↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/41

エントとセブン

 ログインして最初に確認したのは、フレンド欄だった。

 コリーの名前は暗い。

 今日はまだログインしていないらしい。

「さて、どうすっかな」

 エントはメニューを眺めながら考える。

 1人で狩りに出てもいい。

 そう考えながらフレンド欄を見ると、ログインしている名前があった。

 セブン。

「……誘ってみるか」

 エントはその名前を選び、メッセージを送った。

《今何してる?》

 少し待つ。

《レベル上げ》

 短い。

《1人?》

《そうだけど》

《じゃあ俺も行っていい?》

 今度は少し間が空いた。

《別にいいわよ》

「よし」

 エントは待ち合わせ場所を聞き、そのまま歩き出した。

◇

「お待たせ」

「来た」

 セブンがエントを見る。

「2分くらい待ったわよ」

「2分じゃん」

「待たせた側が言わないの」

「それはそう」

 エントが笑うと、セブンはそのまま歩き出した。

「で、どこ行くの?」

 エントが口元を緩めると、セブンはそのまま歩き出した。

「セブンが?」

「そうだけど」

 エントは少し考える。

「ちなみに、俺のレベルで行って平気なとこ?」

「適正ではないわね」

 エントは一瞬考える。

「結構離れてるから。危なかったら下がりなさいよ」

「了解」

「無理して死なないでよね」

「そこはちゃんと判断するって」

「ならいいけど」

 セブンの後を歩く。

「ちなみに、何狩るの?」

「着いてからでいいでしょ」

「教えてくれてもよくない?」

「もうすぐ着くわよ」

「そこ隠す意味ある?」

「別に隠してないけど」

「じゃあ教えてよ」

「だから、着けば分かるって」

「頑固だなあ」

「うるさい」

 こうして2人だけで行動するのは初めてだ。

 それでも、思ったほど気まずくはない。

 この前、一緒に森を歩き回ったからだろうか。

 少なくとも、2人きりだからといって会話に困ることはなさそうだった。

◇

 しばらく進んだところで、セブンが足を止めた。

「いた」

「どれ?」

「あれ」

 少し離れた場所。

 木々の間を、大きな猪のような魔物が歩いていた。

 灰褐色の硬そうな体毛。

 太い脚。

 口元からは、短く湾曲した牙が突き出している。

 エントが視線を向ける。

《アイアンボア Lv33》

「……33か」

 知らないモンスターだ。

「硬そうだな」

「実際硬いわよ。HPとVITが高いし、物理も通りにくいから」

「なるほど」

「その代わり、火に弱いわ」

 エントはセブンを見る。

「だからここ選んでるのか」

「そう。私には狩りやすいから」

「相性込みで選んでんだな」

「レベル上げなんだから当たり前でしょ」

「合理的」

「何よ、その言い方」

「褒めてる」

 セブンの前で魔導書が開いた。

 ページに刻まれた文字が淡く光り、片腕を覆うガントレットへ魔力が集まっていく。

 その時。

 アイアンボアの前脚が地面を掻いた。

 頭が僅かに下がる。

「来るか」

 エントも盾を構えた。

「来るわよ!」

「おう!」

 アイアンボアが地面を蹴った。

「速っ!」

 予想していたより速い。

 エントは咄嗟に盾を斜めへ向けた。

「ぐっ……!」

 受け止めるのではなく、流す。

 そのつもりだった。

 だが――重い。

 盾に食い込んだ衝撃を殺し切れず、身体が地面から浮いた。

「うおっ!」

 数歩分、横へ弾き飛ばされる。

 背中から地面へ落ち、HPが目に見えて削れた。

「エント!」

「大丈夫!」

 すぐに身体を起こす。

 だが、思っていた以上に痛い。

 HPも、今の1発を何度も受けていい減り方ではなかった。

「……これ、正面はマジで無理だな」

「だから格上だって言ったでしょ!」

「分かってたけど、思ったより重い!」

「分かったなら離れて!」

「了解!」

 エントが横へ走る。

