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ルミナフェネックを探して

翌日。

ゲーム内では、日が傾き始める少し前。

エントがリュネールの待ち合わせ場所へ着くと、すでにコンが待っていた。

「あ、エントさん。来ましたね」

「待たせました?」

「いえ、私も今来たところです」

「ならよかった」

コンは杖を手に、辺りを見回す。

「他のお二人は?」

「もうすぐ来ると思います」

エントはフレンド欄を確認した。

どちらもログインしている。

コリーからは少し前に、

《向かってる》

とメッセージが来ていた。

「まあ、コリーは――」

「おーい」

「ほら来た」

聞き慣れた声に振り向く。

人混みの向こうから、弓を背負ったコリーが片手を上げていた。

その隣を歩いているのはセブンだ。

「待った?」

「いや、今来たとこ」

「じゃあ、ちょうどいいな」

「二人一緒だったんだ」

「途中で会った」

「たまたまね」

セブンが答え、その視線をコンへ向けた。

「その人が募集主?」

「そう。コンさん」

コンが軽く頭を下げる。

「はじめまして。コンです。今日は来てくださってありがとうございます」

「コリー。よろしく」

「セブン。よろしく」

「よろしくお願いします」

コリーの目がコンへ向く。

次に、髪の間から覗く狐の耳。

さらに、背後で揺れている尾へ視線を移した。

「……狐見に行くんだよな?」

「はい」

「コンさんも狐系なんだな」

「はい。狐系です」

「なんかちょっと面白いな」

「それ、昨日俺も思った」

「やっぱ思うよな」

「思う」

二人で頷く。

コンは少し困ったように二人のやり取りを見守る。

「……そろそろ行きます?」

エントが言う。

「そうですね」

「流された」

「コリーのせいだろ」

「お前も乗ってただろ」

セブンが二人へ目をやる。

「途中で採集場所寄るから」

「青晶苔だっけ?」

「そう」

コンがセブンへ視線を向けた。

「青晶苔って、この辺りで採れるんですか?」

「もう少し奥。ルミナフェネックの目撃場所ともそんなに離れてないみたい」

「それなら、途中で寄りましょうか」

「助かる」

「じゃあ、それも含めて行きますか」

エントが言うと、コリーが歩き出した。

「珍しいんだろ? ルミナフェネック」

「はい。目撃情報自体があまり多くないみたいです」

「見つかるといいな」

「ありがとうございます」

「こういうのは狩人の出番だな」

「頼りにしてるわ」

「任せとけ」

◇

リュネールを出て、リュグナ大森林へ入る。

ここまではエントも何度か通った道だ。

先頭を歩いていたコリーが、途中で脇道へ入ろうとする。

「そっち行くの?」

「中層ならこっちの方が早いぞ」

「道あるじゃん」

「そっちは遠回り」

「マジか。今まで普通にそっち歩いてたわ」

「もったいねえな」

「教えてくれよ」

「聞かれてねえし」

「それはそうだけど」

エントは脇道へ目を向ける。

「……知ってた?」

隣を歩いていたセブンに聞く。

「知らない」

「だよな」

「おい」

前を歩いていたコリーが振り返った。

「なんで俺に聞かねえんだよ」

「だってコリー、もう知ってるじゃん」

「そういう意味じゃねえよ」

「じゃあ何だよ」

「いや……もういい」

「何なんだよ」

後ろから、コンの笑い声が少しだけ聞こえた。

「コンさんまで笑ってるじゃん」

「すみません。つい」

「まあ、いいですけど」

「ほら、行くぞ」

「誰のせいで止まったと思ってんだよ」

「お前だろ」

「俺?」

4人は脇道へ入っていった。

しばらく進むと、人の気配が少なくなる。

整備された道も次第に細くなり、地面を覆う草が増えていった。

先頭のコリーが、不意に歩みを緩める。

「どうした?」

「この辺、結構通ってるな」

「何が?」

「獣」

コリーが足元を指す。

エントも足元を確かめる。

草が倒れている。

だが、それ以外には特に何も見えない。

「分かるの?」

「この辺だけ踏まれてるだろ」

「ああ……」

言われてみれば、確かに周囲とは違っていた。

