第223話:『断ち切られた呪縛と、箱庭の終焉』
第223話:『断ち切られた呪縛と、箱庭の終焉』
「みんな、聞いて! 今からチームを二手に分けるわ!」
プラズマ砲の爆風が吹き荒れる中央培養ホールで、私はステッキを振るって十人の役割を即座に振り分けた。
「悠斗、ジャック、メイちゃん、サラちゃん、舞さんの五人は、そのまま合成魔獣の攻撃を受け止めて注意を引きつけて! ただし、パイプを切るまでは絶対に深い傷を負わせないこと! そして私、ソラくん、光輝くん、咲ちゃん、颯太くんの五人で、コンソールのハッキングと床下のパイプの切断を同時に行うわ! いくわよ!!」
「おうっ、任せとけ! 三分以内に片付けろよ、梨花!」
悠斗が獰猛に笑い、白い身体強化のオーラを漲らせて、合成魔獣の四本の腕を力任せにガギィンッ! と弾き返した。
その隙に、私とソラ、光輝、咲、颯太の五人は、怪物の脇をすり抜けてホール奥の制御コンソールと母体シードの前へと一気に駆け出した。
『グルァァァッ!』
合成魔獣が私たちの方へ跳びかかろうと向きを変えた瞬間、舞がその進路へと躍り出た。
「そちらへは行かせないわ! 『暴風障壁、ウインド・ウォール』!」舞が槍を激しく旋回させて高密度の突風の壁を作り出し、怪物の巨体を強引に押し留める。
さらにメイとサラが二重の防壁を展開し、至近距離から放たれたプラズマ砲の連射を完璧に防ぎきった。
『な、なんだと!? 奴ら、コンソールと床下のバルブを狙っているぞ! 近づけるな、警備ドローン、全員撃ち殺せ!!』
頭上の管制室で白衣の男性が慌てて非常ボタンを叩くと、天井のハッチが次々と開き、小型機関銃を搭載した二十機以上の自律型警備ドローンが蜂の群れのように飛び出してきた。
空中のドローンが一斉に銃口をソラと光輝へと向ける。
「こいつは俺の獲物だ! 脇見をしてんじゃねぇよ、ブリキのおもちゃども!」
赤いマントを翻したジャックが、走りながら両手の人差し指をピストルのように空へと構えた。
「『ジャスティス・レイ・ストライク』・ラピッドファイア!!」
ピシュンッ! ピシュンッ! ピシュゥゥゥンッ!!ジャックの指先から、極細に収束された黄金のレーザーがマシンガンのように連射された。物理法則による精密な照準補正を得た光速の光線は、一発の無駄もなく空中のドローンのコアだけを正確に撃ち抜き、チュドドドドンッ! と空中で次々と花火のように爆散させていく。
「サンキュー、ジャックさん! 光輝先輩、ここです!」
ジャックの完璧な対空援護を受けながら、壁際の中央制御コンソールへと辿り着いたソラが、魔道具化したタブレットのケーブルを端子へと突き刺した。
「セキュリティロックは俺が焼き切る! 『電磁掌握、オーバーライド』!!」
光輝が両手のガントレットをコンソールの金属筐体に直接押し当て、青白い電流を流し込んで軍用レベルのファイアウォールを強引にこじ開ける。
バチバチッ! と火花が散るなか、ソラの指先が眼にも留まらぬ速さで画面のキーボードを叩いた。
「よし、管理権限を奪取しました! カプセル百基の生命維持システムを、母体シードから切り離して独立バッテリーへと移行します……三、二、一……移行完了! 今ならパイプを切っても、子供たちは安全です!」
ソラの声がホールに響く。
「よくやったわ、二人とも! 咲ちゃん、パイプの正確な場所は!?」
私は母体シードの五メートル手前へと滑り込むように走り込みながら叫んだ。
「梨花教官の足元、ちょうどその真下です! 厚さ十センチのチタン合金パネルの下に、八本の赤いパイプが並んでいます!」
「そこね! まずは蓋を開けるわよ! 『局所超重力、グラビティ・クラッシュ』……からの、『重力反転、リバース・リフト』!!」
私はステッキの石突きを床へ強く突き立て、まず足元の一点に凄まじい重力をかけて、チタン合金パネルを固定している四隅の太いボルトをバキバキッ! とへし折った。
続けて重力の向きを真上へと反転させ、重さ数百キロはある分厚い床パネルを、まるで缶詰の蓋を開けるようにバリィィィンッ!! と宙へと豪快にめくり上げた。
剥き出しになった床下の暗いピットには、子供たちから吸い上げた魔力で赤黒く発光し、ドクンドクンと生き物のように脈打つ八本の太い特殊樹脂パイプが並んでいた。
「颯太くん、今よ! 一気に断ち切って!!」
「おうっ! 一本たりとも残さねぇぜ!」
私の声と同時に、すでに私の背後から高く跳躍していた颯太が、逆手に持った二振りの短剣に燃えるような真紅の魔力刃を極限まで纏わせて、床下のピットへと飛び込んだ。
「これで悪縁はぶった斬りだァッ! 『紅蓮双閃、クリムゾン・クロス』!!」
ザシュッ!! ズバババババッ!!!!空中で颯太の身体が独楽のように高速回転し、目にも留まらぬ紅い光の十字斬撃が、八本のパイプの上を閃光のように駆け抜けた。コンマ一秒の狂いもなく、八本の魔力供給パイプが同時にスパッと気持ちよく両断される。
ブシュゥゥゥッ!!切断されたパイプの断面から、赤黒い魔力の蒸気が激しく噴き出して空中へと霧散していく。