 開かれた魔導書のページに赤い光が走った。

「《ファイアボール》!」

 火球がアイアンボアへ直撃する。

 炎が弾けた。

 アイアンボアが大きくよろめく。

「やっぱ弱点だと効くな」

「でしょ?」

 アイアンボアがセブンへ身体を向ける。

 エントはすぐにその前へ回り込んだ。

「じゃあ俺が引きつける。火力は任せた」

「無理に止めなくていいからね」

「分かってる!」

 再び前脚が地面を掻く。

 先ほど見た動きだ。

 エントは盾を構え直した。

 突進。

 今度は正面から受けない。

 一歩横へ。

 盾を斜めに当てる。

「ぐっ……!」

 やはり重い。

 盾ごと腕を持っていかれそうになる。

 足が地面を滑り、身体が大きく横へ押された。

 それでも、今度は倒れなかった。

 アイアンボアがエントの横を抜ける。

「さっきよりマシ!」

「そこで喜んでないで!」

「はいはい!」

 追いかけ、長剣を振る。

 刃が硬い体毛を捉えた。

 だが、硬い体毛に阻まれ、刃は浅くしか入らない。

「こっちはやっぱ通らないな」

「そう言ったでしょ!」

「分かってるって!」

 魔導書のページが光る。

「《ファイアアロー》!」

 炎の矢が飛んだ。

 1発。

 続けて、もう1発。

 アイアンボアの身体へ突き刺さる。

「そっちは速いんだな」

「小回り利くからね」

「なるほど」

「ほら、次来るわよ!」

 アイアンボアの頭が下がる。

 エントは盾を構えながら相手を見る。

 同じように受ければ、また押し負ける。

 なら、もっと外へ。

 突進。

 踏み込む方向をずらし、盾の縁を合わせる。

「っ……!」

 衝撃。

 腕が痺れる。

 それでも今度は、巨体の軌道が僅かに横へ逸れた。

「よし!」

 完全ではない。

 それでも、さっきよりはいい。

 エントも数歩よろめきながら、どうにか体勢を立て直す。

「エント、離れて!」

「おう!」

 魔導書に赤い術式が浮かぶ。

「《ファイアボール》!」

 放たれた火球が直撃した。

 アイアンボアの巨体が崩れる。

 アイアンボアの身体が光の粒子へ変わった。

「……ふう」

 エントが息を吐く。

「こりゃ俺の狩場じゃないな」

「最初から私の狩場だって言ってるでしょ」

「分かってたけど、思ったより差ある」

 エントは盾を持った腕を軽く振った。

 突進することは分かる。

 予備動作も見える。

 どう流せばいいのかも、少しずつ分かってきた。

 それでも、分かった通りに身体が動けばどうにかなる相手ではない。

 単純に、能力値が違う。

「帰る?」

「いや」

 エントは首を振った。

「もうちょいやる」

「大丈夫なの?」

「今ので少し分かった。無理なら下がる」

 セブンがエントを見る。

「……ちゃんと下がりなさいよ」

「了解」

「それならいいわ」

 セブンが周囲を見回す。

「あっちに2体いる」

「もう見つけたの?」

 セブンはエントの様子を確かめる。

《アイアンボア Lv32》

《アイアンボア Lv34》

「今度は2体か」

「どうする?」

 セブンが辺りを探る。

 少し考える。

「Lv32の方、先に落とせる?」

「できると思う」

「じゃあ俺は34を引きつける」

「1人で?」

「倒せって言われたら無理」

 それは迷わず答えた。

「でも、そっちが終わるまで時間稼ぐくらいならやってみる」

 エントは一瞬考える。

「だから正面から受けない」

「それでも危ないわよ」

「危なくなったら逃げるって」

 セブンは少し考えてから、2体を見る。

「……分かったわ。でも、本当に無理しないでよ」

「了解」

「危ないと思ったら私の方に寄せて」

「頼もしいねえ」

「ふざけてる場合じゃないでしょ」

「大丈夫だって」

 2体のアイアンボアがこちらに気づいた。

 セブンは少し間を置いてから、2体へ目を向ける。

「おう!」

◇

 2体が地面を蹴った。

 エントはLv34の個体へ向かう。

 先ほどより一回り大きい。