「足跡もあるけど、結構古いな」

「ルミナフェネックでしょうか?」

コンが近づいてくる。

「そこまでは分かんねえ」

コリーは首を振った。

「ただ、何かがよく通ってる」

コンも足元を確認する。

「……ルミナフェネックとは、形が少し違うと思います」

「じゃあ別のやつか」

「たぶん」

「言われなかったら、俺じゃ気づかないな」

エントはもう一度、倒れた草へ目を落とす。

「慣れだよ」

コリーが立ち上がった。

「よし、行くか。この辺から敵も強くなるから、気をつけろよ」

「ああ」

エントは長剣へ手をかけた。

◇

「エントさん」

「はい?」

「少し、そのままでいてください」

コンが杖を持ち上げる。

「《プロテクト》」

淡い光がエントの身体を包んだ。

《防御力上昇》

「おお」

続けてコリー、セブン、最後にコン自身。

全員に同じ効果が付与される。

「これ、どのくらい持つんです?」

「しばらくは大丈夫ですよ。切れそうになったら、かけ直します」

「助かります」

「僧侶とちゃんと組むの、初めて?」

セブンが聞く。

「ちゃんとは初めて」

「回復役いるとかなり楽だよ」

「セブンは組んだことあるんだ」

「ある。ボスとかだとほぼ必須だし」

「へえ」

「だからって――」

「分かってるって」

「まだ何も言ってないけど」

「どうせ前出すぎるなって言うんでしょ」

「分かってるじゃん」

「昨日の今日だからな」

「じゃあ気をつけて」

「善処します」

「信用できない」

「ひどくない?」

「昨日も似たようなことしてただろ」

前を歩いていたコリーまで口を挟んでくる。

「お前まで言う?」

「事実だろ」

「味方がいない」

「無理はしないでくださいね」

コンが穏やかに言った。

「コンさんまで」

「全員一致だな」

「多数決だったの?」

◇

最初の戦闘は、それから間もなくだった。

茂みが大きく揺れる。

「来るぞ」

コリーが言った直後、猪に似た獣型モンスターが飛び出してきた。

「っと!」

エントが前へ出て、盾を構える。

衝撃。

身体がわずかに後ろへ押された。

「エント、そのまま!」

「任せた!」

コリーが弓を引く。

その横で、セブンが魔法を構えた。

「エント、右空けて!」

「右?」

エントが右へ一歩動く。

「そっちじゃない!」

「え?」

「右側を空けてって意味!」

「先に言って!」

「普通分かるでしょ!」

「初めて聞いたわ!」

「二人とも、まだ来るぞ」

コリーの声で、エントが前へ向き直る。

モンスターが地面を蹴った。

もう一度、盾で受ける。

「エントさん」

コンの杖が淡く光る。

「《ヒール》」

身体を光が包み、減っていたHPが戻っていく。

「ありがとうございます!」

「エント、そのまま!」

「今度こそ任せた!」

コリーの矢が肩へ刺さる。

モンスターがわずかによろめく。

「右側、空けて」

「了解!」

今度は左へ身体をずらし、セブンの射線を作る。

魔法がモンスターへ直撃した。

「今!」

「《スラッシュ》!」

エントが踏み込む。

長剣が胴を捉え、モンスターが大きくよろめく。

モンスターの身体が光の粒へ変わった。

「……今度は合ったな」

「最初よりはね」

「初めて4人でやったんだから仕方ないだろ」

コリーが弓を下ろす。

「次はもうちょい合わせればいい」

「そうだな」

エントは頷いた。

「コンさんも大丈夫です?」

「はい。私は後ろにいましたから」

「ならよかった」

◇

その後も、何度かモンスターと遭遇した。

最初ほど慌てることはなかった。

「エント、その位置で」

「了解」

「《プロテクト》かけ直します」

「お願いします」

数度戦う頃には、少しずつ4人の動きも噛み合い始めていた。

「なんか、今までと感じ違うな」

戦闘が終わったところで、エントが言う。

「回復役いるからじゃない?」

セブンが答える。

「ああ、それもあるか」

「人数も4人いるしな」

コリーが言った。

「そういや、今まで3人だったもんな」

「今さら気づいたの?」

「いや、人数くらい分かってるって」

