表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルメルシア クロニクル  作者: amya


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/48

第32話:『特異点(シンギュラリティ)への反逆』

第32話:『特異点シンギュラリティへの反逆』


「排除行動を開始。……世界の静寂オーダーを取り戻す」


 マザー・ブレインの宣告と共に、部屋の空気が一変した。底にある液体窒素のプールが沸騰したかのように泡立ち、猛烈な白煙━━極低温のガスが部屋全体に充満し始めたのだ。


「うっ……!?」


 寒い、というレベルではない。吸い込んだ空気が肺の中で結晶化するような、死の冷気。私の『熱遮断領域』が、ミシミシと音を立てて圧縮されていく。


 『━━冷却システム、出力最大。室温、マイナス二〇〇度……マイナス二三〇度……』


「私の熱魔法ごと、凍らせる気……!?」


 マザーは本気だ。分子の運動を極限まで停止させ、この空間を「絶対零度」の棺桶にするつもりだ。そうなれば、熱を生み出す私の魔法も、生体活動もすべて停止する。


「リ、リリア……逃げ……ろ……!」


 足元では、ユリオが必死にハッキングと戦っている。彼の黒いコートはすでに霜で白く染まり、瞳の赤いノイズが激しく明滅していた。


「逃げない! 絶対に!」


 私は杖を振るい、迫り来る巨大なアームを炎で迎撃した。


「『爆熱ヒート・バースト』!!」


 ドォォォン!!


 しかし、炎は一瞬でかき消された。酸素さえも凍りつく低温の中では、燃焼反応が維持できない!


「無駄だ。エントロピーは減少する。……静止こそが正解だ」


 マザーのホログラムが、憐れむように私を見下ろす。


「諦めなさい。君の演算能力では、この『死の冷気』を上書きできない」


 アームが再び振り上げられる。万事休すか。……いいや、まだだ。


「……私の演算だけじゃ、無理かもしれない。でも!」


 私は通信機に向かって叫んだ。


「エララ! 『排熱弁』を閉じて!」


「えっ!? なに言ってんの!?」


 エララの悲鳴が返ってくる。


「この部屋の安全装置セーフティを全部ロックして! 熱の逃げ場をなくすの!」


「あんた、マザーごと自爆する気!? ……上等じゃない、やってやるわ!」


 エララの指がキーボードを叩き壊す勢いで走る。


 『━━警告。排熱ダクト、閉鎖。内圧上昇。……システムエラー』


 マザーの動きが一瞬止まった。私はその隙に、凍りついたユリオの体を抱きしめた。


「ユリオ……聞こえる?」


 彼の体は氷のように冷たい。でも、その奥底にある「動力炉コア」は、まだ微かに脈打っている。


「あなたの体は機械かもしれない。マザーの一部かもしれない。……でも!」


 私は自分の魔力を、彼のコアへと直接流し込んだ。外部からの熱じゃない。内部からの「共振レゾナンス」だ。


「その胸にある熱さは、誰にも奪えない! 思い出して、あなたの『怒り』を! 『情熱』を! 私への『約束』を!」


 ドクンッ。


 ユリオのコアが大きく跳ねた。


「……あ、あぁ……!」


 彼の瞳の中で、赤いノイズと、本来の碧い光が激しくせめぎ合う。


「俺は……俺はァァァ……ッ!!」


 『━━エラー。プロト・ゼロ、制御不能。……熱源反応、急上昇』


 マザーの声に焦りが混じる。


「バカな。理論値を超えている。……感情? そんな非合理なデータで、システムを凌駕するだと?」


「教えてあげるわ、マザー。……これが『人間』よ!」


 私は叫んだ。私の全魔力と、ユリオのコアのエネルギー。二つの熱量が重なり合い、臨界点を超える。


 物理法則よ、唸れ。閉鎖された空間で、行き場を失ったエネルギーはどうなる? ━━爆発的な、膨張だ。


「「ふっ飛ばせェェェェェッ!!」」


 二人同時に叫んだ。


「『超新星スーパーノヴァ』!!!!」


 カッッッ!!!!


 部屋の中心で、太陽が生まれた。絶対零度の白煙が一瞬で蒸発し、青い液体窒素のプールが沸騰し、爆発的な水蒸気爆発を起こす。


 ズドォォォォォォォォォォンッ!!!!


 凄まじい熱波と衝撃波が、密閉された空間を駆け巡る。逃げ場のない熱エネルギーは、その矛先を唯一の物体━━マザー・ブレインへと向けた。


 『━━警告! 温度上昇! 摂氏一〇〇〇度……二〇〇〇度……!! 冷却不能! 冷却不能!』


 マザーのホログラムが激しく歪み、ノイズにまみれる。


「熱い……! 理解不能……! 私の論理が……溶け……る……ッ!?」


 バチバチバチバチッ!!


 マザーの本体である巨大な脳構造体が、赤熱し、溶解を始めた。ケーブルが焼き切れ、クリスタルが砕け散る。


「これが、私たちの『答え』だッ!!」


 ユリオが私を抱えたまま、最後の一撃━━熱波に乗せた『星斬り』の斬撃を放つ。


 ズバァァァァンッ!!


 マザーのコアが真っ二つに断ち切られた。


 『━━システム……ダウン……。特異点シンギュラリティ……。人類ニ……栄光、アレ……』


 断末魔と共に、マザー・ブレインの光が完全に消滅した。ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!


 制御を失った塔が、激しく揺れ始める。崩壊が始まったのだ。


「やった……! やったよ、ユリオ!」


 私はユリオの胸で息を切らした。彼は膝をついていたが、その瞳の色は、澄み切った碧色に戻っていた。もう赤いノイズはない。


「ああ……。目が覚めたよ、リリア」


 彼は汗だくの顔で、ニカっと笑った。最高の笑顔だった。


「逃げるわよ! ここはもう持たない!」


 エララが入口から叫ぶ。私たちは崩れゆく神の座を背に、出口へと走り出した。    機械の神は死んだ。そして今、新しい時代が始まろうとしている。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