第199話:『模倣の黒影と、黄金の防衛線』
第199話:『模倣の黒影と、黄金の防衛線』
「ギィィィィ……ッ!!」
全身を真っ黒なノイズで塗り潰された『■■■・コレクター』たちが、金属が軋むような不快なノイズ音を上げながら、神殿の広場を埋め尽くすように襲いかかってくる。
先頭を走る一体が、右手を前方に突き出した。
バチバチッ! と、その黒い掌から青白い電撃が放たれる。その予備動作は、私が訓練ドームで指摘した光輝の癖、撃つ直前に右肩がほんの少し沈み込むモーションと全く同じだった。
「くそっ、やっぱり俺の動きをパクってやがる! ……でもな、本家には遠く及ばねぇよッ!」
光輝が正面から飛び出し、自身もガントレットから『連鎖雷撃』を放つ。
青白い稲妻同士が空中で激突し、凄まじい火花が散る。魔力の出力差は圧倒的で、光輝の雷撃が黒い人影の電撃をあっさりと飲み込み、そのまま相手の胴体を黒焦げにして吹き飛ばした。
「よしっ、いけるぞ!」
光輝がガッツポーズをした瞬間、吹き飛ばされたはずの黒い人影が、泥のようにドロドロと溶け崩れ、すぐに別の個体と融合して一回り大きな黒い影となって立ち上がった。
「なっ……合体した!?」
「ただのデータじゃない……スライムみたいに物理的な実体を持った、流動的な集合体なんだわ」
私はステッキを構え、背後から迫る別の黒い影たちを牽制した。
「……めんどくせぇ。だったら、塵も残さねぇように細切れにしてやるよ」
悠斗が地を蹴り、巨大化した黒い人影の懐へと滑り込む。
大剣星斬りが白銀の弧を描き、敵の胴体を袈裟懸けに両断する。さらに振り返りざまの横薙ぎで、上下に分かれた体をさらに細かく切り裂いた。
しかし、バラバラになった黒い泥の破片は、ピクピクと痙攣しながら再び寄り集まろうとしている。
「悠斗、そのまま! 私が引っぱるわ! 『重力牽引』ッ!」
私はステッキを振り上げ、バラバラになった黒い泥の破片を、強力な重力で一箇所に強引に丸め込んだ。
「ソラくん、焼却して!」
「了解です! 座標固定。……『局地熱膨張』!」
私が重力で一箇所にまとめた黒い泥の塊の中心に、ソラがタブレットの操作で超高熱を発生させる。
ドゴォォォォンッ!!
爆発的な熱膨張が、黒い泥の塊を完全に爆散させる。今度こそ、結合する破片すら残さずに黒い人影は消滅した。
「ふぅ、いい連携ね」
「ああ。だが、キリがねぇぞ」
悠斗が大剣を構え直した通り、神殿のあちこちから、湧き出すように新たな『■■■・コレクター』が現れ続けている。
時計を見れば、タイムリミットの三時間まで、残り時間は二時間を切っていた。
その頃、少し離れた場所では、
「展開、ハニカムシールド!」
メイが黄金の六角形の盾をドーム状に広げ、槍を持つ長身の少女と、彼女を援護していた二人の少年を間一髪で包み込んだ。
直後、黒い人影たちが放った風の刃や炎弾がシールドに雨あられと降り注ぐが、黄金の盾は微動だにせず、すべての攻撃を弾き返した。
「なっ……なんだ、この金色の盾……」
「助かったのか……?」
二人の少年が、腰を抜かしたまま唖然と周囲を見回す。
「大丈夫ですか!? わたしたちはセクションゼロの特異点小隊です! 助けに来ました!」
メイがシールドを維持したまま、三人に力強く呼びかけた。
「セクションゼロ……あんたたちが、噂の教官部隊……」
槍を持つ長身の少女、肩口で切りそろえた黒髪に、凛とした顔立ちの彼女は、荒い息を吐きながらメイを見た。彼女の体からも、すでに覚醒のオーラが立ち昇っている。
「私は、神楽坂 舞。……助けてもらった恩は返すが、私はまだここを離れられない。あの光の檻に、一緒に入った仲間が捕まってるんだ」
舞は槍を杖代わりに立ち上がり、青白い光の檻を睨みつけた。
「わかります。あそこにいる結衣ちゃんたちを助けるために、わたしたちも来ましたから」
メイが優しく頷く。
「でも、あの黒い化け物たち、私たちの魔法をコピーしてくるし、斬っても斬ってもくっついて蘇るんだぞ……っ。どうやって檻まで近づくんだよ……」
治験者の一人が、絶望的な声で呟く。
「大丈夫です! わたしたちの教官が、なんとかしてくれますから!」
