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四人

 巨大な鋏が開いた。

「コン!」

 エントが駆け出す。

 だが、遠い。

 間に合わない。

 タイドロブスターの鋏がコンへ迫る。

「《プロテクト》!」

 淡い光が身体を包むと同時に、コンは後ろへ飛んだ。

 巨大な鋏が振り抜かれる。

「っ……!」

 避け切れない。

 鋏の先端が身体を掠め、コンが石床へ転がった。

「コンさん!」

 弦が鳴る。

 コリーの矢がタイドロブスターの頭部へ当たり、硬い甲殻に弾かれた。

 続けてもう一射。

「こっちだ!」

 長い触角が揺れる。

 巨体がコリーへ向きを変えた。

「《アイスランス》!」

 横から氷槍が飛ぶ。

 甲殻へ当たり、砕けた。

「コン、動ける!?」

 セブンの声が飛ぶ。

「はい……!」

 コンは身体を起こした。

「少し当たりましたけど、大丈夫です」

 すぐに自分へ手を向ける。

「《ヒール》」

 淡い光が傷を包んだ。

 その間に、エントがタイドロブスターとの間へ入る。

「いきなり後ろからは反則だろ……!」

「ボスに言っても仕方ないでしょ!」

「分かってる!」

 巨大な鋏が振り下ろされる。

 エントは横へ跳んだ。

 轟音。

 石床が砕ける。

「また潜るかもしれない!」

 セブンの声が飛ぶ。

「水際に寄りすぎないで!」

「了解!」

 エントはタイドロブスターを見ながら位置を変える。

 もう、正面だけ見ていればいい相手じゃない。

「コリー、見える?」

「見てる!」

 コリーは弓を構えたまま動く。

 タイドロブスターが鋏を振るう。

 エントが避ける。

 巨体が追う。

 脚が動いた。

「右前!」

「了解!」

 コリーの矢が脚の付け根へ飛ぶ。

 深く刺さった。

 タイドロブスターが身体を揺らす。

「《ライトニング》!」

 続けてセブンの雷撃。

 同じ場所へ叩き込まれる。

 巨体が大きく傾いた。

「よし!」

 エントが踏み込む。

「《スラッシュ》!」

 剣が別の脚の関節へ入る。

だが、

 タイドロブスターが突然、身体を沈めた。

「また潜る!」

 エントたちはすぐに水際から離れる。

 巨体が水へ滑り込んだ。

 水面が揺れる。

「固まらない方がいい!」

 エントが言う。

「分かれて見よう!」

「それがいい!」

 コリーが反対側へ走る。

 セブンとコンも少し距離を取った。

 4人で水面を見る。

 左側に波紋が広がり、その中心が盛り上がった。

「こっち!」

 コリーが叫ぶ。

 全員の視線が集まる。

だが、

「……違う!」

 エントが気づく。

 タイドロブスターは出てこない。

直後、

「後ろです!」

 コンの声。

 反対側の水面が弾けた。

「うわっ!」

 コリーの目の前へ巨大な鋏が飛び出す。

 横薙ぎ。

 コリーが後ろへ跳ぶ。

 ぎりぎりで避ける。

「これ面倒だな!」

「水の中が見えない!」

 セブンが魔導書を構える。

「出てきたところを狙うしかないわね!」

 タイドロブスターが足場へ上がる。

「なら――」

 エントは走った。

「出てきたところで体勢崩す!」

「できんのか!?」

「やってみる!」

「そういうの多いな、お前!」

「今言う!?」

 タイドロブスターがこちらを向く。

 鋏が持ち上がった。

 振り下ろし。

 エントは避ける。

 続けて横薙ぎ。

 盾を斜めに当てる。

「っ!」

 衝撃。

 完全には止めない。

 鋏の軌道だけをずらす。

 身体の横を巨大な鋏が通り過ぎた。

 タイドロブスターの巨体が前へ出る。

「今!」

 エントは逆に踏み込んだ。

 狙うのは甲殻じゃない。

 前脚。

「《シールドバッシュ》!」

 盾を叩きつける。

 硬い。

 それでも、攻撃直後で体勢の崩れていた前脚がわずかにずれた。

 巨体が傾く。

「動いた!」

「コリー!」

「見えてる!」

 弓が引き絞られる。

「《ピンポイント》!」

 矢が飛ぶ。

 狙ったのは脚の付け根――ではない。

 胴体を覆う甲殻。

 その継ぎ目。

