↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/39

調整槽

 エントは細い石橋の先へ目を向けた。

「で、どう進むんだ?」

 エントが聞く。

「ちょっと待って」

 セブンがメニューを開く。

 表示された攻略情報へ目を走らせてから、《調整槽》全体を見渡した。

「ここは水位を変えながら進むみたい。レバーを操作すると、一方の水位が下がって、別のところが上がる」

「それで通れる場所が変わるのか」

「そういうこと」

 セブンが少し先にあるレバーを指す。

「最初はあれね」

「順番も分かってる?」

「一応。攻略情報だとね」

 コリーが石橋の先を見る。

「じゃ、とりあえずその通り行ってみるか」

「ですね」

 コンも頷いた。

「よし」

 エントが一歩踏み出す。

 4人は石橋を渡り始めた。

◇

 石橋は、近くで見ると想像していたより狭かった。

 横に2人並ぶことはできるが、戦いながら動き回るには余裕がない。

 下を覗けば、水を湛えた貯水槽が見える。

「結構高いな」

「前見て歩きなさいよ」

「見ただけだって」

「落ちても知らないからね」

「その時は助けてくれよ」

「自分で上がってきなさい」

「厳しいな」

 そんなことを話しながら進み、最初のレバーへたどり着く。

 古びた金属製のレバーだった。

 根元からは太い棒が壁の中へ伸びている。

「これか」

「みたいね」

 セブンが攻略情報を確認する。

「下げればいいって」

「じゃ、やるぞ」

 コリーがレバーを握った。

 力を込める。

 重い音とともにレバーが倒れた。

 少し遅れて、どこかで大きな音が響く。

「お」

 エントが貯水槽を見る。

 壁の一部にあった水門がゆっくりと開いていた。

 大量の水が流れ出す。

 目の前の貯水槽から水が減っていく一方、その先にある別の貯水槽へ水が流れ込んでいく。

「あっちを下げた分、こっちに流してるのか」

「そうみたいですね」

 コンも水の流れを目で追っている。

 水位が下がる。

 やがて、それまで水に沈んでいた足場が姿を現した。

「なるほど」

 エントは水路の先を見る。

「こうやって道を作るのか」

「そういうことね」

 セブンがメニューを閉じる。

「次はあそこ」

 水位の下がった先に、別の石橋が続いている。

「行くか」

 コリーを先頭に、4人は再び歩き始めた。

◇

 その後も、レバーを操作して水位を切り替えながら先へ進んだ。

 沈んでいた足場が現れることもあれば、それまで歩けていた場所が水に沈むこともある。

 単純に奥へ進めばいいわけではない。

「次、右だっけ?」

「右のレバーを操作してから、一回戻る」

 セブンが答える。

「戻るのか」

「そのまま進むと、次の通路が水没したままだから」

「なるほどな」

 攻略情報と実際の構造を見比べながら進む。

 途中、何度かモンスターにも遭遇した。

 狭い石橋ではウォーターリザードに足場を崩されかけ、貯水槽の脇ではシェルクラブに進路を塞がれた。

 それでも、《導水路》で何度も戦った相手だ。

 最初ほど時間はかからない。

 さらに奥へ進み、次のレバーへたどり着く。

「これで3つ目か」

 エントがレバーを見る。

「そうね。これを動かしたら、向こうの通路が使えるようになるはず」

 セブンが指した先には、今は半分ほど水に沈んだ通路がある。

 コリーがレバーを倒した。

 水門が動く。

 水が流れ始める。

 エントはその様子を眺めた。

 どこから水が入り、どこへ抜けていくのか。

 その流れをなんとなく目で追った。

「面白いな、これ」

「何が?」

 コリーが聞く。

「いや、水の流れ」

「お前、こういうの好きだったっけ?」

「俺も今知った」

「なんだそれ」

 コリーが笑う。

「でも、分かる気はします」

 コンが言った。

「動かしたところが、ちゃんと別の場所に繋がってるんですよね」

「そうそう。それ」

 エントが頷く。

「ゲームだから動くっていうより、ここを動かしたから、あっちがこうなるっていうか」

「……それ、同じじゃない?」

 セブンが言う。

「違うって」

「何が?」

「なんとなく」

「分かってないじゃない」

「感覚では分かってる」

「はいはい」

 セブンはそう言いながら、先に歩き始めた。

「ほら、行くわよ」

「分かってるって」

 エントも後を追った。

◇

 さらに奥へ進むにつれ、周囲の設備は大きくなっていった。

 壁を走る管も太くなり、ところどころで低い振動音が響いている。

 その先で、セブンが足を止めた。

「ここ、一回待って」

「何かある?」

 コンが聞く。

「この先、水が噴き出す場所があるみたい」

 セブンが壁際を指した。

 太い管が何本も通っている。

 その一部には亀裂が入り、周囲の石壁が濡れていた。

「一定間隔で水が噴き出すみたい」

「当たると?」

「吹き飛ばされるって」

 エントは少し先を見る。

 通路はそれほど広くない。

 右側には壁。

 左側には貯水槽。

「落ちたら面倒そうだな」

「だからタイミング合わせて渡るの」

 セブンが攻略情報を見る。

「噴き出した直後なら、次まで少し余裕があるみたい」

「じゃあ、それ待ちか」

 4人はその場で足を止める。

 しばらくして――

 ――バシュッ!

