王都レグリア
城門へ続く列は、近づいてみると想像していた以上に長かった。
荷を満載した馬車。徒歩の旅人。武器を背負った冒険者。隊列を組んだ兵士らしき一団。
それぞれがいくつかに分かれた入口へ進み、大きな門の向こうへ吸い込まれていく。
「近くで見ると、もっとでかいな」
エントは首を反らした。
遠くからでも十分大きく見えた城壁は、真下まで来るとさらに圧迫感がある。
石を積み上げた壁は左右へ長く続き、その上には一定間隔で見張り台が並んでいた。
「王都なんだから、これくらいあるでしょ」
セブンは特に珍しそうでもなく答える。
「前に来た時もこっちの門?」
「違うわよ。私は別の街道から来たから」
「ああ、そうだった」
「さっき言ってたでしょ」
「まだそこまで忘れてないって」
コリーが笑う。
「俺もこっちの門は初めてだな」
「じゃあ、この辺は2人ともそんな詳しくないのか」
「街の中ならある程度は分かるよ」
「私もね」
列が少し進んだ。
4人も前に合わせて歩く。
城門の下には兵士らしいNPCが何人も立っていた。
荷馬車の積荷を確認している者もいれば、何かを書き留めている者もいる。
ただ、冒険者らしい装備の者たちは比較的簡単な確認だけで通されていた。
「結構ちゃんとしてるんですね」
コンが周囲を見ながら言った。
「セレスタも人は多かったですけど、また違いますね」
「そりゃそうだろ。大陸で一番でかい街だぞ」
コリーが答える。
「そりゃ混むわけだ」
そんなことを話しているうちに、4人の番が来た。
簡単な確認を受け、城門を抜ける。そして――
「……おお」
エントはまた声を漏らした。
門の向こうには、街が広がっていた。
正面を通る大通りだけでも、リュネールの中心街より広い。
石造りの建物が何列も続き、その間を人と馬車が絶えず行き交っていた。
奥へ視線を向けても、街並みの終わりが見えない。
屋根の向こうには塔がいくつも突き出している。
店先に立つNPC。荷車を押す商人。道端で話している冒険者。装備姿のプレイヤーたち。どこを見ても人がいる。
「中もすごいな」
「リュネールやセレスタとは比べものにならないわよ」
セブンが答えた。
「とりあえず、エントとコンさんの登録からだな」
「うん」
「はい」
「場所は分かる?」
エントが聞く。
「こっち」
セブンが歩き出した。
◇
レグリアの街を歩き始めて、エントは改めてその規模を感じていた。
大通り沿いにはNPCだけでなく、プレイヤーもかなり多い。
装備を見ても種類がばらばらだ。
鎧姿の者。ローブ姿。大きな荷物を背負った者。武器を持たず、職人らしい格好をした者。
店先でNPCと話している者もいれば、通りの端でパーティーを組んで何か相談している者もいる。
「ほんとに色んなのいるな」
「王都だからな」
コリーが答えた。
「戦闘だけじゃなくて、生産とか商売目的で来てるやつも多いし」
「この辺りは特にそうね」
セブンが通りの向こうを指す。
そこには鍛冶屋らしい看板、その隣には革製品を並べた店、そのさらに奥には見慣れない意匠の看板が続いていた。
「西側は商人とか職人の店が多いのよ」
「へえ」
エントは少し足を緩める。
「後で見たいな」
「まず登録」
「分かってるって」
コンが小さく笑った。
少し歩くと、大通りが開けた広場へ出た。
広場の中央には、大きな転移結晶が立っている。
「あそこね」
セブンが言った。
「じゃ、行ってくる」
エントはコンと一緒に結晶へ向かった。
コリーとセブンは少し離れたところで待っている。
エントが転移結晶へ触れる。
薄い光が結晶の中を走った。
視界の端に表示が出る。
《王都レグリアの転移結晶を登録しました》
「よし」
エントは手を離した。
隣ではコンも登録を終えている。
「これで次からは転移で来られますね」