「怪しい」

「そこ疑う?」

◇

少し進んだところで、セブンが足を止めた。

「この辺」

「青晶苔?」

「うん」

木々の間から外れ、湿った岩場へ向かう。

日が当たりにくい場所なのか、岩の表面には薄く苔が広がっていた。

セブンが岩場を探る。

「あった」

「どれ?」

「これ」

岩肌の一部。

青みがかった苔が、小さく群生している。

「それが青晶苔?」

「そう」

「俺らも手伝う?」

「大丈夫。そんなに量いらないから」

「了解」

セブンが採集している間、コリーは周囲へ目を向けた。

「じゃあ、この辺も見とくか」

「そうだな」

「この辺りも、目撃場所からそれほど離れていません」

コンも周囲を確認する。

「本格的に動き出すのは、もう少し暗くなってからみたいですけど」

「夜に動くんでしたっけ?」

「はい。夕暮れくらいから姿を見せることが多いみたいです」

エントは木々の間から覗く空を仰ぐ。

まだ明るい。

だが、街を出た時より日は確実に傾いている。

「じゃあ、時間的にはちょうどいいのか」

「そうだといいんですけど」

しばらくして、セブンが戻ってきた。

「終わった?」

「必要な分は採れた」

「じゃあ行くか」

「うん」

◇

やがて4人は、中層寄りの目撃地点へ着いた。

問題は、そこからだった。

「……いないな」

エントが辺りを見回す。

「いねえな」

コリーも地面や茂みを探る。

木。

草。

岩。

時折、別のモンスターが姿を見せる。

だが、ルミナフェネックらしい姿はどこにもない。

コンが事前に調べてきた情報を確認する。

「この辺りで目撃されているはずなんですけど……」

「いつの情報?」

セブンが聞く。

「一番新しいもので、3日前です」

「じゃあ、もう移動してる可能性もあるか」

「そうですね」

「とりあえず周り見てみるか」

コリーが地面を調べ始める。

「足跡とか、食べた跡くらいは残ってるかもしれない」

「頼んだ、狩人」

「お前も探せよ」

「もちろん」

4人で周囲を探し始めた。

◇

「あった」

少しして、エントがしゃがみ込む。

「これじゃない?」

柔らかな土に、小さな足跡が残っている。

コンもその隣に腰を落とした。

しばらく見比べる。

「……これは違うと思います」

「違うの?」

「足の形が少し違いますね」

「分かるんだ」

「画像で見た特徴とは合わないので」

「かなり調べてきたんですね」

「見つけた時に、分からなかったら嫌だったので」

「本気だな」

「見たいので」

即答だった。

「なるほど」

コリーも足跡を覗く。

「じゃあ別の探すか」

「はい」

◇

次に見つけたのは、食べかけの木の実だった。

「これは?」

エントが指差す。

殻に小さな歯形が残っている。

コンが歯形を確かめる。

「……違うと思います」

「また外れ?」

「この辺にいる別の小型モンスターの跡に近いですね」

「分かるもんなんだな」

コリーが言う。

「画像と特徴を覚えてきただけなので、間違っているかもしれませんけど」

「いや、俺らより全然分かってる」

「そうだね」

セブンも頷く。

「少なくとも、エントよりは」

「なんで俺と比べた?」

「さっきから外してるから」

「まだ二回だよ」

「数えてるんだ」

「そりゃ数えるでしょ」

◇

それからも場所を変えながら探した。

毛。

足跡。

食べた跡。

それらしい痕跡を見つけるたびに確認する。

だが、どれも決め手にはならなかった。

途中で何度か戦闘にもなった。

最初の時ほど動きは乱れない。

「右行く!」

「了解」

「エント、止めて」

「任せろ」

「《ヒール》」

「助かります」

本当に少しずつだが、4人の動きが噛み合っていく。

しかし、肝心のルミナフェネックだけがいない。

◇

「全然いねえな」

しばらくして、コリーが木の幹へ背を預けた。

「珍しいとは聞いてましたけど……」

コンは地図を見直している。

「想像以上だね」

セブンも周囲を見渡す。

「もう結構探したよ」

「まあ、こういうのも探索でしょ」

エントは近くの岩へ腰を下ろした。

「俺は結構楽しいけど」