 頭が下がる。

「来た!」

 盾を構える。

 突進。

 先ほどと同じように、正面を外して盾を斜めに当てる。

 瞬間。

「ぐっ――!」

 重い。

 先ほどの個体より、さらに強い。

 盾の角度は悪くなかった。

 それでも衝撃を逃がし切れない。

「うおっ!」

 足が地面から離れた。

 身体が横へ弾き飛ばされる。

 地面へ肩から落ち、そのまま転がった。

 HPが大きく削れる。

「エント!」

「大丈夫! そっちやって!」

 立ち上がりながら叫ぶ。

 痛い。

 今のを何度も食らえば、普通に死ぬ。

「……これ止めるの、思ったよりきついな!」

 アイアンボアが向き直る。

 それでも、意識はこちらへ向いている。

 それでいい。

「ほら、こっちだ!」

 長剣を一度当て、すぐ離れる。

 刃は硬い体毛を掠めるだけだ。

 倒す必要はない。

 セブンの方へ行かせなければいい。

 向こうでは、Lv32の個体がセブンへ突進する。

 セブンが横へ動く。

 開かれた魔導書から炎が走った。

「《ファイアアロー》!」

 炎の矢が飛ぶ。

 1発。

 2発。

 アイアンボアが向きを変えたところへ、さらに魔力が収束する。

「《ファイアボール》!」

 炎が弾けた。

 アイアンボアが炎に押されるようによろめく。

「速いな……!」

 思わずそちらへ意識が向く。

 その時。

 目の前のアイアンボアの前脚が地面を掻いた。

「っと!」

 エントはすぐに視線を戻した。

 突進。

 今度は受けない。

 横へ跳ぶ。

 巨体がすぐ脇を駆け抜けた。

「まともに触らない方がいいな」

 追いかける。

 長剣を当てる。

 アイアンボアが再びエントへ向き直った。

 頭が下がる。

 今度は避けるだけでは、セブンの方へ抜ける。

「こっちは通すわけにいかないか」

 盾を構える。

 突進。

 正面ではなく、外側へ。

 盾を斜めに差し込む。

「ぐっ!」

 衝撃が腕を突き抜ける。

 足が滑った。

 完全には流せない。

 それでも巨体の進路が僅かに変わる。

 セブンからは逸れた。

「よし……!」

 だが、その代わりエント自身は大きく体勢を崩している。

 追撃する余裕はない。

 アイアンボアが旋回する。

「早いな!」

 慌てて距離を取る。

 次の突進。

 今度は避ける。

 さらに次。

 盾を使う。

「ぐっ……!」

 また押される。

 HPが少し削れた。

 さっきよりはマシ。

 だが、決して余裕があるわけではない。

「エント!」

 セブンの声が飛ぶ。

「もうちょっと!」

「了解!」

 Lv34のアイアンボアが向き直る。

「もうちょいなら……付き合う!」

 突進。

 盾を合わせる。

「っ!」

 今度は角度が浅い。

 衝撃を逃がし切れず、身体が横へ弾かれた。

 片膝をつく。

「くそっ!」

 まだ安定しない。

 立ち上がる。

 アイアンボアが再び迫る。

 エントはすぐに横へ逃げた。

 これ以上、全部を盾でどうにかしようとするのは危ない。

 避ける。

 流す。

 距離を取る。

 長剣で気を引く。

 使えるものを全部使って、とにかく時間を稼ぐ。

 向こうでは、セブンの魔導書に赤い文字が連なる。

「《ファイアアロー》!」

 炎の矢がLv32の個体を射抜いた。

 Lv32のアイアンボアが崩れ落ちる。

 その身体が光へ変わった。

「エント!」

「待ってました!」

「こっち寄せられる?」

「やってみる!」

 エントは立ち位置を変える。

 Lv34のアイアンボアが追ってくる。

 突進を大きく避け、セブン側へ誘導する。

「この辺?」

「もう少し!」

「注文多いな!」

「いいから!」

 さらに一歩。

 アイアンボアが追う。

「今、離れて!」

 エントが横へ跳ぶ。

 魔導書のページが勢いよくめくれ、赤い術式が浮かび上がった。

「《フレイムバースト》!」

 凝縮された炎が一気に爆ぜる。

