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アルメルシア クロニクル  ―魔法を鍛えてみんなで生き延びます  作者: amya


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第208話:『物理学(フィジクス)vs アメコミ物理(トゥーン・ロジック)』

第208話:『物理学(フィジクス)vs アメコミ物理(トゥーン・ロジック)』


タイムズスクエアから数ブロック離れた安全圏。厳重にバリケードで封鎖された地下駐車場に設けられた、アメリカ軍の前線対策室。


私たちは円卓を囲み、空中モニターに映し出されたマンハッタンの立体マップと過去の戦闘映像を睨んでいた。


「……なるほど。自己紹介も済んだところで、さっそく本題だが」

悠斗が腕を組み、モニターの前に立つジャックとサラを見た。


「お前らのその『ヒーローごっこ』と『神頼み』のせいで、肝心のバグ領域の最深部、エンパイア・ステート・ビルへのルートが開けてねぇってことだな」


「ヒーローごっこじゃありません!」

ジャックが真っ赤なマントをバサリと翻し、胸を張った。


「俺の『裁きの光、エネルギーブラスト』の威力は、教官たちがいた頃よりさらに数段アップしてるんだ! ドカンと一発撃ち込めば、どんなバケモノだって一瞬で塵になる! ただ……」


「ただ、燃費が悪すぎて三発撃ったらガス欠で動けなくなるのでは?」

ソラがタブレットのデータを見ながら、冷酷な事実を突きつける。


「ギクッ……」

「おまけに、お前のバカみたいな太いビームじゃ、敵が『巻き戻り(ラグ)』を起こすタイミングを正確に狙い撃つことができない。無駄に魔力を垂れ流してるだけじゃないのか?」

悠斗の辛辣な言葉に、ジャックはぐうの音も出ない様子でうつむいた。


「サラはどうだ。問題無いか?」


「問題無いはずです。わ、私の『神の盾、ホーリーウォール』は、どんな攻撃も防げるはずなのに……」

サラが胸元の銀の十字架をぎゅっと握りしめ、涙目で反論する。


「敵が『巻き戻り』を使って、私の祈りの死角から不意打ちをしてくるんです! あんなの、悪魔の所業です! 神の御心に反する卑怯な真似をされたら、私の信仰心も……その、少しだけ揺らいでしまって……盾が消えちゃうんです」


「……つまり、ビビって集中力が切れてるだけなんじゃないですか」

光輝が呆れたようにため息を吐く。


「ち、違いますっ! 悪魔に対する神の試練が、少しばかり厳しすぎるだけです!」

サラが真っ赤になって抗議するが、その反論はあまりにも苦しかった。


「はぁ……。あなたたち二人は、私たちが教えた『物理法則』の授業、すっかり忘れてるみたいね」

私はステッキでホワイトボードを軽く叩き、二人の注目を集めた。


「いい? 魔法は『結果、イメージ』だけで撃っちゃダメなのよ。魔力というエネルギーを、どう物理法則に干渉させて現象を起こすか、その『過程、プロセス』を頭の中で組み立てるのよ」


私はホワイトボードに、虫眼鏡で太陽の光を集める図を描いた。


「ジャック。あなたのビームは、ホースから水をドバドバ流しっぱなしにしてるようなものよ。無駄が多すぎるわ。魔力を虫眼鏡の『凸レンズ』のように空間に配置して、光を一点に極限まで収束させるイメージを持つこと。そうすれば、同じ魔力量でも威力は何十倍にもなるし、燃費も格段に良くなるわ」


「ええっ!? 光の屈折率とか、レンズの焦点距離の計算なんか、俺のヒーロー辞書には載ってないぜ!?」

ジャックが頭を抱えて大げさに叫ぶ。


「だいたい、ヒーローの必殺技ってのは、胸からドバーッ! とか、手からドカーン! って出すもんだろ!? ちまちまレンズの計算なんかしてたら、ヴィランに笑われちまうぜ!」


「笑われる前にガス欠で死ぬよりマシでしょ!」

私は声を荒げ、今度はサラの方を向いた。


「サラちゃん。あなたの盾も同じよ。『神様、守ってください』っていう漠然とした祈りのイメージだけじゃ、不測の事態、バグに対応できないわ。空気を圧縮して『分厚い空気の壁』を作るとか、空間の『重力係数』をいじって攻撃の軌道を逸らすとか、物理的な現象として盾を構築しなさい。そうすれば、多少こころが揺らいでも、物理法則が勝手にあなたを守ってくれるわ」


「物理法則……」

サラは十字架を握りしめたまま、困惑したように首を横に振った。


「リカ教官。私は……神の奇跡、魔法を、人間のちっぽけな科学や物理学で解釈するのは、神への冒涜のような気がして……」


「冒涜なんかじゃないわ。物理法則だって、元を正せば神様が創ったこの世界の『ルール』でしょ? そのルールを正しく理解して使うことの、どこが信仰に反するのよ?」


「それは……」

サラは言葉に詰まり、うつむいてしまった。


私も内心、強烈なカルチャーギャップを受けているけれども、ここはこのまま押し切るわよ。


アメコミの「トゥーン・ロジック、ご都合主義」で魔法を使おうとするジャックと、宗教的な「奇跡」として魔法を捉えるサラ。


ここで彼らの強固な文化と固定観念を打ち破らなければ、この先のエンパイア・ステート・ビルでの死闘を生き残ることは難しいかもしれない。


「……教官。言葉で説明しても、こいつらには分かんねぇと思いますよ」

ずっと黙って聞いていた颯太が、紅い魔力刃を纏わせた短剣をくるくると回しながら口を開いた。


「俺たちだって、最初は教官の言う『物理法則』なんてチンプンカンプンでした。でも、実戦でボコボコにされながら、身体で覚えたんです。……こいつらにも、同じことをしてやればいいんじゃないすか?」


「颯太くん……」

「そうですねっ! 百聞は一見に如かず、ですっ!」

メイも黄金の盾を実体化させ、やる気満々で頷いた。


「……荒療治になるが、それが一番手っ取り早いかもな」

悠斗が獰猛な笑みを浮かべ、大剣を肩に担ぎ直す。


「分かったわ。……ジャック、サラちゃん。あなたたちのアメコミ物理と神の奇跡が、どこまで通用するか試してあげる」

私はステッキを構え、タイムズスクエアのバグ領域へと続く、分厚い防爆扉を指差した。


みんながやる気だから、このままいってみよう。


「これから特異点小隊は、エンパイア・ステート・ビルへ向かって強行突破を開始する。あなたたち二人は、私たちについてきなさい。……ただし、私たちの『物理学』がどうやってバグを殺すか、その目にしっかり焼き付けながらね」


「の、望むところだぜ! ジャスティス・ディフェンダーズの意地、見せてやる!」

ジャックが赤いマントをバサリと翻す。


……もぅ、その赤いマントは絶対に何かのヒーローの真似でしょう。逆に恥ずかしくはないのかしら。



文化と魔法の概念の違い。

それを力技ですり合わせるための、過酷な実地訓練が、今まさに摩天楼のサイバーパンク・ダンジョンで幕を開けようとしていた。





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