 壁の亀裂から、大量の水が横向きに噴き出した。

「うわ」

 エントが思わず身体を引く。

 水は通路を横切り、そのまま貯水槽へ落ちていった。

「結構すごいな」

「まともに食らったら落ちるわね」

 セブンが様子を見る。

「今なら行けそう。行くわよ」

 コリーが先頭へ出る。

「了解」

 続いてエント。

 その後ろにコン、最後尾にセブン。

 4人は通路を進み始めた。

 1つ目の亀裂を越える。

 2つ目。

 まだ水は出ない。

「このまま行けそうだな」

「あと少し」

 セブンが言う。

 コリーが先へ進む。

 エントも続いた。

 その時だった。

 壁の奥から、低い音が響いた。

「ん?」

 エントが横を見る。

 亀裂から水が滲み出す。

「コリー!」

「っ!」

 コリーが前へ跳ぶ。

 直後――

 ――バシュッ!

 水が噴き出した。

「早っ――」

「コンさん、止まって!」

 エントは咄嗟に腕を伸ばし、後ろから来ていたコンの進行を制した。

 そのまま自分も一歩下がる。

 目の前を大量の水が横切る。

 飛沫が顔へかかった。

「大丈夫ですか!?」

「大丈夫!」

 エントが答える。

 前を見る。

 コリーは水の届かない位置まで抜けていた。

「コリー!」

「平気!」

 声が返ってくる。

 最後尾のセブンも、噴出範囲の手前で止まっていた。

「……ちょっと待って」

 セブンが攻略情報を開く。

 その表情が少し険しくなる。

「今の、早くなかった?」

 エントが聞く。

「早い」

 セブンが答える。

「書いてある周期と合ってない」

「情報が間違ってた?」

「間違ってるっていうより、まだ更新前なんじゃない?」

 セブンは画面へ目を戻す。

「ここ、見つかってまだそんなに経ってないし。周期にもズレがあるのかも」

「なるほど」

 コリーが向こう側から声をかける。

「次は、ちゃんと様子見ながら行こうぜ」

「そうね」

 セブンも頷いた。

「噴き出す前に音がしてたし、それも見た方がよさそう」

「ですね」

 コンが壁を見る。

「水も少し漏れていました」

「じゃあ、次はそこも見るか」

 エントが言う。

 噴き出していた水が止まる。

 4人はもう一度周囲を確認した。

「行ける?」

 コリーが聞く。

「待って」

 セブンが答える。

 誰もすぐには動かない。

 壁の音。

 亀裂から漏れる水。

 それを確認してから、セブンが顔を上げた。

「……今」

 エントたち3人が一気に通路を抜ける。

「よし」

 エントが振り返る。

「こういうのもあるんだな」

「新しいダンジョンだしね」

 セブンはもう一度攻略情報へ目を落とした。

「もう少し新しい情報が出てないか、後で見てみる」

◇

 それからは、攻略情報を参考にしつつ、水が漏れていないか、管から音がしていないかにも注意して進んだ。

 何度か足を止めることにはなったが、それでも順調に奥へ進んでいく。

 やがて、最後のレバーへたどり着いた。

「これで終わり?」

 エントが聞く。

「この区画はね」

 セブンが答える。

「これを動かせば、先に進めるはず」

「じゃ、やるか」

 コリーがレバーへ手をかける。

 力を込める。

 重い音。

 どこかで水門が開いた。

 すぐ近くの貯水槽から、大量の水が流れ出していく。

 水位がゆっくりと下がっていった。

「お」

 エントが覗き込む。

 水の下から石造りの通路が現れる。

 さらに水位が下がると、その奥に暗い入口が見えた。

「ここか」

「みたいですね」

 コンが言う。

 4人は水の引いた通路へ下りる。

 先ほどまでの《調整槽》とは空気が違った。

 通路は狭い。

 壁もところどころ崩れ、床には泥が溜まっている。

 流れている水も少ない。

 エントが奥を見る。

「ここから先は?」

 セブンが攻略情報を確認する。

「《旧排水区》」

「情報は?」

「あるにはあるけど――」

 セブンが画面を少し動かす。

「ここまでより少ないわね。まだ情報が揃ってないところもあるみたい」

「じゃあ、ここからは分からないことが増えるってことか」

「そうなるわね」

 エントは、水の引いた先へ続く暗い通路を見る。

 さっきまでより狭く、先までは見通せない。

 それでも、分からない場所へ進むことに、不安より先に興味が湧いた。

「じゃ、行ってみようぜ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。