 矢が食い込んだ。

「そこも通る!」

「殻の継ぎ目か!」

「多分、関節より狙いにくいけどな!」

 タイドロブスターが体勢を戻す。

 だが、矢は残っている。

「セブン!」

「分かってる!」

 セブンがタイドロブスターへ手を向ける。

「《アイスランス》!」

 氷の槍が甲殻の継ぎ目へ飛ぶ。

 命中。

 硬い殻の表面ではなく、その隙間へ氷が入り込んだ。

 タイドロブスターが大きく身体を震わせる。

「通った!」

 セブンの声が上がる。

「もう一回できる?」

「やる!」

 エントはタイドロブスターの前へ出た。

 さっきより分かってきた。

 ただ逃げるだけじゃない。

 向きを変えさせる。

 攻撃させて、その後を狙う。

「来い!」

 鋏が振り下ろされる。

 横へ。

 避ける。

 もう一方の鋏が追う。

 盾を出す。

 受けるんじゃない。

 逸らす。

 衝撃と同時に盾を流す。

 鋏が横へ抜けた。

「今!」

 エントが踏み込む。

「《シールドバッシュ》!」

 盾が前脚へぶつかる。

 わずかに体勢が崩れる。

「左!」

 コリーの声。

 エントは考えるより先に横へ離れる。

 矢が飛んだ。

 甲殻の継ぎ目へ突き刺さる。

「セブン!」

「そこね!」

「《ライトニング》!」

 雷撃が走った。

 矢の刺さった継ぎ目へ光が叩き込まれる。

 タイドロブスターの身体が跳ねる。

 鋏が石床へ落ちた。

「今のはでかい!」

 コリーが声を上げる。

「まだです!」

 コンの声。

 タイドロブスターが動く。

 倒れてはいない。

「分かってる!」

 エントは距離を取った。

 巨体がゆっくりと起き上がる。

 甲殻には黒い跡。

 いくつもの関節に矢が刺さっている。

 脚の動きも、最初より鈍い。

 それでも巨大な鋏は健在だった。

「まだ来るぞ」

 コリーが矢を番える。

「うん」

 エントも剣を構え直した。

その時、

「エントさん」

 後ろからコンの声。

「《プロテクト》を掛け直します」

「お願いします」

「コリーさんにも」

「頼む!」

 淡い光が身体を包む。

「セブンさんも」

「私も?」

「はい。次は誰に来るか分かりませんから」

 一瞬だけ、セブンがコンを見る。

「……お願い」

「はい」

「《プロテクト》」

 光がセブンを包んだ。

その直後、

 タイドロブスターが動いた。

「来る!」

 エントは身構える。

だが、

 巨体はこちらを向かなかった。

「え?」

 長い触角が動く。

 タイドロブスターの身体が向いた先。

 セブン。

「こっち!?」

「セブン!」

 タイドロブスターが地面を蹴った。

 突進。

「っ!」

 セブンが魔導書を開く。

 だが、魔法が間に合わない。

「避けろ!」

 エントが走る。

 距離がある。

 間に合うか。

 考えている暇はなかった。

 剣を手放す。

 石床へ金属音が響いた。

「エント!?」

 走る。

 タイドロブスターの鋏が開く。

 セブンが横へ動こうとする。

 その前へ。

「うおおっ!」

 エントは踏み出そうとしていた前脚へ身体ごとぶつかった。

 重い。

 巨体そのものは止まらない。

 それでも、踏み出しかけた脚がわずかにずれる。

 その分だけ巨体の向きが逸れた。

 巨大な鋏が、セブンのすぐ横を通り抜ける。

 エントはそのまま床へ転がった。

「エント!」

「大丈夫!」

 すぐに起き上がろうとする。

 だが、タイドロブスターの脚が目の前にあった。

「やば――」

 矢が飛ぶ。

 脚の関節へ刺さった。

 タイドロブスターの身体が揺れる。

「早く離れろ!」

「助かった!」

 コリーの援護。

 エントは転がるように距離を取った。

「《ヒール》!」

 コンの魔法が飛んでくる。

 身体に残った痛みが薄れる。

「ありがとうございます!」

「剣!」

 セブンが叫んだ。

「え?」

「落としたでしょ!」

「あ」

 見る。

 少し離れた場所に長剣が転がっている。

「忘れないでよ!」

「今それどころじゃなかったんだよ!」

「分かってる!」

