戦いのあと
「エント、待て!」
コリーの声に、踏み出しかけた足が止まった。
木々の間を、盗賊の背中が遠ざかっていく。
「でも、逃げるぞ!」
「分かってる! けど追うな!」
反射的に追いかけようとした身体を止め、エントは周囲へ視線を走らせた。
さっきと同じかもしれない。
逃げるふりをして、追ってきたところを狙う。
木の陰。
茂みの奥。
弓を構えた仲間が待っている可能性。
だが――。
「……今度は本当に逃げる気っぽいな」
コリーが弓を構えたまま言った。
「でも、だからって追わなくていい」
盗賊の姿が木々の向こうへ消える。
「森ん中で追いかけたら、こっちが危ない。それに――」
コリーの視線が戻った。
エントもつられて振り返る。
「まだ終わってない」
「……だな」
盗賊頭が剣を構えていた。
その周囲には、まだ動ける盗賊がいる。
地面にはすでに何人かが倒れていた。
それでも、戦える者は残っている。
「逃げやがったか……」
盗賊頭が森の方角を一瞥する。
そして、すぐにエントたちへ視線を戻した。
「お前ら! 散るな! 固まれ!」
声が飛ぶ。
残った盗賊たちが反応した。
やはり違う。
今まで戦ってきたモンスターなら、仲間が逃げたからといって指示を出して態勢を立て直したりはしない。
「まだやる気みたいね」
セブンの前で、開かれた魔導書のページが淡く光る。
「もう結構倒れてるのにな」
「頭が立ってるからじゃない?」
コリーが矢をつがえ直した。
「たぶん、あいつがいるうちは動くぞ」
盗賊頭を見る。
戦いが始まってからも、何度も指示を出していた。
狙う相手を変える。
下がらせる。
回り込ませる。
逃げるふりまでさせた。
なら。
「……あいつを止めれば終わるか?」
「可能性は高いと思う」
コリーが答える。
「ただ、分かりやすく狙ったら向こうも分かるぞ」
「だよな」
エントは盾を前へ出した。
盗賊頭がこちらを見ている。
その横には剣を持った男が1人。
少し離れたところには、短弓を持つ盗賊。
さらにもう1人が、セブンたちの方へ回ろうとしていた。
「右、来る!」
ロアンの声。
槍が伸びる。
回り込もうとした盗賊が足を止めた。
その瞬間、盗賊頭が動く。
「行け!」
横にいた男がエントへ走った。
同時に盗賊頭は逆へ。
――セブン。
「また後ろ狙いか!」
エントは走り出した男を迎えようとして――止まる。
違う。
こいつを相手にしたら、盗賊頭が抜ける。
「コリー!」
「任せろ!」
返事と同時に矢が飛んだ。
盗賊が足を止める。
エントはそちらを見ない。
盾を構えたまま、盗賊頭へ向かう。
相手もエントを見た。
剣がわずかに下がる。
そのまま来るか。
受けるか。
避けるか。
エントは速度を落とさない。
正面から盾をぶつけるように踏み込む。
盗賊頭が横へ動いた。
――そっち。
「コンさん!」
「はい!」
光が生まれる。
「《ライトボール》!」
白い光弾が飛んだ。
狙いは盗賊頭の身体ではない。
進もうとした先。
「ちっ!」
盗賊頭が踏み止まる。
光弾が目の前を抜けた。
前にはエント。
横への進路は《ライトボール》に塞がれた。
盗賊頭が反対側へ切り返す。
「《ストーンバレット》!」
セブンの声。
魔導書から魔力が走り、ガントレットを向けた先へ石弾が放たれる。
「ぐっ!」
盗賊頭が剣で弾いた。
身体が止まる。
そこへエントが踏み込んだ。
「おらっ!」
盾と剣がぶつかる。
盗賊頭は受けた。
重い。
正面から押し切れる相手ではない。
エントはすぐに力を抜いた。
「っ?」
押し返そうとしていた盗賊頭の身体が前へ流れる。
エントは半歩ずれる。
盾の横を盗賊頭が抜け――。
「《ピンポイント》!」
矢が飛んだ。
「ぐあっ!」
矢が盗賊頭の腿を浅く捉えた。
体勢が崩れる。
倒れない。
盗賊頭は片脚を引きずりながら、それでも剣を振った。
エントは盾で受ける。
