盗賊団
「まず、正面からは行かない」
小屋を見たまま、セブンが小声で言った。
「だな」
コリーも頷く。
「見張りがいるの分かってんのに、わざわざ見えるところから行く必要ないし」
「じゃあ、ロアンが言ってた道?」
エントが聞く。
「ああ」
ロアンが答えた。
「ここから少し戻れば、向こう側へ回れる。小屋の真裏までは行かない方がいいと思うけどな」
「近づきすぎるから?」
「それもある。あっちは木が少ない場所があるんだ。見つかるかもしれない」
「なら、その手前までね」
セブンが言う。
「全員で行く?」
「ああ」
コリーが答えた。
「今の段階で分かれるのはやめとこうぜ。相手が何人いるかも正確には分かってないし」
「俺もそれでいいと思う」
エントも頷く。
「私もです」
コンが続いた。
「じゃあ決まり」
セブンが小屋から視線を外す。
「見つかったら?」
「その時はやるしかないでしょ」
「まあ、そうなるよな」
「ただ、追いかけすぎんなよ」
コリーが続ける。
「相手がどう動くか分かんねえから」
「了解」
エントはもう一度だけ小屋を見る。
見張りの男が、柵の外をゆっくり歩いている。
あの目を避けて、どこまで近づけるか。
「行こう」
ロアンを先頭に、5人は静かにその場を離れた。
◇
少し戻ったところから、ロアンは狩り道を外れた。
木々の間を縫うように進んでいく。
さっき盗賊の痕跡を追っていた時よりも、さらに足音を抑える。
エントは前を歩くコリーの足元を見ながら進んだ。
枝を避ける。
落ち葉が厚く積もった場所はなるべく踏まない。
ロアンが止まれば、全員が止まる。
何度かそれを繰り返した。
やがて、ロアンが片手を上げた。
「この先だ」
声はほとんど囁きだった。
木々の向こうに、再び小屋の屋根が見える。
さっきとは角度が違う。
柵の側面が見えていた。
「ここから?」
エントが聞く。
「もう少し行ける」
コリーが周囲を見る。
「見張りは?」
「今は見えないわね」
セブンが答えた。
「だからって、いないとは限らないけど」
「だな」
さらに進む。
少しずつ小屋が大きくなる。
柵。
木箱。
積まれた薪。
さっきより細かいところまで見えるようになった。
エントは剣の柄へ手を添えた。
まだ気づかれていない。
もう少し。
あと少し近づければ――
前を歩いていたロアンが止まった。
同時に、コリーも止まる。
「……いる」
コリーが小さく言った。
エントも目を凝らす。
柵の向こう。
男が1人、こちらへ歩いてきていた。
巡回していた見張りだ。
まだ気づいてはいない。
だが、そのまま進めば見つかる。
5人は動きを止めた。
男が歩いてくる。
ゆっくりと。
エントは息を殺した。
男が一度、小屋の方を振り返る。
それから再び前を向いた。
数歩。
また数歩。
不意に、男の足が止まった。
「……?」
男が地面を見る。
エントも視線だけを動かした。
何を見つけたのか分からない。
足跡か。
草か。
それとも、何か別のものか。
男が顔を上げる。
木々の間へ目を向けた。
「誰だ!」
「行くぞ!」
コリーが弓を構えた。
エントも剣と盾を抜く。
セブンが魔導書を開き、コンが杖と小盾を構える。
ロアンも槍を前へ出した。
「敵だ! 出てこい!」
見張りの男が叫ぶ。
エントが距離を詰めた。
男も腰の剣を抜く。
その頭上に表示が現れる。
エントはそのまま斬り込んだ。
右から剣を振る。
受ける。
そう思った。
だが、男は一歩後ろへ下がった。
「っ」
剣が空を切る。
男がすぐに踏み込んでくる。
エントは盾を上げた。
金属音。
衝撃を流しながら剣を返す。
盗賊がまた距離を取った。
「……」
来る。
