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解けない仕掛け

 エントの声が、古い石造りの室内に響いた。

 返ってきたのは、かすかな反響だけだった。

 外から差し込む光は入口の周辺までしか届かず、奥は薄暗い。

「とりあえず、足元気をつけろよ」

 コリーが言った。

「崩れてるところもありそうだしな」

 エントは盾を構えたまま、ゆっくりと奥へ進む。

 床には土や小さな石が散らばり、天井も一部が崩れている。

 それでも、見た目ほど危うくはなさそうだった。

「敵はいなさそうね」

 セブンが周囲を見回す。

「今見える範囲には、だけど」

「奥も確認しましょう」

 コンの言葉に、3人が頷いた。

 4人で室内を調べていく。

 入口からは正体の分からなかったものも、近づけば形が見えてきた。

「これ、何だ?」

 エントが1本の前で足を止める。

 壁沿いに並んでいたのは、胸ほどの高さがある石柱だった。

「柱……ではないわよね」

 セブンが言った。

「天井支えてないしな」

 コリーが石柱の上へ手を置く。

「装飾?」

「にしては変じゃない?」

 エントも近づいた。

 石柱の表面には、途中で曲がり、いくつかに枝分かれした長い溝が刻まれている。

「模様かな」

「こちらにもありますよ」

 コンが隣の石柱を見る。

 そこにも似た溝がある。

 さらに隣にも。

 ただ、形はそれぞれ少しずつ違っていた。

「……これ」

 セブンがしゃがんだ。

「床にもあるわよ」

「え?」

 足元を見る。

 土に隠れていて気づかなかった。

 細い溝が床を走っている。

 石柱の根元から伸び、部屋の中央へ向かっていた。

「レールみたいだな」

 コリーがしゃがみ込み、指で土を払う。

 その下から、さらに先へ続く溝が現れた。

「これ、全部真ん中に繋がってない?」

 エントが顔を上げる。

 部屋の中央。

 そこには、大きな石造りの何かがあった。

 四角い台座の上に、複数の石材が組み合わされている。

 祭壇にも見えるが、用途をそう決めつけるには形が複雑すぎた。

「さっきから気にはなってたけど」

 コリーが立ち上がる。

「やっぱこれが中心っぽいよな」

「だよな」

 エントも近づいた。

 台座の側面にも溝がある。

 床を走る細い溝は、そこへ繋がっていた。

「何かの装置?」

 セブンが言う。

「ちょっと見てみる」

 エントは側面へ手を触れた。

 刻まれた溝。

 複数の石材の継ぎ目。

 そこから床へ伸びる線。

 さらに壁際の石柱へ視線を移していく。

 こうして意識して調べていると、ラティス旧水路で古い水門を調べた時と少し似たものを感じた。

 あの時も、最初はただの動かない設備に見えていた。

 なら、今回も何かあるかもしれない。

「……やっぱ、これ機構っぽいな」

「《機構知識》?」

 セブンが聞く。

「うん。石柱も床の溝も、これに繋がってるっぽい。でも、何のための仕掛けかまでは分かんない」

「じゃあ調べるしかないわね」

「だな」

 4人は手分けして、石柱や床の溝、中央の装置を順に調べていった。

「あ」

 少しして、コリーが声を上げた。

「こっちにもある」

 壁の一角に、周囲と同じ灰色をした円盤が埋め込まれていた。

 エントたちも集まる。

「円盤?」

 縁には、小さな窪みがいくつも並んでいる。

「下、見て」

 セブンが言った。

 円盤の下から細い溝が伸び、床まで続いている。

「これも繋がってるな」

 エントがしゃがみ込む。

「動かせない?」

 コリーが窪みに手をかけた。

「やってみるか」

 力を込める。

「……っ」

 石が擦れるような音とともに、円盤がほんのわずかにずれた。

「あ、動いた」

「もうちょい行けそう?」

 エントも横から手を添える。

 2人で力を加える。

 だが、それ以上は動かない。

「ここまでか」

「完全に固定されてるわけじゃないのね」