衝撃。
腕が痺れる。
「まだかよ!」
「舐めんな!」
盗賊頭が吠えた。
剣がもう一度来る。
エントは下がった。
追ってくる。
もう一歩。
盗賊頭も踏み込む。
――来た。
エントは盾を少し開いた。
隙。
そう見えるように。
盗賊頭の視線が動いた。
剣先がエントの胴へ向く。
踏み込み。
エントは盾を戻した。
「なっ――」
剣が盾にぶつかる。
同時に、エントは身体ごと前へ出た。
盾で剣を押し上げる。
盗賊頭の腕が浮く。
脇が空いた。
だが、そこへ剣先は向けない。
長剣を返す。
刃ではなく、腹。
「っ!」
剣を握る腕を打つ。
盗賊頭の手から剣が落ちた。
それでも男は止まらなかった。
空いた手でエントの盾を掴む。
「この……!」
「うおっ!」
引かれる。
エントの身体が前へ崩れた。
盗賊頭が拳を振り上げる。
その横から槍が伸びた。
「そこまでだ!」
ロアンだった。
槍が盗賊頭の進路を塞ぐ。
盗賊頭の動きが止まった。
その一瞬。
エントは盾を引き戻した。
身体を沈める。
肩からぶつかった。
「ぐっ!」
盗賊頭がよろめく。
脚はすでに傷ついている。
耐えきれず、膝をついた。
エントは長剣を構え直す。
だが、振らない。
切っ先を盗賊頭へ向けた。
「……終わりだ」
「…………」
盗賊頭がエントを睨む。
立とうとする。
「くそ……!」
だが、傷ついた脚に力が入らない。
地面へ手をつき、それでも身体を起こそうとするが、もう立てなかった。
その周囲で、戦っていた盗賊たちの動きも止まり始めた。
「頭……」
誰かが呟いた。
盗賊頭は答えない。
コリーは弓を構えたまま。
セブンの魔導書には、まだ魔力の光が残っている。
コンも杖を手に警戒を解いていない。
ロアンの槍も下がってはいなかった。
「武器を捨てろ!」
ロアンが声を張った。
「もう終わりだ!」
沈黙。
短弓を持った盗賊が周囲を見る。
盗賊頭は立てない。
他にも何人かが地面に倒れたまま、起き上がる様子はない。
森へ逃げた1人。
そして、エントたち。
やがて、
からん。
短弓が地面へ落ちた。
「……降参だ」
別の男も剣を落とす。
もう1人。
また1人。
最後まで武器を握っていた男も、周囲を見回したあと、諦めたように剣を放した。
「……くそ」
盗賊頭が吐き捨てる。
それでも、落ちた剣へ手を伸ばすことはなかった。
◇
「……終わった?」
コンの声が聞こえた。
エントはしばらく答えられなかった。
盾を構えたまま、周囲を見る。
立っている盗賊はいる。
だが、全員武器を捨てていた。
盗賊頭は立てない。
他にも何人かが地面に倒れたまま動けずにいる。
呻き声。
荒い呼吸。
土の上に転がった剣。
矢。
血。
「終わった、と思う」
「その言い方やめてよ。まだ来そうじゃない」
セブンが魔導書を閉じる。
それを見て、ようやくエントも剣を下ろした。
「……疲れた」
「エント、そんなにHP減ってないだろ」
「そういう疲れじゃねえよ」
「分かるけど」
コリーも弓を下ろした。
ロアンだけはまだ気を抜いていない。
「すみません。武器を集めるのを手伝ってもらえますか」
「ああ」
「はい」
降伏した盗賊たちから距離を取らせる。
地面に落ちた剣や短弓、短剣を集めていく。
盗賊頭の剣も拾い、まとめて離れた場所へ置いた。
「手を後ろに」
ロアンが持ってきた縄を取り出す。
降伏した者たちを1人ずつ拘束する。
コリーが手伝い、セブンも周囲を警戒しながら動く。
エントも縄を受け取った。
盗賊の両手を後ろへ回す。
相手は抵抗しない。
さっきまで剣を振ってきた男だ。
それなのに今は、黙って地面に座っている。
「……変な感じだな」
「何が?」
コリーが隣で縄を締めながら聞く。
「いや」
エントは目の前の男を見る。
「モンスターなら、倒したらそれで終わりだったから」
「ああ」
コリーは短く答えた。
