかった。拓真も、それ以上は何も言えなかった。
二人の間に、言葉にならない小さなわだかまりが残る。
そのとき、枕元に置いてあったスマホが震えた。
画面に表示された名前を見て、拓真は少しだけ息をつく。
修吾からのメッセージだった。