「エントはそう言うと思った」

「何それ」

「さっきからずっと楽しそうじゃん」

「ゲームしに来てるからな」

「それはそう」

エントはふと、木々の向こうへ目をやる。

森へ入った時よりも、明らかに暗くなっていた。

「もう結構時間経ったな」

「その分、条件は良くなってるかもしれません」

コンが地図から顔を上げる。

「さっきより、活動する時間には近づいているので」

「じゃあ、もうちょい探そうぜ」

「そうするか」

コリーも木から背を離す。

「ここまで来たら、俺も見たいしな」

「セブンもいい?」

エントが聞く。

「別にいいよ」

「もう目的終わってるのに結構付き合うな」

「ここまで来たからでしょ」

「やっぱちょっと見たくなってない?」

「しつこい」

「はいはい」

「その返事やめて」

「ははっ」

コンはすでに地図へ目を戻していた。

「少し場所を変えてみませんか?」

「どっち?」

「水場の向こう側です。人があまり通らないみたいなので」

「じゃ、行ってみるか」

◇

さらに場所を変えた。

最初の目撃地点からは、かなり離れている。

人が通った跡もほとんどない。

道らしい道すらなくなっていた。

「この辺、ほんとにいるの?」

エントが枝を払いながら進む。

「分からん」

先頭のコリーが答える。

「分からんのかい」

「分かったら苦労しねえよ」

「ごもっとも」

「でも、この辺りなら条件は悪くないと思います」

コンは辺りの様子を確かめる。

「水場も近いですし、人も少ないので」

「じゃ、もう少し――」

コリーが急に足を止めた。

後ろを歩いていたエントも止まる。

「どうした?」

「……待って」

コリーが木の根元へ近づく。

「これ」

低い位置。

樹皮の一部に、何かが擦れたような跡が残っていた。

「傷?」

「たぶんな」

コリーがしゃがみ込む。

「あと、こっち」

少し離れた柔らかな土。

そこに、かすかな足跡が残っている。

「また違うやつじゃない?」

「疑うようになったな」

「何回か外したからな」

コンが足跡の前へしゃがみ込む。

今までと違い、すぐには答えなかった。

「どう?」

エントが聞く。

「…………」

コンは足跡へ目を落とす。

続いて、樹皮に残った跡を確かめる。

もう一度、事前に調べていた情報を確認する。

コリーも隣で周囲を調べていた。

「足跡は新しそうだぞ」

「本当?」

「ああ。少なくとも何日も前じゃない」

コンの狐耳が、ぴくりと動いた。

「……たぶん」

声が、ほんの少しだけ高くなる。

エントたちの視線がコンへ集まる。

「ルミナフェネックだと思います」

「お、やっとか」

コリーが足跡を覗き込む。

「長かったな」

「ほんとにな」

エントもしゃがみ込む。

「これが?」

「はい」

コンはもう一度、痕跡を見比べる。

「絶対とは言えませんけど……特徴は合っています」

「じゃあ、かなり可能性高そうだね」

セブンが足跡の続く先へ目を向ける。

「新しいなら、まだ近くにいるかも」

「あ……」

コンも顔を上げる。

「そうかもしれません」

普段より明らかに声が弾んでいた。

「行く?」

エントが聞く。

「はい」

コンは立ち上がる。

そのまま、足跡の続く木々の奥へ目を向けた。

「追ってみたいです」

「そのために来たんだしな」

コリーが弓の位置を直す。

「行くか」

「ちょっと待って」

セブンが止める。

「何?」

「ここまで探したんだから、雑に追って逃がしたらもったいないでしょ」

「……確かに」

「ここからは慎重に行こ」

エントがセブンへ顔を向ける。

「やっぱ乗り気じゃん」

「……うるさい」

「ははっ」

エントは軽い調子のまま、足跡の先へ目を向けた。

ようやく、それらしい痕跡を見つけた。

姿はまだ見えない。

けれど、今までの外れとは明らかに違う。

4人の意識が、足跡の先へ向く。

日が傾き、少しずつ暗さを増していく木々の奥。

そこへ続く小さな痕跡を追って、

4人は慎重に歩き出した。

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