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タイドロブスター

巨大な鋏が、石造りの足場へ振り下ろされる。

「避けろ!」

エントは横へ飛んだ。

直後、

轟音とともに、さっきまで立っていた場所へ巨大な鋏が叩きつけられた。

石片が飛び散る。

「うおっ!」

コリーが腕で顔を庇いながら後ろへ下がる。

エントはすぐに身体を起こした。

「これ、盾で受けるの無理そうだな……!」

タイドロブスターが鋏を持ち上げる。

足場そのものが壊れたわけではない。

だが、あの一撃を真正面から受け止めようとは思えなかった。

「受けないで! 避けられるなら避けて!」

「そのつもり!」

セブンへ返しながら、エントは剣と盾を構え直す。

《タイドロブスター Lv37》

「攻略情報にないやつだよな?」

「少なくとも私は知らない!」

セブンが魔導書を開く。

「エント、少し離れて!」

「了解!」

エントが横へ動く。

直後、セブンの前に魔法陣が展開された。

「《ライトニング》!」

閃光。

雷撃がタイドロブスターの甲殻へ直撃する。

青白い光が巨体を包んだ。

「入った!」

コリーが声を上げる。

「……硬い」

セブンが呟いた。

甲殻に黒い跡は残った。

だが、タイドロブスターは構わず身体を揺らす。

長い触角が大きく振れた。

次の瞬間、

「来る!」

巨大な鋏が横薙ぎに振るわれた。

エントは盾を前へ出しながら後ろへ跳ぶ。

完全には避け切れない。

鋏の先端が盾を掠めた。

「っ!」

腕ごと身体を持っていかれる。

足が床を滑った。

「エント!」

「大丈夫!」

直撃ではない。

それでも軽くない。

「《プロテクト》!」

コンの声とともに、淡い光がエントの身体を包んだ。

「ありがとうございます!」

「無理に受けないでください!」

「はい!」

タイドロブスターが再び鋏を持ち上げる。

エントは正面から少し外れた。

全部受ける必要はない。

狙われているなら、避ければいい。

「こっちだ!」

足場を蹴る。

タイドロブスターの正面を横切るように走った。

巨大な頭部がエントを追う。

鋏が動く。

振り下ろし。

エントは一歩踏み込み――直前で《ステップ》を使った。

身体が横へ滑る。

鋏が石床を叩いた。

「今!」

弦が鳴る。

コリーの矢がタイドロブスターの頭部へ飛んだ。

硬い甲殻に当たり、弾かれる。

「マジか」

コリーが次の矢を番える。

「なら――《パワーショット》!」

強く引き絞られた弦が鳴った。

先ほどより勢いを増した矢が胴体へ突き刺さる。

甲殻に鋭い音が響いた。

だが、矢は浅く食い込んだところで止まった。

「これでも浅いか」

「《アイスランス》!」

続けてセブンの氷槍が飛ぶ。

甲殻へ突き刺さり――砕けた。

「こっちも通りにくい」

「柔らかいとこ探す!」

コリーがタイドロブスターを睨む。

「頼む!」

エントは剣を握り直した。

自分でも近くで確かめたい。

タイドロブスターが鋏を引く。

振り下ろしではない。

「……ん?」

巨体が沈んだ。

次の瞬間、

「うわっ!」

前へ出た。

巨体に似合わない勢いだった。

「エント!」

正面から迫ってくる。

避け切れない。

「《ブレイス》!」

盾を構え、身体を沈める。

衝撃。

「ぐっ……!」

腕が痺れた。

足が床を滑る。

それでも真正面から弾き飛ばされることだけは避ける。

だが、

「まずい――」

視界の端。

鋏が動いた。

「エント、下がって!」

セブンの声。

エントは盾で受けることを諦め、そのまま横へ転がった。

直後、巨大な鋏が石床を抉る。

「危なっ……」

「《ヒール》!」

コンの魔法が飛ぶ。

腕に残っていた痛みが薄れていく。

「助かります!」

「まだ来ます!」