 セブンがタイドロブスターへ向き直る。

「だから取ってきて!」

「了解!」

 エントが走る。

 その間、コリーが矢を放つ。

 タイドロブスターの脚。

 関節。

 継ぎ目。

 狙える場所を探していく。

「右の殻!」

 コリーが叫んだ。

 タイドロブスターの胴体。

 先ほど魔法を受けた場所。

 甲殻の継ぎ目が、わずかに浮いている。

「セブン!」

「見えてる!」

 魔導書のページが光る。

 セブンの前に魔法陣が広がった。

だが、

「待ってください!」

 コンの声。

 セブンが止める。

「まだ向きが変わります!」

 タイドロブスターが身体を捻る。

 継ぎ目が隠れた。

「……危な」

 セブンが魔法を止める。

「今撃ってたら殻だった」

「もう一回作る!」

 エントは剣を拾い上げた。

「コリー!」

「おう!」

「コンさん!」

「はい!」

 走る。

 タイドロブスターがこちらを向く。

 鋏が持ち上がった。

「《プロテクト》!」

 コンの魔法がエントを包む。

 振り下ろし。

 避ける。

 横薙ぎ。

 盾で逸らす。

 タイドロブスターが身体を回す。

「今、左!」

 コリーの矢が脚の付け根へ突き刺さる。

 巨体が傾いた。

「《シールドバッシュ》!」

 エントが盾を叩き込む。

 前脚がずれる。

「開いた!」

 コリーが叫ぶ。

 甲殻の継ぎ目。

 さっきより大きい。

「セブン!」

「今度こそ!」

 魔法陣が輝く。

「《フレイムピラー》!」

 炎が噴き上がった。

 甲殻の隙間へ集中して叩き込まれる。

 タイドロブスターの巨体が大きく跳ねた。

「っ!」

 エントは腕で顔を庇う。

 炎が消える。

 黒く焼けた甲殻。

 その隙間から煙が上がっている。

 タイドロブスターがふらついた。

「まだ!」

 コリーが弓を引く。

「《ピンポイント》!」

 矢が焼けた継ぎ目へ飛ぶ。

 深く突き刺さった。

 タイドロブスターの身体が沈む。

「エント!」

「行く!」

 走る。

 鋏が持ち上がった。

 まだ動く。

 エントへ振り下ろされる。

「《ステップ》!」

 横へ抜ける。

 懐へ。

 コリーの矢が刺さった甲殻の隙間。

「《スラッシュ》!」

 剣を振り抜いた。

 刃が深く入る。

 巨体が大きく震えた。

 エントはすぐに剣を引き抜く。

「下がって!」

 セブンの声。

 エントは飛び退いた。

「《ライトニング》!」

 雷撃が焼けた継ぎ目へ突き刺さる。

 閃光。

 タイドロブスターの鋏が大きく開いた。

 脚が石床を掻く。

 だが、巨体を支え切れない。

 ゆっくりと傾く。

そして、

 轟音とともに、石造りの足場へ倒れ込んだ。

「……」

 誰もすぐには動かなかった。

 エントは剣と盾を構えたまま、タイドロブスターを見る。

 コリーも弓を引いたまま。

 セブンの魔導書も開かれている。

 コンも、いつでも魔法を使えるよう構えていた。

 数秒。

 タイドロブスターは動かない。

 やがて、その巨体が淡い光へ変わり始めた。

「……倒した?」

「倒したな」

 コリーが弓を下ろす。

 セブンも魔導書を閉じ、コンがほっと息を吐いた。

 エントは大きく息を吐く。

「つっかれた……」

「お前、途中で剣捨ててたしな」

「仕方ないだろ!」

「普通、剣捨ててボスに体当たりする?」

 セブンが呆れたように言う。

「他に思いつかなかったんだよ」

「まあ、助かったけど」

 短い言葉。

 エントはセブンを見る。

「ならよかった」

「……ありがと」

「うん」

 コリーが小さく笑った。

「とりあえず、終わったな」

「だな」

 戦闘終了の通知が現れた。

 続いて、エントの前に今回取得したドロップ品が表示される。

 いくつかの素材名を追っていると、その中に見慣れない名前があった。

《湖甲蝦の鋏鎚》

「鋏鎚?」

 エントは詳細を開く。

 巨大な鋏の一部から得られた、硬質な素材。

 用途の欄には、武器製作にも使用できるとある。

「へえ。武器素材なんだ」

「なんかいいの出た?」

 コリーが聞いてきた。

「鋏鎚ってやつ。武器作るのに使えるみたい」