 広がった火炎がアイアンボアを飲み込んだ。

「範囲か!」

 アイアンボアが炎の中で大きくよろめく。

 だが、倒れない。

 炎の中からアイアンボアが飛び出してきた。

「来る!」

 エントは盾を構える。

 真正面には立たない。

 突進へ斜めから盾を当てる。

「ぐっ!」

 腕が跳ね上がる。

 身体も横へ押し飛ばされた。

 だが、どうにか倒れず踏みとどまる。

「まだ重い……!」

「無理に止めなくていいわよ!」

「でも今なら――」

 アイアンボアの勢いが僅かに落ちている。

 エントは長剣を振り、注意を引く。

 完全には止められない。

 少しずつ身体の向きがセブンへ変わっていく。

「セブン、そろそろ無理!」

「もういい、離れて!」

「了解!」

 即座に後ろへ跳ぶ。

 アイアンボアの足元に赤い術式が浮かび上がった。

「《フレイムピラー》!」

 直後。

 地面から炎の柱が噴き上がる。

「おお……!」

 巨体が炎に包まれた。

 アイアンボアの足元が大きく揺らぐ。

 動きも明らかに鈍っている。

 アイアンボアが炎の中からよろめくように飛び出す。

「エント!」

「行く!」

 体勢が崩れている。

 今ならいける。

 エントが踏み込む。

 長剣を振り抜いた。

 アイアンボアが崩れ、その身体から光の粒子が散った。

「……っしゃ!」

 エントが長剣を下ろす。

「疲れた……!」

「大丈夫?」

「なんとか」

 HPはかなり減っている。

 盾を持っていた腕にも、まだ痺れが残っていた。

「さすがに34はきつい」

「途中、何回か本当に危なかったわよ」

「そこは否定しない」

「最初なんて思いっきり飛ばされてたじゃない」

「あれはビビった」

「笑い事じゃないわよ」

「でも、時間は稼げただろ?」

「……まあ、それはそうね」

 エントは盾を見る。

「流し方は少し分かってきたんだけどな」

「分かってても、身体が追いついてない感じね」

「レベル差だな」

「それだけじゃないけどね。まだ毎回同じようにはできてないし」

「そこは練習」

「調子乗らないの」

「はい」

 エントは笑う。

 それから、先ほどの戦闘を思い返した。

「セブン、火だけでも結構種類あるんだな」

「そりゃ魔術師だもの」

「《ファイアアロー》は速い。《ファイアボール》は普通に火力。《フレイムバースト》は範囲」

「大体そんな感じね」

「《フレイムピラー》は、足止まってる相手に使う?」

「そうね。威力はあるけど、動かれると外しやすいから」

「なるほど。だから寄せろって言ったのか」

「そういうこと」

 エントは頷いた。

 アイアンボアが火に弱い。

 だから火を使う。

 その中でも、状況によって魔法を使い分ける。

 エントは素直に返した。

「やっぱ慣れてんな」

「何が?」

「戦い方」

「それなりにやってるもの」

「俺なんか今日ずっと吹っ飛ばされてるし」

「エントにはまだ早い場所なんだから仕方ないでしょ」

「慰められた?」

「事実を言っただけよ」

「ですよね」

 エントは納得した。

 その後も数戦した。

 やはり、この狩場はエントには早い。

 攻撃は重い。

 こちらの斬撃は通りにくい。

 盾の角度を合わせても押し負ける。

 少しタイミングを外せば、まともに吹き飛ばされる。

 最初よりはマシになった。

 それでも、安定して戦えるとはとても言えない。

 セブンがいなければ、ここで何体も続けて狩るのは厳しいだろう。

 それでも、エントには妙に面白く感じられた。

「……面白いな」

「何が?」

「アイアンボア」

「苦戦してるのに?」

「苦戦してるから」

「私もレベル上げするんだから、別にいいでしょ」

「そっか」

「そうよ」

 楽には勝てない。

 だから相手を見る。

 突進の始まり。

 盾を当てる角度。

 避けた後の位置。

 押し負けた時に、どちらへ逃げるか。

 少しずつ考えることが増えていく。

 エントは、アイアンボアが突進した後の距離を見た。

