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アルメルシア クロニクル  ―魔法を鍛えてみんなで生き延びます  作者: amya


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第224話:『広大な大地に潜む影と、岐路の作戦会議』

第224話:『広大な大地に潜む影と、岐路の作戦会議』


エンパイア・ステート・ビルの地下三百メートルから、救出された百人以上の子供たちが次々と地上の救急車へと運び込まれていく。


すべての搬送を見届けた私たちが、CIAの臨時司令部がある高級ホテルのスイートルームへと戻ってきた頃には、時計の針は深夜の二時を回っていた。


二度目のシャワーを浴びて清潔な服に着替えた私たちは、リビングルームの大きな円卓を囲んで座っていた。


テーブルの上には温かいカモミールティーやホットチョコレート、軽食のサンドイッチが並べられていたが、部屋の中の空気は決して明るいものではなかった。


なぜなら、部屋の奥でノートパソコンと魔道具のタブレットを繋いでデータ解析を行っていたソラとミラー局長が、先ほどからずっと険しい顔で画面を睨み続けていたからだ。


「……お待たせしました、みなさん。地下の研究施設から押収したサーバーと、クロフォード議員たちの極秘通信履歴の解析が一通り終わりました」


ソラが銀縁眼鏡のブリッジを押し上げ、メインモニターにアメリカ合衆国の広大な地図を映し出した。


「結論から言います。……事態は、僕たちが考えていたよりもずっと深刻かもしれません」

「深刻って……まだあのビルの地下に何か残ってたのかよ?」

ホットチョコレートを飲んでいた光輝が眉をひそめる。


「いいえ、ニューヨークの地下施設は完全に制圧できました。問題はニューヨーク以外の場所です」

ソラがタブレットを操作すると、アメリカ全土の地図の上に、七つの赤い疑問符のマークが浮かび上がった。


ロサンゼルス、シカゴ、ヒューストン、サンフランシスコ、シアトル、マイアミ、そして首都ワシントンD.C.の周辺。アメリカを代表する七大都市圏だ。


「あの地下で、バイオ製薬会社の社長が『ダークウェブの最高級VIP市場で種子の欠片を落札した』と言っていましたよね? その取引ログを調べたところ、深海のAI『箱舟』が裏市場に流した『種子の欠片』は、ニューヨークの分だけではなかったんです」


「なんですって……!?」

私は思わずカップを持つ手を止めた。


「合衆国は、日本の約二十五倍もの面積を持つ広大な国だ」

ミラー局長が、重苦しい声でソラの説明を引き継いだ。


「ウォール街の連中だけでなく、西海岸の巨大IT企業の創業者グループや、テキサスの石油・エネルギー財閥、シカゴやマイアミのシンジケートなど……全米の少なくとも七つの主要大都市圏の超富裕層たちが、それぞれ独自に『種子の欠片』を買い取り、各地の秘密シェルターや研究施設へ持ち込んでいた記録が見つかったのだ」


部屋の中に、冷たい沈黙が落ちた。


「ち、ちょっと待ってくださいよ!」

颯太が身を乗り出して地図を指差した。


「もし他の七つの大都市でも、あいつらが『種子の欠片』を培養して起動させてたら……このニューヨークみたいに、空から本物の『種子』を呼び寄せてる可能性があるってことですか!?」


「その通りだ」

ミラー局長は苦渋に満ちた表情で頷き、額の汗を拭った。


「もちろん、現時点ではロサンゼルスやシカゴから、タイムズスクエアのような大規模なバグ領域が発生したという報告は上がっていない。……だが、それが一番不気味なんだ。もしかすると、これからAIの第二波、第三波の攻撃を受けるのかもしれないし……あるいは、すでに本物の『種子』が着弾して地下深くやインフラ網に潜伏しているのに、我々アメリカ人がまだ発見できていないだけなのかもしれない」


「発見できていないだけ……」

咲が不安そうに両手を胸の前で合わせる。


「ええ。今回のエンパイア・ステート・ビルの地下施設だって、バグ領域のノイズが消えた瞬間にソラくんと咲ちゃんが感知してくれなければ、CIAですら実在を把握できていなかったものね」