戦闘が終わっても、そこにいる。
倒した相手が消えるわけでもない。
傷も残る。
「エントさん」
コンの声。
振り返る。
コンが地面に膝をついていた。
その前には、先ほど倒した盗賊が横たわっている。
「この人、かなり弱っています」
「やばい?」
「すぐにどうこうという感じではないですけど……」
コンが傷の状態を確認する。
「まず手当てしますね」
「うん」
出血している場所を確認し、傷口を押さえて応急処置をする。
それから杖を向けた。
「《ヒール》」
淡い光が盗賊の身体を包んだ。
「……治せるんだな」
「はい」
光が消える。
盗賊の呼吸が少し落ち着いた。
「次の人も見ます」
「俺も手伝います」
「ありがとうございます」
エントは立ち上がる。
すぐ近くに、脚へ矢を受けた盗賊が倒れている。
「コリー、これどうする?」
「矢?」
「抜いていいのか?」
「勝手に抜かない方がいいだろ」
「じゃあコンさんに任せる」
「それがいい」
コンがやってくる。
傷の状態を確認し、必要な処置をしてから回復魔法を使う。
エントはその横で盗賊を押さえたり、必要なものを渡したりした。
戦っていた時間より、ずっと静かだった。
なのに。
妙に落ち着かない。
「……これ、俺がやったやつか」
腕を押さえている盗賊を見る。
そこには赤く腫れた跡がある。
剣の腹で打った場所。
「そうじゃない?」
セブンが答えた。
「ちゃんと加減したんでしょ?」
「したけど」
「ならいいじゃない。死なせるより」
「まあ、そうなんだけどさ」
分かっている。
向こうも本気で攻撃してきた。
こちらが何もしなければ、ロアンだって危なかった。
それでも。
モンスターを倒したときとは違う。
「……対人戦って毎回こんな感じ?」
「毎回ってほどやってないわよ」
セブンは少し考える。
「でも、まあ。最初は気になった」
「セブンも?」
「そりゃそうでしょ」
当然のように返された。
「ゲームだからって、見た目も反応も人間なんだから」
「だよな」
「詳しい話は、落ち着いてからにしましょ。まだ片付けも終わってないんだから」
「……それもそうだな」
エントは自分の剣を見る。
刃には、ほとんど血がついていなかった。
今回は、それでいい。
そう思った。
◇
「これ、村のです」
古い猟師小屋の中。
ロアンが積まれた袋の1つを開いた。
中には穀物が入っている。
「印があります。村の共同倉庫に置いていたものです」
「やっぱりここに持ってきてたんだな」
エントが周囲を見回す。
食料。
道具。
布。
酒瓶。
箱。
思っていた以上に物がある。
「全部村の?」
「いえ」
ロアンが首を振った。
「見覚えのない物もあります。街道で襲った商人や旅人から奪った物だと思います」
「じゃあ、それはどうするんだ?」
「村で預かります。盗賊たちと一緒に、後で然るべきところへ引き渡します」
「こういうのって、俺たちが持っていけたりするの?」
「盗品を?」
「いや、持っていかないけど」
「エント、聞き方が完全に盗賊側なんだけど」
セブンが呆れた顔をする。
「違うって。ゲーム的にどうなるのかなって」
「気持ちは分かる」
コリーが箱を覗き込みながら言った。
「モンスターの巣なら宝箱扱いでもおかしくないしな」
「だろ?」
「でも今回は人から盗んだ物だからな」
「ですよね」
コンが小さく笑う。
エントも頷いた。
「じゃあ勝手に触らない方がいいか」
「お願いします」
ロアンが真面目な顔で言った。
「盗賊が持っていた武器も、一度村へ持ち帰ります。被害の確認が必要なので」
「了解」
小屋の外には、盗賊たちが使っていた荷車があった。
壊れてはいない。
そこへ盗品を積み直す。
さらに、歩けない盗賊も乗せることになった。
「負傷した盗賊も連れて帰るのか……」
「置いていけないでしょう?」
コンに言われる。
「ですよね」