タイドロブスターが身体の向きを変える。

エントはすぐに立ち上がった。

正面は危険だ。

振り下ろし。

薙ぎ払い。

それに突進。

どれもまともに受けるには重すぎる。

「コリー!」

「見てる!」

返事は早かった。

コリーは攻撃の手を少し落とし、タイドロブスターの動きを追っている。

「頼む!」

エントはタイドロブスターの正面へ戻る。

完全な正面には立たない。

少し斜め。

いつでも横へ逃げられる位置。

タイドロブスターの鋏が動く。

「来い!」

振り下ろし。

避ける。

石床へ鋏が落ちる。

その瞬間、コリーの視線が鋏の付け根を捉えた。

「そこか?」

矢を番える。

「《ピンポイント》!」

弦が鳴った。

狙ったのは鋏ではない。

鋏と胴体を繋ぐ関節部分。

矢が深く突き刺さった。

タイドロブスターが鋏を跳ね上げ、巨体を大きく揺らす。

「おっ!」

「今のは効いてる!」

「やっぱ関節だ!」

コリーが次の矢を番える。

「殻より全然通る!」

「じゃあそこ狙う!」

エントも前へ出た。

鋏が持ち上がる。

その付け根。

甲殻同士の隙間。

「《スラッシュ》!」

剣を振る。

刃が入り込んだ。

「っ!」

今度は手応えがある。

タイドロブスターが鋏を大きく振り、エントを振り払おうとする。

「いける!」

エントは剣を引き抜いて後ろへ下がった。

鋏の先端が目の前を通り過ぎる。

「関節なら通る!」

「見えてる!」

セブンが魔導書を開いたまま、タイドロブスターへ手を向ける。

「でも動いてるところに当てるのは――」

タイドロブスターがエントを追って向きを変える。

その瞬間、

後脚の付け根が露出した。

「セブン、左の後ろ!」

コリーが叫ぶ。

「分かってる!」

魔法陣。

「《ライトニング》!」

雷撃が走った。

後脚の関節へ直撃する。

タイドロブスターの巨体が大きく揺れた。

「入った!」

「やっぱりそこね!」

セブンの声が少し上がる。

「他にもあるはず!」

コリーが位置を変える。

正面から脚、腹側、甲殻の継ぎ目へと視線を走らせる。

「腹の下も柔らかそうだけど……あれ狙うの無理だな」

「潜り込むのは嫌だぞ!」

「俺もやれとは言わねえよ!」

エントは思わず笑った。

その直後、

タイドロブスターの鋏が大きく開く。

「来るぞ!」

エントは横へ走った。

だが、タイドロブスターが狙ったのはエントではなかった。

「え?」

巨体が急に向きを変える。

コリーの方だ。

「俺かよ!」

突進。

「コリー!」

エントが叫ぶ。

コリーは横へ跳ぶ。

だが、タイドロブスターの方が速い。

「《プロテクト》!」

コンの魔法。

淡い光がコリーを包む。

直後、鋏が横薙ぎに振るわれた。

「っぶね!」

コリーは身体を低くする。

一撃目は避けた。

「助かった、コンさん!」

「まだです!」

タイドロブスターが身体を回す。

反対側の鋏。

「うおっ!」

コリーが後ろへ跳ぶ。

今度は間に合わない。

鋏の先端が身体を掠めた。

コリーが床を転がる。

「コリー!」

「平気!」

すぐに身体を起こす。

「《ヒール》!」

コンの回復が飛ぶ。

「マジ助かる!」

エントはタイドロブスターへ向かって走った。

「こっち見ろ!」

剣で脚を叩く。

硬い甲殻。

刃は弾かれた。

タイドロブスターが、脚を叩いたエントへ身体を向ける。

巨大な鋏が再びエントの方へ持ち上がった。

「エント、そのまま!」

コリーの声。

「何か見えた?」

「多分!」

エントはタイドロブスターの周囲を動く。

振り下ろされる鋏を避ける。

続く薙ぎ払いを、盾を斜めに当てて逸らした。

腕に衝撃が走る。

「向き変える時、脚の付け根が見える!」

「なるほど!」

エントはそのまま横へ走る。

タイドロブスターが追う。

巨体の向きを変えるため、複数の脚が動いた。