そう思って構える。
だが、来ない。
男は剣を前に出したまま、こちらを見ている。
剣。
盾。
足。
エントの構えを順番に見ている。
――こいつ、俺を見てる。
「エント!」
コリーの声。
横から別の男が来ていた。
「うおっ!」
エントは咄嗟に盾を向ける。
剣先が盾の縁を擦った。
そのまま最初の男まで踏み込んでくる。
「2人はきついって!」
「ちょい右!」
コリーの声とほぼ同時。
矢が飛んだ。
横から来ていた盗賊が足を止める。
「っ!」
矢は男の足元へ突き刺さった。
一歩進めば、次は身体へ来る。
そう思わせる位置。
「そいつ見てろ!」
「分かった!」
エントは最初の盗賊へ向き直る。
コリーは少し離れた位置で次の矢をつがえていた。
男がまた剣を構える。
速いわけじゃない。
力が強いわけでもない。
それでも、やりにくい。
エントが踏み込む。
今度はすぐに剣を振らない。
男が反応して少し下がる。
そこへさらに一歩。
「っ!」
男が先に剣を振った。
エントは盾を斜めに当て、刃を外へ流す。
体勢が浮いた。
そのまま盾を押し込み、男をよろめかせる。
追って剣を返す。
刃ではなく、剣の腹。
「ぐっ!」
脇腹を強く打たれた男が地面へ転がった。
エントは追おうとして――止まった。
追いかけすぎるな。
倒れた相手へ追撃もしない。
周囲を見る。
小屋の扉が開いていた。
「来るぞ!」
コリーが叫んだ。
3人。
いや、その後ろにもいる。
「くそっ、冒険者だ!」
「何人だ!」
「5人!」
「あの盾持ちが前だ!」
盗賊たちが声を交わす。
エントは思わず眉を寄せた。
「エント、前!」
「分かってる!」
盾を構え直す。
その少し後ろでコリーが弓を構える。
さらに後ろにはセブンとコン。
ロアンは2人の少し横。
盗賊たちが一気に近づいてきた。
◇
開かれた魔導書のページに術式が浮かぶ。
「《ファイアアロー》!」
セブンが手を振る。
ガントレットの先に収束した炎が細く走った。
「ぐっ!」
盗賊の肩を掠め、男の身体が揺れる。
そこへエントが踏み込む。
剣を振る。
男が受けた。
さらに押す。
「右!」
コリーの声。
エントがわずかに身体をずらす。
その横を矢が通った。
「っ!」
回り込もうとした盗賊が足を止める。
その間にエントは正面の1人へ集中する。
だが、盗賊たちは1人ずつ戦ってくれない。
正面にいた男が突然エントから離れた。
「え?」
横へ走る。
コリーの方だ。
「来た!」
コリーが弓を下げる。
短剣を抜いた。
盗賊の剣を受け流し、すぐに後ろへ跳ぶ。
「近い近い!」
短剣は構えたまま。
追ってきた盗賊へは踏み込まない。
距離を取る。
弓を使える距離まで。
「エント、そっち行ったぞ!」
「分かってる!」
代わりに別の盗賊がエントへ来る。
モンスター相手とは違う。
こいつらは、こっちを見て動きを変える。
「《ライトボール》!」
コンの杖先に光が集まる。
飛び出した光球が盗賊の胸を捉えた。
「がっ!」
男がよろめく。
その横でセブンの魔導書が光る。
「《ストーンバレット》!」
石弾が男の脚を打った。
盗賊が地面へ倒れる。
「よし!」
エントが声を上げる。
その時だった。
「後ろだ!」
盗賊の1人が叫んだ。
「後ろの2人だ! 先に潰せ!」
「っ!」
エントが振り返る。
盗賊の視線が変わった。
セブン。
コン。
2人へ向いている。
「コンさん、下がって!」
セブンがすぐに動いた。
「はい!」
コンも後ろへ下がる。
盗賊が2人、正面から離れた。
左右へ分かれる。
「行かせるか!」
エントが片方へ向かおうとする。
「エント、戻って!」
セブンの声が飛んだ。
「でも!」
「前が空く!」