「エントさん、そちらを持ってもらえますか?」
「はい」
倒れている盗賊の肩を支える。
ロアンと2人で持ち上げ、荷車へ乗せた。
「ぐっ……」
「あ、悪い」
「謝るんだ」
セブンが言う。
「痛そうだったから」
「さっきまで戦ってた相手でしょ」
「それとこれは別じゃね?」
「まあ、そうだけど」
最後の負傷者を乗せる。
拘束した盗賊たちは歩かせる。
逃げた1人は戻ってこなかった。
「結局、逃げたやつはどうするんだ?」
エントが聞く。
「今から追うのは無理です」
ロアンが森を見る。
「この辺りを知っている相手です。森に入られたら、見つける方が難しい」
「だよな」
「村に戻ったら、そのことも報告します」
「また来たりしない?」
「可能性はあります」
ロアンは少しだけ表情を硬くした。
「でも、1人です。少なくとも今までと同じようにはできません」
エントは森を見る。
もう姿はない。
「……追わなくて正解だったか」
「だから言っただろ」
コリーが笑う。
「追ってたら、俺も追いかける羽目になってたぞ」
「止めろよ」
「止めただろ」
「そうだった」
荷車が動き出す。
来た道を、今度は盗賊たちと一緒に戻っていく。
◇
村へ戻ると、すぐに人が集まってきた。
「ロアン!」
「無事だったか!」
声が飛ぶ。
「大丈夫です!」
ロアンが答える。
その後ろ。
拘束された盗賊たちを見て、村人たちの表情が変わった。
驚き。
怒り。
安堵。
いくつもの感情が一度に広がっていく。
「こいつらが……」
「倉庫を荒らした奴らか」
険しい声が上がる。
エントは少し身構えた。
だが、ロアンが前へ出る。
「まず怪我人を休ませます。それから荷物を確認してください」
村人たちは盗賊を睨みながらも、ロアンの言葉に従った。
拘束した者たちは、村の空いている建物へ連れていかれる。
見張りもつく。
荷車から荷物が下ろされる。
「あっ、これ!」
村人の1人が袋を見つけた。
「うちのだ!」
「こっちも倉庫の物だぞ!」
次々に声が上がる。
ロアンが説明していく。
村の物。
誰のものか分からない物。
盗賊が使っていた武器。
それぞれ分けて保管するらしい。
「なんか、ちゃんとしてるな」
エントが呟く。
「何が?」
「いや、クエスト終わったら『盗賊を倒しました』『報酬です』で終わるのかと思ってた」
「そんなゲームもあるけどな」
コリーが言う。
「アクシスはこういうところ細かいぞ」
「半年やってる人が言うと説得力あるな」
「もっと敬え」
「嫌です」
「即答かよ」
そんな話をしていると、ロアンがこちらへ戻ってきた。
「皆さん」
「お疲れ」
「本当に、ありがとうございました」
深く頭を下げる。
「皆さんがいなければ、あの人数を相手にすることはできませんでした」
「ロアンも戦ってたじゃん」
「俺は案内と、少し手伝っただけです」
「最後、助かったぞ」
盗賊頭の動きを止めた槍を思い出す。
「あれなかったら殴られてた」
「エントなら1発くらい平気だったんじゃね?」
「そういう問題じゃねえ」
コリーを睨む。
ロアンが少し笑った。
最初に会ったときより、ずっと表情が柔らかい。
「報酬のことですが、準備します。あと、今日はもうここに泊まっていってください」
「いいの?」
「もちろんです。食事も用意します」
「おお」
コリーの反応が早い。
「飯付き」
「そこに食いつくの?」
「大事だろ」
「大事だけど」
「明日の分の食料も、できるだけ用意します」
「そこまでしてもらっていいのか?」
「それでも足りないくらいです」
ロアンはそう言って、もう一度頭を下げた。
「それと、セレスタへ向かうんでしたよね」
「ああ」
「明日は街道へ戻って、そのまま南へ進めば大丈夫です。この先は少しずつ森も減っていきます」
「じゃあ、もう海も近い?」
「ええ。セレスタへ近づけば、海から来る風も分かると思いますよ」
「海から来る風か」