甲殻の隙間が露出する。

「セブン!」

「見えてる!」

「《アイスランス》!」

氷の槍が飛ぶ。

脚の付け根へ突き刺さった。

今度は砕けない。

タイドロブスターの身体が傾いた。

「よし!」

エントも踏み込む。

「《スラッシュ》!」

別の脚の関節を斬る。

確かな手応え。

タイドロブスターが大きく身体を揺らした。

「いけるな!」

「エントが向き変えさせれば、狙える!」

「了解!」

エントが正面を横切る。

タイドロブスターが追う。

脚の付け根が開いた。

コリーが矢を放つ。

その直後、エントが避けた先を矢が掠める。

「うおっ!」

「悪い!」

「危なっ!」

「そっち行くと思わなかった!」

完璧には噛み合わない。

それでも、最初よりは明らかに戦えていた。

「右行く!」

「了解!」

今度は先に声を出す。

エントが走る。

タイドロブスターが追う。

「今!」

コリーの矢が関節へ刺さる。

「《ライトニング》!」

続けて雷撃。

タイドロブスターが大きく身体を揺らした。

「今の、効いてます!」

コンの声にも少し明るさが混じる。

「このままいけるんじゃね?」

「まだ油断しないで!」

セブンがすぐに返した。

「分かってるって!」

タイドロブスターが鋏を振り上げる。

エントはその動きを見る。

何度か見た分、最初よりは動きも読める。

「来る!」

エントが横へ動いた。

だが、

タイドロブスターは追ってこなかった。

「……ん?」

巨体が後ろへ下がる。

水際。

「何する気だ?」

コリーが弓を構える。

タイドロブスターの後脚が水へ入った。

「待って」

セブンの声が低くなる。

さらに一歩。

巨体が水の中へ沈んでいく。

「潜るのか?」

「撃つ?」

「待って、狙いにくい!」

セブンが止める。

タイドロブスターの甲殻が水面の下へ消えた。

最後に長い触角が沈む。

静かになった。

「……どこ行った?」

コリーが水面へ矢を向ける。

エントも剣と盾を構えたまま、水際から少し距離を取った。

「全員、水から離れた方がいい」

「そうね」

4人が足場の中央寄りへ移動する。

水面を見る。

暗い。

底は見えない。

「今のうちに回復します」

コンが言った。

「エントさん、少し怪我してます」

「お願いします」

「コリーさんも」

「助かります」

「《ヒール》」

淡い光が傷を覆う。

コンは水面を気にしながら、続けて魔法を発動した。

「《リジェネレイト》」

先ほどとは違う淡い光が、エントの身体へ残った。

「これも?」

「はい。次はどこから来るか分からないので、先に掛けておきます」

「ありがとうございます」

「コリーさんにも掛けます。セブンさんは後ろにいるので、今は2人だけにしますね」

「了解」

コンが続けて魔法を使う。

傷を治すためだけじゃない。

次に何が来るか分からないから、先に備えている。

その間も、セブンは水面から目を離さない。

「どこから出てくるか分からないわよ」

「最初も水の中だったしな」

エントは盾を握り直した。

少しずつだが、戦い方は見えてきた。

問題は――

「水の中でも同じ動きするとは限らないよな」

「だな」

コリーが答えた。

その時、

水面に波紋が広がった。

「来る!」

エントが声を上げる。

全員が構える。

だが、波紋は正面ではない。

右。

いや。

「違う!」

セブンが振り向く。

背後。

足場の反対側。

水面が爆発した。

「っ!」

大量の水が降り注ぐ。

その中から、巨大な鋏が飛び出した。

「コン!」

エントが叫ぶ。

水中から持ち上がった巨体。

その正面にいるのは――コンだった。

巨大な鋏が開いた。

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