表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルメルシア クロニクル  作者: amya


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/42

第29話:『白亜の塔と、硝子の階段』

第29話:『白亜の塔と、硝子の階段』


 エアロックを抜けた瞬間、私は平衡感覚を失いそうになった。あまりにも、世界が違いすぎたからだ。


 床も壁も天井も、継ぎ目のない純白の素材で覆われている。石でも金属でもない、陶器のような滑らかな質感。照明器具は見当たらないのに、空間全体が均一な柔らかい光で満たされている。


「……ここが、第零区画の内部」


 汚れたブーツで踏み入るのが躊躇われるほど、そこは無菌的で、美しく、そして恐ろしいほど「静か」だった。外の吹雪の音も、工場の駆動音も、ここには届かない。まるで、時間が止まった真空の中にいるようだ。


「……知っている」


 隣でユリオが呟いた。彼の瞳が、虚空を彷徨っている。


「俺は、この白い廊下を……何度も走らされた気がする。……何かから逃げるように、あるいは何かを追いかけるように」


 彼の顔色が蒼白だ。ここにある匂い、光、その全てが、封印された彼の記憶トラウマをこじ開けようとしているのだ。


「ユリオ」


 私は彼の手をギュッと握った。


「大丈夫。今は一人じゃないよ」


「……ああ。そうだな」


 彼はハッとして私を見返し、力強く頷いた。その碧眼に光が戻る。


「行こう。マザーは最上階だ」


 私たちは走り出した。目指すは中央にある吹き抜けの空間。そこには、遥か上空へと続く、透明な螺旋階段━━『硝子の階段』がそびえ立っていた。


 カツ、カツ、カツ……。


 硝子の階段を駆け上がる私たちの足音が、乾いた音を立てて響く。下を見れば、吸い込まれそうな奈落。上を見れば、霞むほど高い天井。この塔そのものが、一つの巨大な精密機器なのだ。


 私たちが中層階に差し掛かった時、その静寂は破られた。


 『━━侵入者検知。セクターB、防衛プロトコル起動』


 無機質なアナウンスと共に、白かった壁の一部がスライドし、黒い銃口が無数に現れた。自動追尾型レーザータレットだ。


「来るわよ! 全方位から!」


 エララが叫ぶのと同時に、赤い照準レーザーが私たちをハリネズミのように捉えた。


 ヒュン、ヒュン、ヒュンッ!!


 音もなく放たれる高出力レーザーの雨。物理的な弾丸じゃない。見てから避けるのは不可能だ!


「『鏡面反射ミラー・コート』!!」


 私は杖を掲げ、私たちの周囲に六角形の鏡の盾を展開した。光には光を。熱魔法の応用で、空気をレンズ状に変質させ、レーザーを屈折させる!


 ジュッ! ジュジュジュッ!


 レーザーが鏡に弾かれ、あさっての方向へ散っていく。壁や床が焦げる匂いが漂う。


「リリア、そのまま維持してくれ! 俺が片付ける!」


 ユリオが盾の隙間から飛び出した。彼の身体能力は、やはり常人を超えている。壁を蹴り、空中の足場を飛び移りながら、タレットへと肉薄する。


「邪魔だァァァッ!!」


 ズバッ! ズバババッ!!


 『星斬り』が一閃されるたびに、タレットが真っ二つに両断され、火花を吹いて沈黙していく。硬い合金装甲も、彼の剣の前では豆腐のようだ。


「すごい……! でも、キリがないわ!」


 エララがタブレットを操作しながら叫ぶ。


「次々と増援が来る! 上の階から警備ドローンが降りてくるわ!」


 見上げると、銀色の球体ドローンが群れを成して降下してきていた。まるで銀色の雨だ。あれ全部と戦っていたら、体力が持たない。


「エララ、ハッキングできないの!?」


「やってるわよ! でも、マザーのセキュリティが堅すぎる! ……物理的に接続できるポートがあれば、バックドアを仕込めるんだけど!」


「ポート……あそこは!?」


 私が指差したのは、階段の踊り場にある制御パネルだった。しかし、そこはタレットの集中砲火を浴びている激戦区だ。


「あそこまで連れて行ってくれたら、何とかする!」


「わかった! ユリオ、エララを援護して!」


 私は鏡の盾を前に押し出し、突撃した。


「道を開けるよ! 『閃熱閃光ヒート・フラッシュ』!!」


 カッ!!!!


 盾の表面でレーザーを集束させ、強烈なフラッシュとして撃ち返す。ドローンのカメラアイが一瞬ホワイトアウトする。その隙に、ユリオがエララを抱えて踊り場へと跳んだ。


「頼むぞ、天才!」

「任せなさい、筋肉!」


 エララがパネルに飛びつき、ケーブルを接続する。指が残像に見えるほどの高速タイピング。


「……解析完了クラック! 防衛システム、掌握!」


 『━━システム、再起動リブート。……ターゲット、更新』


 その瞬間、タレットの銃口が一斉に上を向き、降りてくるドローンの群れを撃ち始めた。


 ドォン! ドォン! チュドォォォン!!


 同士討ち。空中でドローンが次々と爆発し、残骸の雨となって降り注ぐ。


「……ふぅ。ざっとこんなもんよ」


 エララがドヤ顔で眼鏡を直す。私たちは顔を見合わせ、ニヤリと笑った。


「よし、今のうちに最上階へ!」


 階段を登りきった先。そこに待ち受けていたのは、巨大な一枚岩のような扉だった。  表面には複雑な幾何学模様が刻まれ、青白い光が脈打っている。


 この向こうに、マザー・ブレインがいる。そして、おそらく彼も。


 ユリオが扉の前に立ち、ゆっくりと息を吐いた。彼の手が震えていないことを、私は確認した。


「……開けるぞ」


 彼が扉に手をかけると、重厚な駆動音と共に、扉が左右へとスライドした。


 ゴゴゴゴゴ……。


 開かれた空間。そこは、まるで星空の中に浮かぶステージのようだった。壁一面がモニターになっており、外の雪原の映像や、無数のデータ文字列が流れている。その中央に、一人の男が立っていた。


 黒いロングコート。片目に光るモノクル。そして、手には新しい指揮棒タクト


「やあ。待ちくたびれたよ」


 ガルドスは、まるで遅れてきた友人を迎えるように、優雅に両手を広げた。


「ようこそ、私の城へ。……そしておかえり、ナンバー・ゼロ」


 ユリオが一歩前に出る。その碧眼には、もう迷いも恐怖もない。あるのは、静かで熱い、決着への意志だけだ。


「……ただいま。そして、さようならだ。ガルドス」


 ラストバトルの幕が上がる。白亜の塔の頂上で、因縁の二人が対峙した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