「でも、これが正しい動かし方かは分かんないな」

 エントは手を離した。

 窪み。

 溝。

 壁との境目。

 どれも意味がありそうに見える。

 だが、そこから先が分からない。

「こっちにも何かあります」

 今度はコンだった。

 中央の石造装置。

 その側面から、短い棒状の石が突き出している。

「レバー?」

 エントが握ってみる。

 少し傾いていて、いかにも動きそうに見える。

「引いてみるぞ」

「一応、気をつけて」

 セブンたちが少し距離を取る。

 エントがレバーを引く。

「……っ」

 動かない。

「固っ」

「押す方じゃね?」

 今度は押してみる。

 やはり動かない。

「壊れてんのかな」

「それもありそう」

 エントは手を離した。

「何か条件があるのかもね」

 セブンが言う。

「先にあっち触るとか?」

「やってみるか」

 壁の円盤へ戻る。

 コリーが窪みに手をかけ、エントがレバーを握った。

「せーのでやる?」

「やってみよう」

「せーの」

 同時に力を込める。

 何も起きない。

「逆?」

「順番?」

「かも」

 今度は先にレバー。

 次に円盤。

 やはり変化はない。

 石柱も調べてみた。

 押しても、引いても、溝をなぞっても反応しない。

「……分からん」

 コリーが腕を組んだ。

「まだ1階しか見てないだろ」

 エントが周囲を見る。

「上もあるし」

 部屋の奥。

 半分ほど崩れた石造りの階段が残っていた。

「行く?」

「階段、大丈夫そう?」

 セブンの言葉に、コリーが近くまで行って覗き込む。

「一部崩れてるけど、行けそうだな」

「じゃあ俺から行く」

 エントが先頭に立った。

 崩れた箇所を避けながら、慎重に階段を上がっていく。

 2階へ出た。

「……こっちも広いな」

 1階よりは狭い。

 屋根の一部が失われ、そこから光が差し込んでいる。

 壁も大きく崩れていた。

 後から上がってきたコリーが周囲を見回す。

「今のところ何もいなさそうだな」

 セブンとコンも続く。

「こっちにもありますね」

 コンがすぐに気づいた。

「溝?」

 床には、1階と似た細い溝が走っている。

「下と似てるな」

 エントがしゃがみ込んだ。

 溝を目で追う。

 その先の壁にも、周囲の石とは明らかに作りの違う部品が埋め込まれていた。

「これも仕掛けの一部?」

 コリーが近づく。

「多分」

 エントも近くで調べてみる。

 見れば見るほど、ただの石組みとは思えない。

 1階で見たものとは形が違うが、どこか似た作りをしている。

「1階と繋がってる?」

「分かんない。でも、別々って感じもしないな」

 エントは床の溝を見る。

 1階にも同じようなものがあった。

 2階にもある。

「……1階と2階で連動してたりしないかな」

「ありそうだな」

 コリーも足元を見る。

「片方だけ触っても駄目とか?」

「試す価値はあるわね」

 セブンが言った。

「じゃあ分かれる?」

「2人ずつがいいと思います」

 コンが言う。

「何かあった時に1人だと危ないですから」

「じゃ、俺とコンさんが上な。エントはそっち頼むわ」

「俺?」

「《機構知識》あるし、ラティスの時もお前だったろ」

「あれはたまたまだって」

「でも前例はあるわよね」

 セブンが言う。

「期待されても困るんだけど」

「別に解けって言ってるわけじゃねえよ」

 コリーが笑う。

「何か分かったらラッキーくらい」

「ならいいけど」

「私も少し期待していますよ」

 コンが微笑む。

「コンさんまで……」

 エントは苦笑した。

「じゃあ私も下に行くわ」

 セブンが言う。

「了解。俺とコンさんが上な」

「はい」

 エントとセブンが1階へ戻る。

 コリーとコンは2階に残った。

「聞こえる?」

 エントが階段の下から声を上げる。

「聞こえる!」

 コリーの声が返ってきた。

「そっち準備できる?」

「いける!」