目の前。
盗賊がいる。
エントが動こうとしたのを見て、すでに距離を詰めていた。
「っ!」
盾で受ける。
さらに別の1人が横へ回ろうとしている。
エントは踏みとどまった。
後ろへ行きたい。
でも、ここを離れればもっと抜ける。
「くそっ!」
「エント、そのまま!」
コリーが矢を放つ。
横へ回ろうとしていた盗賊の進路へ刺さる。
男が反射的に逆へ跳んだ。
「そっちは俺が見る!」
コリーは弓を構えたまま移動する。
前へは出ない。
だが、矢を嫌がれば盗賊も好きには動けない。
「セブン!」
「こっちはいい!」
盗賊の1人がセブンへ迫っていた。
開いた魔導書へ一瞬だけ視線を落とし、セブンが片手を上げる。
ガントレットが盗賊へ向く。
男が咄嗟に身体を横へずらした。
だが、魔法は飛ばない。
「……!」
「引っかかった」
その間にセブンが距離を取る。
エントは一瞬だけそれを見る。
撃たなかった。
撃つと思わせて、避けさせた。
盗賊が再びセブンを追う。
その途中、男の視線がコンへ向いた。
身体もわずかにそちらへ傾く。
だが、セブンは動かなかった。
次の瞬間、
盗賊が急に向きを戻し、セブンへ踏み込む。
「遅い」
セブンはすでに一歩下がっていた。
剣先が空を切る。
「そういうのは見たことあるから」
短く言って、すぐ魔導書へ視線を戻す。
一方、もう1人はコンへ向かっていた。
「コンさん!」
エントが叫ぶ。
「大丈夫です!」
コンが杖を構える。
「《ライトボール》!」
光球が飛ぶ。
だが、盗賊は走りながら横へ跳んだ。
「……っ」
外れた。
男がそのままコンへ迫る。
コンが一歩下がる。
さらに下がろうとして――
「行かせない!」
ロアンが前へ出た。
槍が突き出される。
「ちっ!」
盗賊が急停止した。
穂先が胸元をかすめる。
ロアンは追わない。
槍を戻し、再び構える。
「コン、下がれ!」
「はい!」
コンが距離を取る。
盗賊はロアンを見る。
その向こうにいるコンを見る。
もう一度ロアンへ視線を戻す。
「邪魔すんな!」
盗賊が剣を振った。
ロアンが小盾で受ける。
「ぐっ!」
身体が揺れた。
「ロアン!」
「大丈夫だ!」
ロアンは下がりながら槍を振る。
男も簡単には踏み込めない。
「エント、前!」
「っ!」
セブンの声に、エントは正面へ向き直る。
盗賊の剣が迫っていた。
◇
剣と盾がぶつかる。
衝撃を受け流し、エントは剣を返した。
盗賊が一歩下がる。
追わない。
横を見る。
コリーは弓で右側を押さえている。
セブンは1人に追われながら距離を取っている。
コンはロアンの後ろ。
小屋の扉は開いたまま。
まだ誰か出てくるかもしれない。
目の前だけじゃない。
盗賊が踏み込んでくる。
エントは盾で受けた。
その瞬間、男の視線が横へ動いた。
コンだ。
「行かせるかよ!」
男が離れるより先に、エントが前へ出る。
剣を振らない。
ただ、間合いへ入る。
「……っ」
盗賊の足が止まった。
受けるか。
下がるか。
一瞬の迷い。
男が右へ退く。
その先へ矢が飛んだ。
「うおっ!」
盗賊がさらに動く。
「ナイス!」
「たまたまじゃない?」
「今のは狙った!」
「なら先に言えよ!」
コリーが次の矢をつがえる。
エントも少し笑った。
最初は、相手が何をするかを見ていた。
でも。
こっちの動きを見て決めるなら――。
こっちから、相手に選ばせればいい。
盗賊が再び踏み込んでくる。
エントは盾を見せる。
正面を固める。
男は横へ。
そこにはコリーの射線がある。
「ちっ!」
盗賊が止まった。
その一瞬にエントが踏み込む。
盾の縁を肩へぶつける。
「ぐっ!」
男の姿勢が崩れた。
エントは剣を返す。