「へえ、いいじゃん」

「そっちは?」

「俺は甲殻とかだな。結構出てる」

 コリーも自分の表示を確認しながら答える。

「私は水属性への耐性が付く装備に使える素材があるわね」

 セブンも自分の取得品を見ている。

「私は魔法触媒に使えるものが出ました」

 コンも続いた。

「みんなそれなりに良さそうだな」

 エントはもう一度《湖甲蝦の鋏鎚》を見る。

 今すぐ使い道があるわけではない。

 それでも、武器を作れるのなら取っておいて損はないだろう。

 詳細を閉じた。

「悪くはないわね」

 セブンは自分の表示を見たまま、少し考える。

「ただ、ここまで来る時間と探索に掛かった時間まで考えると――」

「今それ計算すんの?」

 コリーが呆れたように言った。

「気になるでしょ」

「ボス倒した直後くらい素直に喜べよ」

「喜んでるわよ。その上で気になるの」

「はいはい」

 エントは思わず笑った。

 少なくとも、苦労した分だけのものはありそうだった。

 その後、4人は貯水槽の周囲を調べた。

 さらに奥へ続く道は見つからない。

 水門らしき設備や古い配管はいくつも残っていたが、今すぐ動かせそうなものもない。

「ここで終わりっぽいな」

 コリーが言う。

「そうみたい」

 セブンも周囲を見回した。

「少なくとも、今見える範囲には何もないわね」

「じゃあ戻る?」

 エントが聞く。

「賛成」

「私もです」

「俺も」

 来た道を戻る。

 巨大な石扉。

 3つの弁。

 スティッキー・ニュートがいた通路。

 ダクトイールが潜んでいた配管。

 さっきまで知らなかった場所が、帰り道になっている。

「なんか変な感じだな」

 エントが言った。

「何が?」

「来る時はどこに続いてるか全然分からなかったのに、もう普通に戻ってるから」

「そりゃ一回来たしな」

 コリーが答える。

「でも、分かります」

 コンが周囲を見ながら言った。

「知らない場所じゃなくなった感じがします」

「ああ、それ」

「ちょっと分かるわね」

 セブンも頷いた。

「そういえば、この場所どうする?」

 セブンが言った。

「どうするって?」

「攻略情報。今のところ載ってないでしょ」

「ああ」

 エントは少し考える。

「載せる?」

「全部書く必要はないんじゃね?」

 コリーが言う。

「見つけたってことと、攻略手順を全部公開するのは別だろ」

「そうね。戻ってから考えましょ」

「私はそれでいいと思います」

「じゃあ、そうしよう」

 話はそこで終わった。

 やがて、旧排水区へ戻る。

 そこから調整槽。

 導水路。

そして、

 4人はラティス旧水路の外へ出た。

「うわ」

 コリーが目を細める。

「もうこんな時間か」

 空は赤く染まり始めていた。

 ラティス湖の水面に、傾いた陽の光が長く伸びている。

 ダンジョンへ入る前とは、まるで違う景色だった。

「結構中にいたんだな」

 エントが空を見る。

「ローデンまでに暗くなるわね」

 セブンが言った。

「急いだ方がいい?」

「急いで転んだらアホらしいだろ」

 コリーが周囲へ目を向ける。

「暗くなったら、警戒して戻ろうぜ」

「そうだな」

 4人はラティス湖を離れた。

 ローデン集落へ向かう。

 森へ入る頃には、夕日は木々の向こうへ沈みかけていた。

 しばらくすると、道の色すら分かりにくくなる。

「完全に夜だな」

 エントが言う。

「だから周り見ててよ」

 セブンが返す。

「見てるって」

「エントより俺の方が見てるけどな」

 先を歩くコリーが言った。

「そこは狩人に勝てないだろ」

「なら任せろ」

 さっきまでの軽い口調とは違い、コリーの視線は森の奥へ向いている。

 エントも会話しながら、剣をいつでも抜けるように歩く。

 コンは後方。

 セブンはその少し前。

 自然と、4人がそれぞれ周囲を見る形になっていた。

 暗い森の中を進む。

 途中、遠くで何かの鳴き声がした。

 全員が一度足を止める。

「近くはない」

 コリーが耳を澄ませた。

「このまま行ける」

「了解」

 再び歩く。

 昼間なら何でもない道でも、夜になるだけで空気が変わる。

