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アルメルシア クロニクル  ―魔法を鍛えてみんなで生き延びます  作者: amya


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第228話:『摩擦の罠と、鐘が導く霧の迷宮』

第228話:『摩擦の罠と、鐘が導く霧の迷宮』


ガシャン、ガシャン、ガシャンッ!!

ランベス橋のアスファルトを踏み砕きながら、漆黒のフルプレートアーマーに身を包んだ前衛十体の黒騎士が、赤いルーン文字の輝く大盾を連結させたまま、暴走する機関車のような質量で突進してくる。


さらにそのすぐ頭上からは、跳躍した後衛十数体の黒騎士が、赤黒い魔力を纏った大剣を振りかざして、私たちの陣形へと真っ逆さまに降り注いできた。


「上からの奴らは大盾を持ってないぞ! 先に叩き落とせ!」

悠斗の鋭い号令に、メイが即座に前へと躍り出た。

「上空は私が止めます! 『ハニカムシールド』・スロープ展開!!」

メイが頭上に広げた黄金の六角形シールドを、屋根のように斜め四十度の角度をつけて固定した。


ガギィィィンッ!! ズガガガッ!!

空から振り下ろされた後衛の黒騎士たちの大剣が斜めの盾に激突し、そのまま滑るようにして私たちの前方へと強制的に受け流される。


「着地狩りだ、逃がすな!」

「『旋風槍撃、ウインド・スラスト』!」

「『紅蓮双牙』!!」


体勢を崩して地面に降り立った後衛の黒騎士たちへ、舞の槍と颯太の紅い二刀流が閃光のように突き刺さり、関節の隙間を正確に抉り抜く。


さらにその隣では、濃い青色のロングコートを翻したアーサーが、柄のトリガーを引いて青白い魔力の刃を宿らせたレイピアを、フェンシングの達人のような神速の突きで繰り出していた。


「させるか、亡霊ども! ここは我らが守るロンドンの街だ!」

ズバァッ! とアーサーのレイピアが黒騎士の一体の兜のスリットを正確に貫き、内部の魔力の集結部分を破壊された鎧が、ガラガラと崩れ落ちる。


「すげぇ、アーサーのおっさん、生身なのにあの動きかよ!」

光輝が感嘆の声を上げるが、アーサーの右手首からは、魔導具の激しい熱と電磁波の反動で白い蒸気が噴き出していた。


(確かに、あれは長くは持たないわね。)

しかも、本当の脅威は目の前に迫っていた。


ドドドドドドッ……!!

地面を揺らしながら、前衛十体の黒騎士による密集陣形、ファランクスが、長さ三メートルの円錐形の突撃槍を揃えて、残り三十メートルの距離まで肉薄してきたのだ。


彼らが隙間なく連結している十枚の黒鉄の大盾には、正面から飛んでくる物理砲撃も遠距離魔法もすべて無効化する『城壁の守護概念』が刻まれている。このまま正面衝突すれば、メイの盾ごと押し潰されるのは目に見えていた。


「くそっ、ビームも雷も正面からじゃ弾かれちまう! 悠斗センパイ、横から回り込みますか!?」

颯太が叫ぶが、橋の幅いっぱいに広がった十体の壁には、横に回り込む隙間などどこにもない。


「いいえ、回り込む必要なんてないわ!」

私はステッキを強く握り直し、一歩前へと踏み出した。


その隣で、タブレットを構えたソラも銀縁眼鏡をキランと光らせて頷く。

「はい! あの盾の『概念装甲』が反応するのは、あくまで『正面から飛んでくる攻撃』だけです! ならば、何かをぶつけるのではなく、彼らが足を着けて走っている『地面そのものの物理法則』を書き換えれば、盾の概念は絶対に発動しません!」


「そういうことよ! 見てなさい! あれだけ綺麗に足並みを揃えて全力疾走してくるなら、その自慢のチームワークを足元からグチャグチャにしてあげるわ!」

私はステッキの先端を、黒騎士たちが突っ込んでくるランベス橋のアスファルト路面へと向けた。


頭の中に描くのは、路面と鋼鉄のブーツの間に働く『摩擦係数』の極端な書き換えだ。


「手前の十メートルはツルツルに、真ん中は超ザラザラに、そして最後の十メートルはもう一度ツルツルよ! 『三段摩擦改変、フリクション・コースター』!!」


私が魔力を解放した瞬間、黒騎士たちの目の前の路面が、目には見えない三つのゾーンへと書き換えられた。


何も知らない十体の黒騎士が、一糸乱れぬ重厚な走りで、最初の『摩擦ゼロの十メートル』へと勢いよく足を踏み入れた、その瞬間だった。


ツルゥゥゥーーッ!!

