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アルメルシア クロニクル  ―魔法を鍛えてみんなで生き延びます  作者: amya


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第209話:『摩天楼のダイハードと、砕かれる盾』

第209話:『摩天楼のダイハードと、砕かれる盾』


「オーイェー! ジャスティス・ディフェンダーズ、出動だぜ!」

ジャックが真っ赤なマントを翻し、両手から極太の『裁きの光、エネルギーブラスト』を放った。


かつてのブロードウェイ、今は鋼鉄のツタとネオンが不気味に絡み合うサイバーパンクの廃墟。その通りを埋め尽くしていたサイボーグ犬のようなバグモンスターたちが、眩い閃光と共に数十体まとめて吹き飛ばされる。


「主よ、我らに進むべき道をお示しください!」

サラが胸元の十字架を握りしめて祈ると、ジャックの周囲に金色の『神の盾、ホーリーウォール』が展開され、ビル群の陰から降ってくる奇襲のレーザーを見事に弾き返した。


私たち特異点小隊は、ジャックとサラを先頭にして、タイムズスクエアからエンパイア・ステート・ビルへの強行突破を開始していた。


「どうだ、リカ教官! 俺たちのパワー、最高にクールだろ!」

「……確かに威力は認めるわ。でも」

私は走りながらステッキを構え、ジャックの荒くなっている息遣いを見逃さなかった。


「魔力の消費ペースが早すぎるわ。あと何発そのビームを撃てるの?」


「ギクッ……ま、まだいけるぜ! ヒーローは気合で限界を超えるんだ!」

ジャックが強がったその時だった。


ジジッ……!!


突如、空間全体に強烈なノイズが走った。

今までジャックが力任せに吹き飛ばしてきたサイボーグ犬たちが、「五秒前の状態」に巻き戻って、私たちの背後や死角に無傷で再出現したのだ。


「なっ……やっぱり復活しやがった!?」

ジャックは周りを見渡して、サイボーグ犬の群れに、いつでも攻撃できるように構えた。


「言ったでしょ! 奴らは処理落ちとラグを利用してくるのよ!」

私が叫ぶのと同時に、サイボーグ犬の群れが一斉にジャックたちへと飛びかかった。


「サラ、盾だ!」

「はいっ! 聖なる盾よ!」

サラが再び祈りを捧げ、金色の障壁を展開する。


だが、今回の敵は単なる物理攻撃を仕掛けてきたわけではなかった。


群れの中から、ひときわ異質な姿をしたモンスター、脳味噌が剥き出しになった浮遊する眼球のようなバグモンスターが姿を現し、サラに向かって毒々しい紫色の光線を放ったのだ。


光線は、サラの『神の盾』に触れると、物理的な衝撃を起こすことなく、スッと盾をすり抜けて彼女の額へと吸い込まれた。

「きゃあっ!?」


「サラちゃん!」

私が駆け寄ろうとした瞬間、サラの瞳孔が限界まで開き、彼女はその場にへたり込んだ。


『……見ろ。お前の神は、誰も救ってはくれない』

バグモンスターが発する不気味なノイズ音が、直接脳に響く。それは、人間の恐怖やトラウマを抉り出す、強力な精神汚染、幻覚攻撃だった。


「あ……ああ……っ」

サラの視界には、どんな幻覚が映っているのだろう。


彼女はガタガタと震え、十字架を握る手から力が抜けていく。

「お、お父様……お母様……ちがう、私が見捨てたわけじゃ……神様、助けて、どうして……っ!」

サラがパニックに陥り、泣き叫んだ瞬間。


パリンッ……!!

彼女の展開していた『神の盾』が、まるで薄いガラスのようにあっけなく砕け散った。


「サラの盾が消えた!? おい、しっかりしろサラ!」

ジャックが慌ててサラを庇おうとするが、盾を失った彼に、巻き戻ったサイボーグ犬の牙が容赦なく襲いかかる。


「ぐわぁぁっ!」

ジャックは肩に噛みつかれて、赤いマントが血に染まっている。


「ジャック! サラちゃん!」

「教官、危ないっ!」

光輝が叫び、私に向かって雷撃を放つ。私の背後に迫っていた別のバグモンスターが黒焦げになって崩れ落ちた。


「くそっ、敵の数が多すぎるぞ! しかも全部巻き戻ってきやがる!」

悠斗が大剣で周囲の敵を薙ぎ払いながら叫ぶ。


サラの盾という絶対の防御を失い、ジャックが負傷したことで、前線のバランスが一気に崩壊した。


「……これが、物理法則という確固たるルールを持たない『神頼みの盾』の脆さよ。心が揺らいだ瞬間、魔法のプロセスそのものが消滅してしまうのよ」

私はギリッと奥歯を噛み締めた。


『特異点小隊! 応答せよ、こちらミラーだ!』

インカムから、CIAのミラー局長の焦燥しきった声が響いた。


『君たちの別ルートから進軍していた米軍の精鋭装甲部隊が、五番街付近で敵の巻き戻しによるカウンターを受け、完全に沈黙した! ……エンパイア・ステート・ビルの入り口すら拝めていない状況だ!』


「なんだと!? アメリカの軍隊が、もう全滅しやがったのかよ!」

悠斗が敵を蹴り飛ばしながら悪態をつく。


『すまない……! 現在、君たちがいるブロードウェイ周辺に、別ルートのバグモンスターたちも一極集中し始めている。このままでは君たちも孤立するぞ!』


「……最悪ね」

私は周囲を見渡した。


ビルとビルの隙間から、サイボーグ犬や眼球型のバグモンスターたちが、波のように際限なく押し寄せてきている。


ジャックはガス欠と怪我で満足に動けず、サラは幻覚の恐怖から抜け出せずに泣き崩れている状態だ。ここで無理に前進を続ければ、部隊は確実に分断され、全滅する。


「悠斗! ここは一度引くわよ! 前線対策室まで撤退して、態勢を立て直しましょう!」

「チッ……仕方ねぇな! 光輝、颯太、しんがりは俺たちで引き受けるぞ! 新入り共、負傷者二人を連れて走れ!」


「「「了解ッ!!」」」


私たちはジャックとサラを抱え上げ、雪崩のように押し寄せるバグモンスターの波を強引に押し返しながら、来た道を地下駐車場の対策室へと向かって全速力で駆け出した。


エンパイア・ステート・ビルへの道は、想像を絶するほど険しかった。


物理法則を持たない結果だけの魔法が、見事に敵の精神汚染と巻き戻りのバグの前に砕かれ、私たちは撤退を余儀なくされた。


息も絶え絶えになりながら地下駐車場へと逃げ込んだ私たちは、重い防爆扉を閉め、その場に崩れ落ちた。


「……さて、アメコミヒーローのおふたかた」

私はステッキを構え、肩の傷を押さえてうめくジャックと、まだ震えが止まらないサラを見下ろしていた。


「気合いやご都合主義じゃ、このデスゲームは生き残れないって分かったかしら? これから、あなたたちのその頭の中に、嫌ってほど『物理学』を叩き込んであげるわ」


摩天楼の死闘は、ここからが本当の地獄、駆け込み集中冬季講習が始まるのだった。





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