 盾で流しても、追って斬り返す頃には距離が空いている。

「あ」

「何?」

「試したいことある」

 セブンが怪訝そうにする。

「この相手に?」

「この相手だから」

「……何するの?」

「《ステップ》」

◇

「こいつ、突進流した後に斬り返すまでがちょっと遠いんだよな」

「勢いあるからね」

「《ステップ》使えば、そのまま横に抜けられないかなって」

「避けるのに使うってこと?」

「そう」

 セブンは少し間を置いた。

「失敗したら危ないわよ」

「そこは分かってる」

「さっきからHP削られてるんだから、危ないと思ったらやめなさいよ」

「了解」

 アイアンボアがこちらを見る。

《アイアンボア Lv33》

 頭が下がった。

 エントは少し腰を落とす。

 来る。

「《ステップ》!」

 一気に横へ移動する。

 突進が脇を抜けた。

「よし!」

 そのまま剣を振ろうとする。

 だが、アイアンボアが思ったより早く向きを変えた。

 アイアンボアが思ったより早く向きを変えた。

「戻るの早っ!」

 攻撃を止め、盾を上げる。

 衝撃。

「ぐっ!」

 まともに受け切れず、数歩押し飛ばされた。

 HPがさらに削れる。

「エント!」

「大丈夫!」

 すぐに距離を取る。

「今のは駄目だな」

「避けるまではできてたけど」

「近すぎた」

「まだやるの?」

「もう1回だけ」

「HPは?」

「先に回復する」

「ならいいわ」

 回復を済ませる。

 エントはもう一度アイアンボアを見る。

 次は真横ではなく、少し斜めへ抜ける。

 そうすれば、向き直るまでに少し余裕ができるかもしれない。

 頭が下がった。

「《ステップ》!」

 今度は斜めへ。

 突進の軌道から外れる。

 同時に長剣を引く。

 アイアンボアが旋回する。

「まだ!」

 今度は先ほどより距離がある。

 長剣を振った。

 斬撃が入る。

「お!」

 だが、浅い。

 すぐに離れる。

「そこまでか」

「でも当たったわね」

「もうちょいだな」

「まだやる気?」

「今日はこれでいい」

「あら、珍しい」

「今のまま続けても被弾増えるだけだろ」

「ちゃんと分かってるじゃない」

「俺を何だと思ってんの?」

「気になるとすぐ試す人」

「それは否定できない」

 セブンの表情がわずかに緩んだ。

◇

 少し離れた安全な場所で休憩する。

 エントは地面に腰を下ろした。

「いやー、疲れた」

「エントにはまだ早かったわね」

「それは認める」

「珍しく素直」

「あれだけ吹っ飛ばされたらな」

 エントは盾を見る。

 動きは少しずつ分かってきた。

 それでも、正しく動けたからといって余裕で戦えるわけではない。

 レベル差は大きい。

「でも、セブンって結構考えて戦ってるよな」

「何よ、急に」

「魔法の選び方もそうだし、俺の位置も見てたじゃん」

「見ないと危ないでしょ」

「俺が?」

「両方よ」

 セブンが答える。

「私が魔法撃つ時にエントが射線へ入ったら困るし、エントが危なそうならそっちも見ないといけないし」

「なるほど」

「今日は特にね」

「レベル差あるもんな」

「そういうこと」

「でも合わせてくれてたんだな」

「一緒に戦ってるんだから当然でしょ」

「そっか」

「何?」

「いや。やっぱ上手いなと思って」

「……そう?」

「うん」

「なら、ありがと」

 セブンが少しだけ視線を逸らした。

「そういや、この前ありがとな」

「何が?」

「ルミナフェネック探し」

「あれ?」

 セブンがエントを見る。

「私は《青晶苔》を採りに行ったのよ」

「分かってるって」

「ちゃんと採れたし。私の目的も達成してるから、お礼言われることじゃないわ」

「でも最後まで一緒に探したじゃん」

「同じところまで来てたんだから、途中で帰る理由もなかったでしょ」

「それもそうか」

「そうよ」

 エントは口元を緩めた。

「ルミナフェネックも綺麗だったしな」

「……それはそれよ」

「否定しないんだ」

