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アルメルシア クロニクル  作者: amya


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第30話:『重力使いガルドス、再戦』

第30話:『重力使いガルドス、再戦』


 白亜の空間に、冷徹な拍手が響き渡った。


 パチ、パチ、パチ……。


「素晴らしい。実に感動的だ。……廃棄予定の欠陥品が、野良猫の群れを引き連れて創造主に牙を剥く。これこそが予測不可能な『進化』のサンプルだよ」


 ガルドスは恍惚とした表情で、手に持った新しい指揮棒タクトを弄んだ。以前のものより大型で、先端には赤く発光する結晶体が埋め込まれている。見るからに高出力な代物だ。


「欠陥品? 違うな」


 ユリオが大剣『星斬り』を構え、切っ先をガルドスに向ける。その碧眼は、かつてないほど澄み切っていた。


「俺はリリアの剣だ。お前が作った人形じゃない。……それを証明しに来た」


「フン。……口だけは達者になったな。だが、所詮はデータ上の存在だ」


 ガルドスが指揮棒を振るう。


「教育してやろう。絶対的な『力』の差というものを! ……『重力圧壊グラビティ・クラッシュ』、出力最大!!」


 ズゴォォォォォンッ!!


 空間が歪んだ。目に見えない巨大なプレス機が、天井から落下してきたような衝撃。  床の白いタイルが粉々に砕け散り、私の膝が強制的に折られそうになる。


「ぐっ……!? 前より、重い……!」

「リリア!」


 ユリオが私を支えようとするが、彼自身の体もきしんでいる。骨が悲鳴を上げる音。呼吸ができない。肺が潰される!


「ククク、どうした? 這いつくばって許しを乞え!」


「……させないッ!」


 私は歯を食いしばり、杖を床に突き立てた。重力とは何か。引力だ。下向きの力だ。  なら、上向きの力で対抗すればいい!


「イメージして……! 巨大な熱気球! 上昇気流の渦!」


 私はありったけの魔力を、床下の空間に注ぎ込んだ。超高温の熱だまりを作る。


「『熱対流域サーマル・アップドラフト』、展開!!」


 ブワァァァァッ!!


 床下から、猛烈な熱風が噴き上がった。下向きの重力と、上向きの熱対流が衝突し、空間が激しく揺らぐ。


「なっ……!? 重力を、熱で相殺しただと!?」


 ガルドスの顔から余裕が消える。体が軽くなった。立てる!


「今よ、ユリオ!」


「オォォォォォッ!!」


 ユリオが熱風に乗って弾丸のように飛び出した。間合いは一瞬でゼロになる。


「『星斬り』━━一閃ッ!!」


 必殺の横薙ぎ。しかし。


 ガギィィンッ!!


 再び、見えない壁が剣を阻んだ。電磁バリアだ。しかも、以前より数段硬い。


「学習しないな。……私の『絶対防御領域アイギス・フィールド』は物理攻撃を完全に無効化する!」


 ガルドスがニヤリと笑い、指揮棒をユリオに向ける。至近距離からの重力波。


「吹き飛べ!」

「ぐあぁぁっ!?」


 ユリオが後方の壁まで弾き飛ばされ、激突した。


「ユリオ!」

「……クソッ、硬すぎる! 斬れない!」


 ユリオが血を吐きながら立ち上がる。電磁バリア。強力な磁場で金属を弾く盾。地下書庫ではエララの砂鉄でショートさせたけど、ここは無菌室。砂鉄なんてない。


(どうする? 電磁石の弱点……磁力を乱すには……?)


 私は必死に二〇四〇年の物理の授業を思い出した。磁石は、熱に弱い。キュリー温度を超えると、磁性を失う!


「エララ! あのバリアの発生源は!?」


 後方で端末を操作していたエララが叫ぶ。


「指揮棒の先端と、床下の埋め込み式ジェネレーターよ! 連動してるわ!」


「床下……そこね!」


 私は床に手を当てた。バリアの内側、ガルドスの足元。そこに熱を集中させる。


「『一点集中加熱ピンポイント・ヒート』……目標、バリア発生器!」


 ジュウゥゥゥン……!


 ガルドスの足元の床が赤熱し始めた。床下の配線やコイルが、異常加熱で悲鳴を上げる。


「小賢しいわ! 床ごと燃え尽きろ!」


 ガルドスが指揮棒を私に向けた。重力の矛先が変わる。マズい、避けられない━━!


「リリアには指一本触れさせねぇッ!!」


 ドォン!!


 横から飛び出してきた影が、ガルドスの重力波を体当たりで受け止めた。ユリオだ。


「ぐ、ぅぅぅぅッ!!」


 彼は真正面から重力に晒され、全身の筋肉が断裂寸前まで悲鳴を上げている。皮膚が裂け、血が噴き出す。


「馬鹿な! なぜ耐えられる!? お前の設計限界はとっくに超えているはずだ!」


 ガルドスが驚愕に目を見開く。


「知るかよ……! 限界なんて、てめぇが勝手に決めた数字だろうが!」


 ユリオが一歩、また一歩と前進する。重力の泥沼をかき分けて。その姿は、もはやただの剣士ではなかった。碧い魔力が全身から溢れ出し、鬼神のようなオーラを纏っている。


「俺は……リリアの剣だ! この程度で、折れてたまるかァァァッ!!」


 バリィィィィンッ!!


 何かが砕ける音がした。それはユリオのリミッターか、それともガルドスの常識か。  ユリオが重力の檻を力ずくで突破し、ガルドスの懐へと飛び込んだ。


「なっ、バリアが……!?」


 私が床下を加熱し続けたおかげで、バリアの出力が不安定になっていたのだ。その一瞬の隙。


「これで、終わりだァァァッ!!」


 ユリオの大剣が、ガルドスの持つ指揮棒を正確に捉えた。


 ズガァァァァンッ!!


 赤い結晶が粉々に砕け散り、衝撃波が部屋を揺るがした。重力場が消失する。


「あ、あぁぁ……私の、私の最高傑作が……!」


 ガルドスが壊れた指揮棒の柄を握りしめ、呆然と立ち尽くす。勝負あった。


「……チェックメイトよ」


 私は杖をガルドスに向けた。もはや彼に反撃の力はない。


「マザー! マザー・ブレイン! 応答しろ! 緊急事態だ、防衛システムを!」


 ガルドスが虚空に向かって叫ぶ。しかし、返ってきたのは無機質なエラー音だけだった。


 『━━ピピ。対象個体ガルドスハ、戦闘能力ヲ喪失。利用価値ナシト判断。……接続ヲ、切断シマス』


「なっ……!? マザー、貴様ぁッ!?」


 足元の床が、突然スライドして開いた。そこは、奈落へと続くダストシュートだった。


「う、うわぁぁぁぁぁっ!!」


 ガルドスは体勢を崩し、そのまま暗闇の中へと落下していった。彼の絶叫が、遠ざかり、やがて聞こえなくなった。


 静寂が戻る。


「……勝った、のか?」


 ユリオが剣を支えに膝をつく。全身傷だらけだが、その表情は晴れやかだった。


「うん。……ユリオが勝ったんだよ。自分の運命に」


 私が駆け寄ると、彼は力なく笑い、私の頭を撫でてくれた。


「お前のおかげだ。……ありがとう、リリア」


 私たちは抱き合って、互いの無事を確認した。でも、まだ終わりじゃない。ガルドスはただの駒に過ぎない。


 私たちは顔を上げ、部屋の奥━━さらに上へと続く、最後の扉を見据えた。そこに、すべての元凶である「神」がいる。





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