エントは南の方角を見る。
「楽しみだな」
◇
夜。
村で用意してもらった部屋に、4人は集まっていた。
夕食を終えたあとだ。
「……今日は濃かったな」
エントは椅子の背にもたれた。
「石の建物見つけたあたりからずっと寄り道してるけどな」
「旅ってそういうもんじゃね?」
「セレスタ行く旅だよね、これ」
セブンが言う。
「行ってるだろ。ちゃんと南には進んでる」
「進む速度の話よ」
「急いでないし、いいんじゃないですか?」
コンが笑う。
「私は楽しかったですよ。盗賊のことは別ですけど」
「それはそうだよな」
エントも頷く。
「俺も戦ってる時は、普通に敵と戦ってる感覚だったんだけどさ」
言葉を探す。
「終わったあと、変な感じした」
「人相手だから?」
コリーが聞く。
「たぶん」
倒れていた盗賊。
傷。
呻き声。
縄で拘束したときに触れた腕。
「モンスターと違って、終わったあとも続くんだなって」
「私もそれは思いました」
コンが言う。
「回復している時、少し不思議でした。さっきまで私たちを攻撃していた人を治しているので」
「でも治した」
「はい」
コンは少し笑う。
「怪我していましたから」
「コンさんらしいな」
「そうですか?」
「うん」
「エントさんも運ぶ時に謝ってましたよね」
「見てたんですか」
「見てました」
「それは忘れてください」
「無理です」
コンが楽しそうに笑う。
「でもまあ、2人とも普通なんじゃね?」
コリーが言った。
「俺も最初は似たようなもんだったし」
「護衛依頼の時?」
「そう。商人護衛してたら野盗が出てきてさ」
「何人?」
「覚えてねえ。今日より少なかったと思う」
「コリーはその時も弓?」
「そりゃ狩人だからな」
「人に撃つの、怖くなかった?」
「怖かったぞ。人に弓撃つんだから」
「今めっちゃ普通に撃ってたじゃん」
「慣れた」
「慣れてんじゃん」
「急所外す余裕ができたって意味な」
コリーが肩をすくめる。
「最初はそっちまで考える余裕なかったし」
「……そっか」
セブンも口を開く。
「私の時も護衛依頼だったわね」
「セブンも?」
「そう。私も護衛中に野盗と遭遇したの」
「へえ」
「モンスターと違って、魔法見たら避けるし、詠唱してたら狙ってくるし。最初は面倒だった」
「今日めちゃくちゃ狙われてたもんな」
「だから慣れてるって言ったでしょ」
「言ってない」
「言ったようなものよ」
「雑だな」
4人で笑う。
戦いが終わった直後にあった重さが、少しだけ薄れた気がした。
エントは椅子から立ち上がり、窓の外を見る。
暗い村。
その向こうには森がある。
さらに南へ行けば、セレスタ。
「海か」
「4人ともセレスタは初めてだったよな」
エントが振り返る。
「そうだな」
コリーが答える。
「どんな街なんでしょうね」
コンが言う。
「港町なんでしょ?」
セブンが立ち上がる。
「それくらいは知ってる」
「ロアンの話だと、もう海も近いみたいだし」
「おお」
エントは少しだけ笑った。
盗賊。
森。
寄り道。
本来の目的からは、ずいぶん外れた気もする。
それでも。
「寄り道してよかったな」
ぽつりと言う。
「今それ言う?」
セブンが呆れる。
「だって、こんなの街道そのまま歩いてたらなかっただろ」
「まあね」
「《試行》も取れたし」
「使い道分かってないけどな」
「それはこれから探す」
「盗賊とも戦ったし」
「それは別に目的じゃないだろ」
「分かってるって」
コリーが笑う。
「でもまあ、エントらしいんじゃね?」
「何が?」
「寄り道して、知らんもん見つけて、首突っ込んで」
「言い方悪くない?」
「褒めてる」
「絶対嘘だろ」
また笑い声が上がる。
明日は、また南へ。
まだ見たことのないセレスタへ。
そして、まだ見たことのない海へ。
エントは窓の外の暗闇を見ながら、その先にある景色を想像した。