狙ったのは胴ではなく、剣を握る腕。
剣の腹が前腕を打つ。
「ぐあっ!」
男の剣が落ちた。
続けて盾で押し込み、地面へ倒す。
男は起き上がろうと腕をつく。
だが、すぐに崩れた。
エントは追撃しなかった。
すぐに顔を上げる。
「次!」
コリーの声。
「ああ!」
その時、
右側にいた盗賊が突然背を向けた。
「っ!」
森へ走る。
「逃げた!」
エントが反射的に追おうとする。
「待て!」
コリーが叫んだ。
「でも!」
「前見ろ!」
エントが止まる。
逃げた盗賊の進行方向。
木の陰。
そこに別の男がいた。
短弓を構えている。
「……!」
矢が飛んだ。
エントは盾を上げる。
乾いた音。
矢が弾かれた。
「マジかよ……!」
「だから追うなって言っただろ!」
逃げていた盗賊が足を止める。
振り返る。
逃げていたわけじゃない。
こっちを引っ張り出そうとしていた。
「そういうこともするのかよ」
「人間相手なんだから、するでしょ!」
セブンが言う。
面倒だ。
でも。
少しずつ分かってきた。
◇
「《ライトボール》!」
コンの光球が飛ぶ。
盗賊が横へ避ける。
「また……」
コンが言いかけて止まった。
盗賊は光球を避けた。
当たっていない。
だが、そのせいで進路が変わった。
ロアンの槍がある方へは行けない。
エントの正面にも戻れない。
盗賊はセブンとは逆側へ大きく回る。
「……」
コンの目が動く。
「コンさん?」
セブンが盗賊を見たまま声をかける。
「……避けさせれば、いいんですね」
「え?」
「避けるなら、避ける場所を選ばせれば」
セブンが一瞬だけコンを見る。
「そう。使えるでしょ」
「はい」
盗賊が再び動く。
コンが杖を向ける。
「《ライトボール》!」
今度の光球は、盗賊の身体を真っ直ぐ狙っていなかった。
進もうとした先。
そこへ飛ぶ。
「っ!」
盗賊が逆へ跳ぶ。
その先。
魔導書のページが開く。
「《ファイアアロー》!」
炎が飛んだ。
「ぐっ!」
盗賊の肩を捉える。
男がよろめいた。
「まだ来ます!」
コンがすぐに杖を構え直す。
「左から回れ!」
小屋の前から声が飛んだ。
エントが見る。
他の盗賊より少し装備の良い男が立っていた。
「後ろの2人を止めろ! 前だけ見んな!」
どうやら、あの男が盗賊たちの頭らしい。
盗賊たちが左右へ広がる。
「また来るわよ!」
セブンの声。
エントは剣を握り直した。
「コリー!」
「何だ!」
「右、俺が止める!」
「なら左見る!」
コリーがすぐに移動する。
弓が盗賊を追う。
エントは右から来る盗賊へ向き直った。
その向こうでは、別の1人がセブンへ回ろうとしている。
コンを見ている男もいる。
ロアンは槍を構え、後ろへ抜ける道を塞いでいた。
全部は見られない。
それでも見る。
右の盗賊が踏み込んでくる。
エントは剣を少し下げた。
「……?」
盗賊が一瞬だけ止まる。
隙に見えた。
来る。
エントはそう思った。
男が踏み込む。
「今!」
エントは盾を斜めに入れた。
「っ!」
剣を流す。
盗賊の身体が横へ崩れる。
その先へ矢が飛ぶ。
「ぐあっ!」
男がさらに体勢を崩した。
エントは剣を構え直す。
相手に選ばせる。
そして、その選択を待つ。
最初よりずっと戦いやすい。
それでも楽ではない。
「下がれ!」
盗賊頭の声が飛んだ。
「無理に前へ出るな!」
盗賊たちが少しずつ小屋側へ下がる。
「……今度は下がるのかよ」
エントが呟く。
「追うなよ」
コリーがすぐに言う。
「今度は分かってる」
「ならよし」
盗賊たちは完全に逃げているわけではない。
離れすぎていた仲間との距離を戻している。
倒れた者の近くへも1人が寄った。