私が言うと、ミラー局長は深く息を吐き、私たちの前で真っ直ぐに背筋を伸ばした。


そして、超大国の諜報機関のトップである彼が、十代の若者に過ぎない私たちに向かって、深々と頭を下げたのだ。


「……特異点小隊の諸君。恥を忍んで、合衆国政府を代表して頼みがある」


「ミラー局長……?」

「我が国の既存のレーダーや科学兵器では、巧妙に隠蔽された種子の魔力波長を探知することすらできない。かといって、昨日真の力に目覚めたばかりのジャックとサラの二人だけで、この広大なアメリカ本土の七大都市をすべて調査し、もしバグ領域化していた場合に単独で攻略するのは、物理的に到底不可能だ」


ミラー局長は顔を上げ、切実な眼差しで私と悠斗を見つめた。


「日本政府の黒田局長には、今朝一番で合衆国大統領から直接ホットラインで要請を入れる。……どうかこのままアメリカに残り、全土の七大都市の調査と掃討に、引き続き同行してはくれないだろうか!」


ミラー局長の言葉に、私たちはハッと息を呑んだ。

アメリカ側の立場からすれば、当然の要請だろう。何せ自分たちの足元のどこに、街を丸ごと飲み込む時限爆弾が埋まっているか分からないのだ。世界中で唯一、バグ領域の核を確実に探知し、破壊した実績を持つ私たちを、今すぐ手放したくないと思うのは無理もない。


「……局長、少しだけ、私たちだけで相談する時間をいただけますか?」


私が尋ねると、ミラー局長は「もちろんだ。隣の部屋で待っている」と頷き、部下を連れてリビングから退出していった。扉が閉まると、残された私たち十人の間に、重たい沈黙と葛藤の空気が流れた。


最初に口を開いたのは、赤いマントを握りしめたジャックだった。


「……すまねぇ、リカ教官、ユウト教官。本当なら、『自分の国のケツくらい自分たちで拭くぜ!』ってカッコよく見送りたいところなんだが……正直、今の俺とサラの二人だけじゃ、この広い七つの街を回るのは荷が重すぎる。……何より、咲の『透視』やソラの『解析』がなけりゃ、隠れてる種子の場所すら見つけられないんだ」


「私からもお願いします……」

サラも申し訳なさそうに眉を下げて頭を下げた。


「もし、ロサンゼルスやシカゴの地下でも、さっきの施設のように罪のない子供たちがカプセルに入れられて苦しんでいるのだとしたら……一刻も早く見つけ出して、助けてあげたいんです」


二人の言葉に、メイと颯太が大きく頷いた。

「私も、サラさんと同じ気持ちです! さっきのラボで眠っていた小さい男の子、私の弟くらいの歳でした……。もし他の街でもあんな酷いことが行われているなら、見捨てて日本に帰るなんてできません!」


「ああ、俺も体力ならまだ全然残ってるぜ。困ってる奴がいるなら、このままアメリカ縦断ツアーでもなんでも付き合うぜ!」

人命救助を最優先にしたいという、メイや颯太たちの真っ直ぐで優しい意見。


しかし、それに対して冷静な声を上げたのは、ソラと舞だった。

「気持ちは分かります。でも、感情だけで動くのは危険です」

ソラが銀縁眼鏡を光らせ、厳しい表情で地図を指差した。


「アメリカは広すぎます。七大都市を端から端まで移動して、一つずつ地下を調査して戦っていたら、どんなに急いでも数週間から数ヶ月はかかります。……忘れないでください、深海から種子が撃ち込まれたのはアメリカだけじゃありません。僕たちがアメリカ全土にかかりきりになっている間に、もし日本の東京や他の地方に新しい種子が落ちたら、誰が日本を守るんですか?」


「ソラの言う通りね」

舞も腕を組み、凛とした声で続けた。


「それに、ヨーロッパやアジアの他の国々からも、日本政府に救援要請が殺到しているはずよ。私たち特異点小隊の人数は限られているわ。アメリカの調査をすべて引き受けて、私たちが途中で魔力切れや過労で倒れてしまったら、それこそ世界全体の防衛線が崩壊してしまうわ」