 だからこそ、話し続けることもなかった。

 必要な時だけ声を掛ける。

 足音。

 風。

 葉の擦れる音。

 それらを聞きながら進んだ。

しばらく歩いたところで、

「あ」

 コンが前を見た。

 木々の向こう。

 小さな灯りが見える。

「ローデン?」

「多分な」

 コリーが言う。

 少し進む。

 灯りが増えていく。

 ようやく集落の建物が見えた。

「着いた……」

 エントが息を吐く。

「ダンジョンより帰り道の方が長く感じたな」

「それは言いすぎだろ」

「でも、ちょっと分かります」

 コンが笑う。

「灯りが見えると、ほっとしますね」

「そうね」

 セブンも小さく息を吐いた。

 戦闘中とは違う緊張が、ようやく抜ける。

そのままローデンへ向かって歩いていると、

「次はどこに行きます?」

 コンが、当たり前のように言った。

「まだ決めてないな」

 エントが答える。

「俺、海行きたい」

 コリーがすぐに言う。

「急ね」

「いいじゃん。船とか乗りたくね?」

「船なら港町を探すところからでしょ」

「じゃあ港町行こうぜ」

「決めるの早すぎない?」

「セブンはどっかないの?」

「そうね……」

 セブンが少し考える。

「攻略が進んでる場所でもいいけど、今回みたいなのも悪くなかったわね」

「お」

 コリーが振り向く。

「セブンが攻略情報にないとこ褒めてる」

「別に攻略情報にない場所が嫌いなわけじゃないから」

「そうだっけ?」

「そうよ」

「へえ」

「何?」

「いや?」

「絶対なんかあるでしょ」

「ないって」

 エントは2人のやり取りを聞きながら歩く。

「コンさんは?」

「私は……」

 コンが少し考える。

「生き物がたくさんいる場所なら、どこでも楽しそうです」

「コンさんらしいな」

「そうですか?」

「うん」

 話しながら歩く。

 まだ行く場所は決まっていない。

 海。

 港町。

 森。

 知らないダンジョン。

 候補だけが増えていく。

それでも、

 次に誰と行くのか。

 その話だけは、誰もしなかった。

 夜のローデン集落へ入る。

 昼間とは違い、通りを歩くNPCの姿は少ない。

 宿や家々の窓から漏れる灯りが、暗い道を照らしていた。

「今日はもう宿で休もうぜ」

 コリーが言う。

「賛成」

「私もです」

 セブンも頷いた。

「さすがに今日は疲れたわ」

「じゃあ宿行こう」

 4人は、以前利用した宿へ向かった。

 部屋を取って別れたあと、エントは自分の部屋でベッドに腰掛けながらメニューを開いていた。

「次か……」

 帰り道で出た話を思い出す。

 海。

 港町。

 森。

 どれも面白そうだった。

 とりあえず3人に連絡しておこう。

 そう思い、フレンド欄を開く。

 コリー。

 コン。

 セブン。

 誰から送ろうか。

「……まあ、順番でいいか」

 まずコリーを選ぼうとした。

その時、

 通知音。

「ん?」

 新しい表示が開いた。

《グループチャットへ招待されました》

「グループ?」

 招待者。

《セブン》

「……早」

 思わず笑う。

 参加を押した。

 画面が切り替わる。

 メンバーは4人。

 エント。

 コリー。

 コン。

 セブン。

 すでにメッセージが届いていた。

《コリー:お、できた》

《コン:ありがとうございます》

《セブン:毎回個別に連絡するの面倒でしょ》

 エントは少し考える。

 そして、文字を打った。

《エント:ちょうど今、3人に送ろうとしてた》

 すぐに返事。

《コリー:遅えよ》

《エント:今やろうとしてたんだって》

《セブン:だから作ったの》

《コン:これなら次の相談もしやすいですね》

 次。

 その言葉を見て、エントは少しだけ笑った。

《エント:じゃあ次どこ行く?》

 送信。

 数秒もしないうちに、3人から返事が届き始める。

 まだ行き先は決まっていない。

 けれど。

 次もきっと――。

 4人だ。

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