メイが満面の笑みで振り返った先では、私と悠斗、光輝、ソラが、完全に連携の取れた無双の快進撃を続けていた。
「オラァァァッ!!」
悠斗が先陣を切り、大剣星斬りで黒い人影の群れをなぎ払う。
切り裂かれた破片が融合しようとする前に、光輝の『連鎖雷撃』とソラの『局地熱膨張』が次々と着弾し、再生の隙を与えずに完全に消滅させていく。
「みんな、そのまま檻の周りの敵を一掃して!」
私は最後方からステッキで重力を操り、味方の動きをアシストしながら、敵の群れの動きを鈍らせる。
連携は完璧だ。特異点小隊の六人全員の魔法とスキルが複雑に掛け合わさることで、敵の学習能力を遥かに凌駕する速度と威力で、黒い人影の群れを圧倒していた。
「……す、すげぇ……」
私の後ろについてきていた颯太が、悠斗たちの圧倒的な戦闘力を見て、信じられないというように目を見開いている。
「教官って……あんたたち、ホントに人間なのかよ……」
「失礼ね、ちゃんと人間よ。……さあ、あなたも覚醒した力を試す時よ、颯太くん」
私が促すと、颯太はハッとして、悠斗から渡された二本の短剣を強く握りしめた。
「ああ……っ! 結衣ッ、今助けるからな!」
颯太が地を蹴り、残っていた数体の黒い人影に向かって突進する。
彼の覚醒した力は『身体強化』と『魔力刃』のハイブリッドのようだった。素早い動きで敵の懐に飛び込み、短剣の刃に紅い魔力をまとわせて、黒い人影の核となっている部分を正確に斬り裂いていく。
「いい動きね! そのまま檻のロックを壊して!」
「おうっ!」
颯太が最後の一体を切り伏せ、青白い光の檻へと飛びついた。
紅い魔力を込めた短剣が、檻の魔力錠を力任せに叩き割る。
パリンッ! というガラスの割れるような音と共に、光の檻が四散し、中に囚われていた結衣や他の治験者たちが解放された。
「お兄ちゃん……っ!」
「結衣……! よかった、怪我はねぇか!?」
颯太が、腰を抜かしてへたり込んでいる結衣を抱き起こす。
結衣は十代前半の、颯太に似た赤茶色の髪をした小柄な少女だった。彼女は涙ぐみながら、兄の胸に顔を埋めて強くしがみついている。
「やった……! みんな、助かったわ!」
私がホッと胸を撫で下ろし、メイたちと合流しようとした、その時だった。
ズズズズズズッ……!!
神殿の最奥部、崩れ落ちた巨大な祭壇の裏から、これまでとは比べ物にならないほどの重低音のノイズが鳴り響いた。
「なっ……なんだ、今度は!?」
光輝が顔を引きつらせる。
祭壇の影から姿を現したのは、私たちがさっきまで戦っていた『黒い人影』が、数十体も集まって融合したような、巨大な真っ黒いスライム状の化け物だった。
その体表面には、いくつもの顔のない頭部がボコボコと浮かび上がっては消え、アルメルシアの治験者たちの恐怖や絶望の感情を、不気味なノイズ音として撒き散らしている。
『■■■・コレクター(未定義エラー)』
システムウィンドウの警告が、さらに激しく赤く点滅する。
「あれが……この階層の澱の集合体ってわけかよ」
悠斗が大剣を構え直し、舌打ちをする。
巨大なスライム状の化け物が、その体の一部を巨大な腕のように変形させ、私たちに向かって無差別に黒い泥の塊を撃ち出してきた。
「危ないっ!」
私が重力ドームを展開しようとした瞬間。
「展開、ハニカムシールド!」
メイが素早く前に出て、さらに巨大な黄金の盾を広げた。
ドゴォォォォンッ!!
黒い泥の砲弾がシールドに直撃し、凄まじい衝撃波が神殿に吹き荒れる。
メイのシールドは持ちこたえたが、その六角形の結合部分には、早くもミシミシと嫌な亀裂が走り始めていた。
「くぅぅっ……! 重い……っ!」
メイが歯を食いしばり、両手で必死に盾を支える。
「メイちゃん、無理しないで! 結合点の魔力密度を……」
「はい、わかってます! でも……わたしがみんなを守らなきゃ!」
メイの悲痛な叫びが、神殿の広場にこだまする。
助け出した十数人の治験者たち。彼らを現実世界へ無事に帰すまで、私たちの戦いはまだ終わらない。
混濁する深層の底で、特異点小隊と謎の黒い集合体との、真の死闘は続くのだった。
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