「リュネールとも行き来しやすくなるな」
「じゃあ、今度こそ街見ようぜ」
コリーが広場の先を見た。
「全部は無理だぞ」
「分かってるって」
「今度は本当に?」
セブンが聞く。
「たぶん」
「信用ないわね」
セブンは息を吐いた。
「とりあえず、川まで行く?」
「行こう」
「即決ね」
◇
転移結晶の広場を離れ、4人はアルディス川の方へ向かった。
大通りを進むにつれて、道の先が少しずつ下っていく。
建物の隙間から空が広く見えるようになった。
そして、風の匂いが変わる。
「水の匂いするな」
エントが言った直後、建物が途切れた。
「うわ」
目の前に、大きな川があった。
アルディス川。
川幅は、これまで旅の途中で見てきた川とは比べものにならない。
向こう岸までかなり距離がある。
水面には何隻もの船が行き交い、両岸には船着き場らしい場所も見えた。
そして川には、いくつもの橋が架かっている。
一番近い橋だけでも十分に大きい。
人だけではなく、馬車が何台も並んで渡っていた。
「これが王都の中を流れてるのか」
「そうよ」
セブンが答える。
「向こうが東側」
エントは対岸を見る。
こちら側とは少し雰囲気が違った。
遠目にも古そうな石造建築が多い。
屋根の形や建物の高さも揃っていて、そのさらに奥には王城らしき巨大な建物が見えた。
「雰囲気、全然違うな」
「向こうが昔からの王都側」
セブンが言う。
「王城もそうだし、古い建物は東側の方が多いわね」
「で、こっちが商売とか職人?」
「そういう感じ」
コリーが川沿いの道を見回す。
「冒険者が使う店も西側の方が多いんだよな」
「ええ」
「じゃあ俺ら、こっち使うこと多そうだな」
「たぶんね」
コンは橋の向こうを眺めていた。
「でも、向こうも歩いてみたいです」
「もちろん行こう」
「今日?」
セブンが聞く。
「……今日全部見るの無理そうだな」
エントは川沿いの先へ視線を向けた。
どこまで行っても建物が続いている。
橋も一つではない。
「やっと分かった?」
「でかいとは思ってたけどさ」
「だから大陸一の都市なんでしょ」
「数日いても足りなそうだな」
「数日で済む?」
コリーが笑った。
「店だけでも相当あるぞ」
「じゃあ、ちょっとずつ見るか」
川沿いの広場を通る。
古びた石碑の前で、NPCの親子が何かを話していた。
表面には、長い年月で薄れた模様が残っている。
エントは一度だけそちらへ視線を向けたが、そのまま歩き続けた。
「それより、腹減らない?」
「もう?」
コリーが聞く。
「せっかく王都来たんだから、なんか食いたいだろ」
「そっちね」
「いいですね」
コンが頷く。
「じゃあ店探すか」
「私は変な店に入るの嫌だからね」
「まだ何もしてないだろ」
「今までを見て言ってるのよ」
4人は川沿いを歩き始めた。
右手には広いアルディス川が流れ、その向こうには古い建物の並ぶ東岸の街並みが広がっている。
反対側には、商店や工房の看板がいくつも並んでいた。
同じレグリアという一つの都市なのに、少し歩くだけで景色が変わっていく。
エントは周囲を見回しながら歩いた。
まだ何があるのか、ほとんど分からない。けれど――
「ここも拠点にできるんだよな」
「まあな。いつでも戻ってこられるし」
コリーが答える。
「リュネールと行き来できるのはでかいな」
エントは少し笑った。
「いいな、それ」
リュネールを離れたわけではない。
新しい場所へ来たからといって、前の場所を捨てる必要もない。
行きたい時に行けばいい。
「じゃあ明日から何する?」
「もう明日の話?」
セブンが呆れる。
「まだ今日の飯も決まってないぞ」
コリーが笑った。
「それもそうだな」
エントも笑い返す。
4人は人通りの多い通りへ曲がった。
王都レグリア。
新しく増えた、もう一つの遊び場だった。