「綺麗だったのは本当だもの」

「そっか」

「何?」

「いや。セブンって効率いい方が好きだけど、効率だけってわけじゃないんだなって」

「当たり前でしょ」

 セブンは少し間を置いてから続ける。

「時間かけるなら効率いい方がいいってだけ。別に、それ以外が全部つまらないなんて言ってないわよ」

「なるほど」

「エントは逆に、効率より気になった方を優先するでしょ」

「まあな」

「今日だってそうじゃない」

「《ステップ》?」

「普通に狩ってればいいのに、途中から試し始めたじゃない」

「でも使えそうだっただろ?」

「そこは否定しないけど」

「ならいいじゃん」

「そういうところなのよ」

「どういうところ?」

「効率悪くなっても、面白そうだとやるところ」

 エントは少しだけ考え込む。

「効率悪いのは分かってるぞ?」

「分かっててやってるから言ってるの」

「ああ」

 エントはあっさり認めた。

「だって、面白そうなら試したいじゃん」

「今日みたいに?」

「そうそう」

「危ないことまで試さないでよね」

「そこはちゃんと考えるって」

「本当に?」

「さっきも2回で止めただろ」

「……まあ、それはそうね」

「ゲームなんだから、楽しまないともったいないし」

「それは同意するわ」

「お」

「何?」

「意見合った」

「そこは合うでしょ。遊ぶためにやってるんだから」

 エントの口元が緩む。

 少し遅れて、セブンの表情も和らいだ。

◇

 休憩後、もう少しだけ狩りを続けた。

 今度は新しいことを試さない。

 セブンが火属性魔法で削る。

 エントがアイアンボアを引きつける。

 突進は、避けられるなら避ける。

 セブンへ向かいそうなら盾で軌道を逸らす。

 危険なら下がる。

 役割を決めただけで、先ほどまでよりは安定した。

 それでも、エントにとって楽な相手ではない。

 盾ごと押され、何度か攻撃を受け、時にはセブンに助けられながら戦い続ける。



 やがて――

《レベルが上がりました》

「お、上がった」

「おめでとう」

「いやー、きつかった」

「だから私の狩場だって言ったでしょ」

「身に染みたわ」

「次からは先に敵のレベル聞きなさいよ」

「それはそうする」

「素直ね」

「今日くらい離れてるなら先に知っといた方がいい」

「そうね」

 エントは長剣を収めた。

「じゃ、戻るか」

「ええ」

 2人は街へ向かって歩き出した。

◇

「結局、結構やったな」

「エントが途中で別のこと始めたからね」

「でも《ステップ》の使い道は増えそう」

「まだ使いこなせてないけどね」

「そこはこれから」

「次はちゃんと成功させなさいよ」

「採点してくれる?」

「何で私が」

「今日付き合ってくれたし」

「じゃあ今は65点」

「微妙!」

「十分でしょ」

「次は80点くらい欲しい」

「じゃあ頑張りなさい」

「100点じゃないの?」

「いきなり高望みしないの」

「厳しいなあ」

 そんなことを話しているうちに、街へ着いた。

「じゃあ、俺そろそろ落ちるわ」

「私も今日は終わり」

「今日はありがとな。また行こうぜ」

「いいわよ」

 返事は早かった。

「お」

「何?」

「いや、すぐ返ってきたから」

「何よ。嫌なの?」

「いや、むしろありがたいけど」

「ならいいでしょ」

「まあ、そうだな」

「何よ、その反応」

「いや、次も付き合ってくれるんだなって」

「私もレベル上げするんだから、別にいいでしょ」

 セブンがメニューを開く。

「じゃ、またね」

「おう。また」

 セブンの姿が消える。

 エントもログアウトしようとして、少しだけ手を止めた。

 最初に会った時よりは、ずっと話しやすくなった気がする。

「また行こう、か」

 悪くない。

 エントはメニューを操作した。

《ログアウトしますか?》

「はい」

 視界がゆっくりと暗転していった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。