『『『ッ!?!?』』』


路面と靴底の摩擦が完全にゼロになったことで、地面を強く蹴り出した先頭の黒騎士たちの鋼鉄の脚が、まるで氷の上のボウリングの球のように空回りした。


しかし、彼らには時速四十キロ近い猛烈な突進の慣性が乗っている。


十体の黒騎士は、減速することも姿勢を制御することもできないまま、スケートリンクに放り出された初心者のように、揃って猛スピードで前へと滑り出したのだ。


そしてそのまま、次の超摩擦地点へと突っ込んだ。

そこは、アスファルトの微小な凹凸の摩擦係数を何十倍にも跳ね上げた、いわば巨大な『極粗目の紙やすり』のようなゾーンだ。


ガギィィィィィッ!!!!

ツルツルと滑ってきた黒騎士たちの鋼鉄のブーツの底が、紙やすりのような路面にガッチリと引っかかり、火花を散らして強烈な急ブレーキがかかった。


当然、足元だけがピタリと止まれば、重い鎧を着た上半身は慣性の法則に従って前へと猛烈に投げ出される。


さらに悪いことに、すぐ後ろから滑り込んできた二列目、三列目の黒騎士たちが、急停止した前列の背中にドガァァァンッ!! と玉突き事故のように次々と激突したのだ。


『グ、ガァァァッ!?』

誇り高き中世のファランクスは見る影もなく崩壊し、十体の黒騎士たちは互いに槍と盾をぶつけ合いながら前のめりに宙を舞い、最後の『摩擦ゼロの十メートル』へと頭から雪崩れ込んだ。


ガシャアァァァンッ!! ゴロゴロゴロッ!!

二度目の摩擦ゼロ地帯で起き上がることもできず、二メートルを超す黒騎士たちが、まるでコントのように手足をバタつかせながら折り重なって私たちの目の前まで滑り込んできた。


ガッチリと連結されていたはずの十枚の大盾は完全に外れ、無防備な黒鉄の鎧の胴体が空に向かって晒されている。


「ぷっ……! あははは、すっげぇ! 機関車みたいな騎士団が、一瞬でただの鉄屑の山になっちまったぜ!」

光輝が腹を抱えて笑いながらガントレットを構える。


「笑ってる場合じゃないわよ、光輝くん! 仕上げの下ごしらえをするから、最大出力の雷を準備して!」

私はすぐさまステッキを横へと振り抜き、ランベス橋の欄干のすぐ下を流れる『テムズ川』の暗い水面へと意識を集中させた。


「せっかく川の上の橋にいるんだもの、地の利を使わせてもらうわよ! 鎧の隙間まで、たっぷりロンドンの川の水を浴びなさい! 『水流跳躍撃、ドルフィン・スプラッシュ』!!」


私がステッキを大きく振り上げると、橋の下のテムズ川の表面に、局所的な重力反転と強い推進ベクトルが発生した。


ザバァァァァァンッ!!!!

川面が大きく盛り上がり、何トンもの冷たい川の水の水面から、イルカが美しい弧を描いて一斉にジャンプしたかのように、橋の上へと高く飛び上がったのだ。


空中でイルカの群れの形を成した水流は、欄干を軽々と飛び越え、橋の上で団子になって転倒している黒騎士たちの頭上へと、豪快なジャンプアタックを叩き込んだ。


ドパドパドパドパドッパァァァァァンッ!!!!

凄まじい水しぶきが上がり、水圧の打撃を受けた黒騎士たちがさらに地面へと押し潰され押し戻される。


当然のごとく大量の川の水が、転倒した彼らの兜のスリットや、フルプレートアーマーの関節の隙間という隙間へと滝のように流れ込み、内部まで完全にびしょ濡れの水浸しにしたのだ。


「おっしゃあ! 盾が外れて中身まで水浸しになりゃ、もう『概念装甲』もクソもねぇ! ただの電気を通しやすいブリキ缶だぜ!」

光輝がニヤリと笑い、橋の上に広がった大きな水たまりへと飛び込んで、両手のガントレットをバシャッ! と水面へ直接叩きつけた。


「まとめて丸焦げになりやがれ! 『超広域・連鎖雷撃、チェインライトニング』ーーっ!!」


バチバチバチィィィィッ!!!!

水たまりを伝った数百万ボルトの青白い雷撃が、一瞬にして十体の黒騎士の全身を駆け巡った。


先ほどは大盾の表面のルーン文字に弾かれた電撃だったが、今は鎧の内部に入り込んだ川の水が完璧な導電体となり、すべての黒騎士の内部にある魔力核を内側から直接ショートさせていく。


『ギ、ギャアアアアアッ!?』

十体の黒騎士が青白い火花を噴き上げながら激しく痙攣し、完全に動きを止めた。


「よし、今だ! 一気にスクラップにしてやるぜ!」

手ぐすねを引いて待っていた悠斗が、白く輝く身体強化のオーラを纏って飛び出した。


大剣星斬りが唸りを上げ、感電して硬直した黒騎士たちを、一太刀ごとに三体、四体とまとめて豪快に薙ぎ払っていく。


ガシャアァァンッ! ドゴォォォンッ!!

後衛を片付けた颯太と舞もそこへ合流し、ものの十数秒のうちに、二十体いた黒騎士の軍団はすべて赤いポリゴンのノイズとなって砕け散り、冷たい川風に吹かれて消滅していった。





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