「うっ……そ、それはそうだけど……」

メイが言葉に詰まり、俯く。


「それにさ」と、光輝が頭の後ろで手を組んで椅子を揺らした。


「厳しいことを言うようだけど、俺たちがずっと隣についてお守りをしてたら、アメリカ軍も他の覚醒者たちも、いつまで経っても自分たちの力だけでバグ領域と戦えるようにならねぇんじゃないっすか? かといって、今すぐジャックたち二人だけに全米を押し付けるのも無茶すぎるし……あーっ、どっちも正論で頭が痛くなってきたぜ!」


光輝の言う通りだった。

目の前で苦しんでいるかもしれないアメリカの被害者たちを救いたいという思いと、日本の防衛や世界全体のバランス、そして私たちの体力的な限界。


どちらを選んでも何かを犠牲にしてしまいそうな重い選択に、咲も「どうすればいいんでしょう……」と不安そうに私と悠斗の顔を見上げた。


私はカップの中の冷めかけたハーブティーを見つめながら、唇を噛んだ。


(……私が特異点小隊のリーダーとして、決めなくちゃいけない。でも、簡単に『アメリカに残る』とも『日本に帰る』とも言えないわ……)


私が答えを出しかねて迷っていると、隣で黙って腕を組み、目を閉じてみんなの意見を聞いていた悠斗が、ゆっくりと焦げ茶色の瞳を開いた。


「……お前ら、ゼロか百かで考えるから話がこじれるんだよ」

悠斗がテーブルをコツンと指で叩くと、全員の視線が彼へと集まった。


「悠斗……何か考えがあるの?」

「ああ。ソラや舞が言う通り、俺たちが何週間もかけてアメリカの七大都市を一つずつ徒歩で回るのはバカげてる。日本が手薄になるしな。……だが、メイやサラが言う通り、他の都市に種子が潜んでるかどうかすら分からないまま放置して帰るのも、寝覚めが悪い」


悠斗は地図の上の七つの赤いマークを睨みつけた。


「つまり、一番の問題は『どこに種子が隠れているか、アメリカ側が自力で探知できないこと』と、『本当に今、その七つの都市で種子が起動しているのかどうかが分からないこと』だろ?」


「あっ……! そっか、もし七つの都市全部じゃなくて、実際に危険な場所がどこか一つか二つだけだと分かれば、手分けしたり、短時間で叩くことができますね!」

ソラがハッとして顔を上げる。


「そういうことだ。だから、俺たちが今すぐやるべきことは二つある」

悠斗は指を二本立てた。


「一つ目は、まず日本の市ヶ谷にいるレンと佐藤博士に国際極秘回線を繋ぐことだ。俺たちがニューヨークで暴れてたこの数日の間に、日本の防衛衛星やレンのネットワーク解析で、アメリカ本土や他の国にどんな動きがあったのか、外からの正確な情報を確認する。そして二つ目は……ソラ、お前のその魔道具タブレットと、咲の透視の波長データを応用して、CIAの通信衛星や気象レーダーに『種子の魔力波長だけを広域スキャンする探知プログラム』を組み込めないか検討することだ」


「衛星レーダーに、魔力波長の探知フィルターを……!?」

ソラの目が、銀縁眼鏡の奥でパッと輝いた。


「さっき地下で回収した『オリジン・シード』の正確な波形データがあります! あれを逆位相のサンプルとしてアメリカの軍事衛星のセンサーにリンクさせれば……僕たちが直接現地へ行かなくても、衛星軌道上からアメリカ全土のどこに『種子の反応』があるか、数時間で炙り出せるかもしれません!」


「本当!? それなら、何週間もかけて全土を歩き回る必要はなくなるわね!」

私の胸の中に、パッと明るい光が差し込んだ。


「よし、まずは日本のレンさんと佐藤博士に連絡を取りましょう! 世界が今どうなっているのか、そして私たちが次にどこへ向かうべきなのか……すべてはそれを確認してからよ!」


私の言葉に、迷っていた仲間たちの顔に再び強い結束の色が戻った。


私たちはすぐにミラー局長を部屋へと戻し、日本の防衛省・市ヶ谷の地下作戦司令室へと繋がる、最高機密の衛星通信回線を起動してもらった。


モニターに砂嵐が走り、やがてそこに映し出された日本の司令室の光景は、私たちの予想を遥かに超える、緊迫した事態を告げていた。





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