「じゃあ3で!」

 エントは壁際の円盤へ移動し、窪みに手をかける。

「1!」

 上からコリーの声。

「2!」

「3!」

 同時に力を込めた。

 石が擦れる音。

 2階からも、何かを動かそうとする音が聞こえる。

「……」

 何も起こらない。

「どう!?」

「何もなし!」

「こっちも!」

「タイミングずれた?」

 セブンが言う。

「もう1回やるか」

 再び試す。

 結果は同じだった。

「じゃあ次、レバーやる」

 エントが中央へ移動する。

「セブン、そっちお願い」

「分かった」

 今度は使う場所を変え、1階と2階で同時に操作する。

 それでも変化はない。

 そこからは、思いつく限り試した。

 順番を変え、触れる場所を変え、1階と2階で役割を入れ替える。

 石柱も、壁の円盤も、中央のレバーも使った。

 それでも――

 何も起こらなかった。

◇

「……分からん」

 コリーが床へ座り込んだ。

 4人は再び1階へ集まっていた。

「何パターン試した?」

「数えてない」

「数えとけばよかったわね」

「今さら言う?」

「途中からメモしてるわよ」

「してんのかよ」

 セブンがウィンドウを操作する。

「今思いつくのは一通り試したわね」

「まだ何か見落としてるかな」

 エントが中央装置を見る。

「溝も気になりますね」

 コンが言った。

「確かに」

 エントは床へしゃがみ込む。

 石柱から中央装置へ続く細い溝。

「これ自体が何かに使うものだったりしないかな」

「何か通すとか?」

 コリーも横から覗き込む。

「液体とか?」

「かもしれないし、別のものかもしれない」

「石とか入れてみる?」

「詰まらせるだけじゃない?」

「じゃあ水」

「どっから持ってくるのよ」

「アイテム?」

「何を?」

「……分からん」

「何も分かってないじゃない」

「じゃあセブンは何かある?」

「あるならもう試してるわよ」

「ですよね」

 エントは思わず笑った。

 それから、もう一度床の溝を見る。

「やっぱ壊れてんのかな」

 コリーが中央装置を軽く叩く。

「これだけ古いし」

「可能性はあるわね」

 セブンも否定しない。

「エント、分からないの?」

「壊れてるかまでは分かんない」

 エントは中央装置へ手を触れた。

「ラティスの時は、もう少し手応えあったんだけどな」

「一番面倒なやつだな」

 コリーが頭を掻く。

「壊れてるのか、やり方が違うのかすら分かんねえ」

「そういうこと」

 エントは中央装置を見上げた。

 壁には円盤。

 床には細い溝。

 壁際には、奇妙な溝を刻まれた石柱。

 中央には大きな石造装置と、動かないレバー。

 2階にも似た仕掛けが残されている。

 何かがある。

 そう思わせるものは、これだけ揃っていた。

「……絶対なんかあると思うんだけどな」

「私もそう思うけど」

 セブンが言う。

「今のままじゃ分からないわね」

「一旦諦める?」

 コリーが聞いた。

「まだちょっと見たい」

「だと思った」

「何だよ」

「いや、エントならそう言うかなって」

 エントは中央装置の周りを歩く。

 正面。

 横。

 裏側。

 もう一度しゃがみ込んで、床の溝を見る。

 何か見落としている。

 そんな気がする。

「エントさん」

「はい?」

「これまで試したことを、もう一度整理してみますか?」

 コンが尋ねた。

「そうですね」

 エントは立ち上がる。

 押して、引いて、順番を変えて。

 1階と2階に分かれて、同時にも試した。

 思いつくことは、かなりやったはずだ。

 それでも何も起こらない。

「……何が足りないんだろ」

 誰に聞くでもなく呟く。

 答えは返ってこない。

 エントはもう一度、目の前の石造装置へ手を置いた。

 冷たい石の感触だけが、掌へ返ってきた。

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