それと同時に、ホールを取り囲んでいた百基の培養カプセルの照明が、危険な赤色から穏やかな『緑色』へと一斉に切り替わった。
カプセルの中で苦しそうに背中を反らせていた子供たちの痙攣がピタリと止まり、スースーと穏やかな眠りの表情へと戻っていく。
『なっ……バカな!? カプセルからの魔力供給が、完全にゼロになっただと!?』
管制室の警備主任が、真っ青な顔でモニターを叩いて絶叫した。同時に、前線で悠斗やメイたちを圧倒していた『特A級・合成魔獣』の動きが、まるでおもちゃの電池が切れたかのようにガクンと鈍くなり、全身を走っていた赤い光脈が急速に色褪せていった。
「……お待たせ、悠斗、ジャック! 子供たちは全員切り離したわ! もう誰も人質にはさせない……あの悪趣味なバケモノと、後ろの『オリジン・シード』を、跡形もなくぶっ飛ばしなさい!!」
私の号令に、今まで手加減を強いられて鬱憤を溜め込んでいた悠斗とジャックが、揃って獰猛な笑みを浮かべた。
「待ってましただぜ、リカ教官! 我慢しすぎてストレスでハゲそうだったところだ!」
「ああ。……たっぷり溜め込んだ分、一撃でスクラップにしてやる!」
私はすぐさまステッキを振り下ろし、『広域超重力、ヘビー・バインド』を発動して、弱体化した合成魔獣の四本の脚を床へとガッチリ縫い留めた。
さらに光輝が『チェインライトニング』を放って魔獣の全身を痺れさせ、舞が『暴風上昇気流』で悠斗の身体を高く宙へと押し上げる。
「いくぜ、ユウト教官! まずは俺の最大火力で道を作る! 『アルティメット・ジャスティス・ブラスト』!!」
ジャックが両手を前に突き出し、私の作った重力レンズを通して、全身の魔力を込めた極太の輝くレーザーを放った。
ジュガァァァァァッ!!
眩い光の奔流が、身動きの取れない合成魔獣の胸部を正面から直撃し、分厚い装甲を粉々に吹き飛ばして巨大な風穴を穿つ。
「おらァァァァァッ!!!!」
その光のすぐ上から、白いオーラを全身に纏った悠斗が雷光のような速さで落下し、振り下ろした大剣星斬りで合成魔獣の脳天から胴体までを真っ二つに叩き斬った。
しかも、悠斗が放った白銀の斬撃波の勢いは、それだけでは止まらなかった。真っ二つに裂けた合成魔獣の身体を突き抜け、その後ろにそびえ立っていた巨大な強化ガラスの円筒ごと、中に浮かぶ母体『オリジン・シード』のど真ん中を、斜めに一刀両断したのだ。
パキィィィィィンッ……、ガシャアァァァァンッ!!!!分厚い強化ガラスが粉々に砕け散り、大量の赤い培養液が滝のように床へと流れ落ちる中、真っ二つに斬られた『オリジン・シード』の結晶が、激しい火花を散らして爆散した。
同時に、合成魔獣の巨体も赤いポリゴンのノイズとなって崩れ落ち、やがて塵となって完全に消滅していく。
「……やった……! 母体シードの魔力反応、完全に消滅しました!」
ソラがタブレットの画面を見て、歓喜の声を上げた。見上げれば、管制室の防弾ガラスの向こうで、白衣の男性が「ひ、ひぃぃぃっ……!」と情けない悲鳴を上げて腰を抜かし、床を這いずって非常口へ逃げようとしているのが見えた。
「おっと、逃がさねぇよ!」
光輝が鉄階段をタタタッと駆け上がって管制室のドアを蹴り破り、逃げようとしていた白衣の男性や研究員たちをあっという間に取り押さえた。
するとその時、ホールの入り口の方から、重厚な軍靴の足音がいくつも響いてきた。振り返ると、ミラー局長率いるCIAの特殊部隊と、完全武装した米軍の憲兵隊、そして白衣を着た医療チームの姿があった。
私たちが上の階層を突破してシステムを掌握したことでロックがすべて解除され、後続の部隊が無事にここまで降りてこられたのだ。
「見事だ、諸君! 上の広場にいたクロフォード議員たちシンジケートの幹部連中は、すでに全員、現行犯で身柄を拘束したぞ!」
駆け寄ってきたミラー局長が、砕け散った母体シードの残骸と、緑色の光の中で無事に眠る百基のカプセルを見渡して、深く安堵の息を吐いた。
「医療班、急いでカプセルの子供たちと、広場で首輪をつけられていた少年少女たちを保護し、地上の病院へ搬送しろ!」
『イエス・サー!!』
軍の医師や看護師たちが一斉にカプセルへと駆け寄り、慎重にハッチを開けて、眠っている子供たちのチューブを外し、温かい毛布で包みながらストレッチャーへと乗せていく。
「……よかった。どの子も、誰一人として欠けることなく助け出せたわね」
私はステッキを下ろし、毛布にくるまれて穏やかな寝顔を見せる小さな男の子を見つめて、心から胸を撫で下ろした。
サラもその隣で膝をつき、救い出される子供たち一人ひとりに向かって、涙ぐみながら優しい祝福の祈りを捧げている。
「ああ。……これで、この胸糞悪い『ノアの箱庭』も完全に閉園だな」
悠斗が私の隣に立ち、大剣星斬りを背中の鞘へと収めながら、私の頭をポンポンと大きな手で撫でてくれた。
外の世界を犠牲にしてでも自分たちだけが生き残ろうとした、特権階級たちの愚かな箱庭。その野望は、日米の若き覚醒者たちの力によって完全に打ち砕かれた。
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