「おい、動けるか!」
「……無理だ」
「そこで寝てろ!」
エントは剣を構えたまま、その様子を見る。
最初より数は減っている。
地面に倒れ、すぐには立てそうにない者もいる。
それでも、盗賊頭を含めてまだ半数以上が立っていた。
「ほんと面倒ね」
セブンがエントたちの近くまで戻ってきた。
「だな」
コンもロアンと一緒に戻ってくる。
「ロアン、大丈夫?」
エントが聞く。
「ああ」
ロアンが盾を持った腕を軽く振った。
「ちょっと痺れたくらいだ」
「無理すんなよ」
「分かってる」
5人が再び近い位置へ集まる。
盗賊たちも小屋の前へ固まり直していた。
倒れている者。
まだ戦える者。
少し離れて様子を見ている者。
盗賊頭がこちらを睨む。
「……何なんだ、お前ら」
「冒険者」
コリーが答えた。
「見りゃ分かる!」
「じゃあ聞くなよ」
「コリー」
セブンが呆れた声を出す。
「いや、だって」
盗賊頭の顔が歪む。
その視線がロアンへ移った。
「……お前、村のやつか」
ロアンは何も答えない。
槍を構えたまま、男を見返す。
「村に雇われたか」
誰も答えない。
答える必要もなかった。
「……ちっ」
盗賊頭が周囲を見る。
仲間。
倒れている者。
小屋。
森。
「まだ来るぞ」
コリーが小さく言った。
「ああ」
エントも剣を握り直した。
盗賊頭が剣を上げる。
「囲め! 前だけ見るな!」
再び盗賊たちが動いた。
エントも前へ出る。
◇
盗賊の剣が盾へぶつかる。
エントは衝撃を流し、そのまま押し返した。
相手もさっきまでより動きが鈍い。
こちらも無傷ではない。
それでも、最初より見える。
男が視線を横へ動かした。
仲間。
エントは半歩下がる。
直後、別の盗賊が横から入ってきた。
「っ!」
盾を向ける。
刃が逸れる。
「避けた!?」
「今度は見えた!」
完全に読んだわけじゃない。
それでも最初なら食らっていた。
「コリー!」
「見えてる!」
矢が飛ぶ。
横から来た男が避ける。
その分だけ、エントとの距離が開く。
「セブン!」
「こっちも!」
「《ストーンバレット》!」
石弾が別の盗賊の足元を叩く。
男が横へ跳ぶ。
そこへコンが杖を向けた。
だが、すぐには撃たない。
盗賊がコンを警戒して足を止める。
その一瞬をセブンが逃さない。
「《ファイアアロー》!」
「ぐっ!」
盗賊が地面へ膝をつく。
「左から回れ!」
盗賊頭が叫ぶ。
「後ろを止めろ!」
エントは目の前の盗賊へ踏み込んだ。
剣は振らない。
盗賊が反応する。
一歩下がる。
さらに踏み込む。
「くそっ!」
男が横へ逃げた。
そこはコリーの射線が通る。
「《ピンポイント》!」
矢が飛ぶ。
狙いは胴ではない。
「ぐあっ!」
矢が盗賊の腿を捉えた。
男が地面へ倒れる。
コリーは次の矢をつがえるが、倒れた男には向けない。
「ナイス!」
「やっと分かってきたじゃん!」
言いながらも、エントは視線を逸らさない。
盗賊頭が前へ出た。
装備も他の連中より少し良い。
あいつも動く。
そう思った。
「――待って」
セブンの声が聞こえた。
「何?」
「あいつ」
セブンが戦場の端を見る。
エントも視線を向けた。
1人。
盗賊が1人、戦場から離れている。
こちらへ向かっていない。
小屋へも戻っていない。
森へ向かって走っている。
「……また誘ってるのか?」
さっきの罠が頭をよぎる。
エントは盗賊の先を見る。
木の陰。
仲間はいない。
少なくとも、見える範囲には。
「……今度は?」
「分からない。でも、森へ向かってる」
セブンが答える。
「逃げる気か!」
エントは反射的にそちらへ身体を向けた。
「エント、待て!」
コリーの声が飛んだ。




