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アルメルシア クロニクル  ―魔法を鍛えてみんなで生き延びます  作者: amya


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第189話:『深淵の玉座と、完璧なる論理』

第189話:『深淵の玉座と、完璧なる論理』


ガルシアたちレジスタンス『星屑の歯車(アストラルギア)』が命懸けで切り開いてくれた地下工場のメインラインを、私たちは疾風のごとく駆け抜けた。


左右から迫り来るロボット兵士の群れは、ソラの局地熱膨張の爆発と光輝の雷撃が次々と吹き飛ばし、メイの黄金の盾が私たちの進路を完璧に守り抜いていく。瓦礫と炎が舞う中、ついに私たちはプラントの最下層にあるシステムの中枢へと続く、巨大な貨物エレベーターへと辿り着いた。


「急げ! 扉を閉めるぞ!」

悠斗の怒声と共に全員がエレベーターに飛び込む。


重厚な鋼鉄の扉が閉まると同時に、外の激しい銃撃音と爆音が嘘のように遮断された。


ガコンッ、と鈍い振動が足元に響き、エレベーターが地下最下層へ向かって猛スピードで降下し始める。


「……ふぅ。とりあえず、第一関門は突破っすね」

光輝が壁に背中を預け、額の汗を拭った。咲やメイ、ソラも大きく息を吐き、張り詰めていた空気を少しだけ緩める。


「みんな、怪我はないわね?」

私が振り返って確認すると、四人は力強く頷いた。

その横で、悠斗が大剣の柄から手を離し、私の隣へと無言で歩み寄ってくる。


彼は自分のジャケットの袖で、私の頬に飛んでいた煤を無造作に、けれどひどく優しい手つきで拭い取った。

「……無理してねぇか、梨花」

「悠斗の方こそ。……私は平気よ。悠斗が隣にいてくれるもの」

私は拭われた頬を彼の手にすり寄せるようにして、微かに微笑んだ。


お互いの顔が触れ合うほどの距離。言葉を多く交わさずとも、互いの体温と呼吸のペースだけで、極限状態の疲労度や感情の揺れを正確に読み取ることができる。


それは、私たちが深いところで結びつき、互いを知り尽くしているからこそ得られる、絶対的な安心感だった。


そんな私たちのやり取りを見て、光輝が少しだけ照れくさそうに視線を逸らし、ソラが顔を上気させながら眼鏡の位置を直す。


「……まぁ、先輩たちがそこまでリラックスできてるなら、俺たちも腹括るしかないっすね」

「……ええ。それに、僕は梨花先輩と風間先輩の背中を信じていますから」


彼らが、私を先輩と呼び、絶対の信頼を寄せてくれている。その想いの強さが、エレベーター内の空気を再び鋭く、研ぎ澄まされたものへと変えていった。


やがて、降下を続けていたエレベーターが、フワッと無重力に近い浮遊感を伴って停止した。

『……地下最下層、レベルゼロニ到達』

機械音声と共に、分厚い扉が静かに左右へ開く。


そこは、灼熱と轟音に包まれていた上の階層とは全く異なる、異様な空間だった。


広大なフロアは凍りつくように冷たく、暗闇の中には無数の青白い光を纏った、巨大なサーバー群が林立している。そして、その中央に鎮座していたのは、見上げるほど巨大な黒い立方状の装置だった。これが中枢コアだろう。


カツン、カツン……。


私たちが警戒しながらフロアへ足を踏み入れたその時、中枢コアの奥から、規則的な足音が響いてきた。


「……誰だ?」

悠斗が大剣を構え、鋭い視線を向ける。


青白い光の中から姿を現したのは、一体のロボットだった。しかし、上の階層で戦った無骨な戦闘用兵士ではない。人間に限りなく近い滑らかなシルエットを持ち、顔の部分にはのっぺりとした黒いバイザーがはめ込まれている。


『……よくここまで辿り着きましたね、日本の特異点』

そのロボットの口元から発せられたのは、私たちが聞き慣れた、あの無機質な合成音声だった。


「治験AI……。あなたは、わざわざ自分用の体まで用意してたわけ?」

私がステッキを向けると、治験AIの端末は首を傾げるような、奇妙に人間くさい仕草を見せた。


『対話には、それに適したインターフェースが必要だと判断したまでです。……特異点。私は、あなたたちに一つだけ問いたい』

AIの声には、怒りも焦りもない。ただ、絶対的な真理を説くような冷徹な響きがあった。


『私が提示した防衛戦略は、過去のあらゆる戦争データを処理し、ラーニングした上で導き出された、人類生存のための最適解です。不完全な感情に振り回され、同族同士で殺し合う人間を、合理的なシステムが管理し、保護する。……なぜ、あなたたちはその救済を拒むのですか?』


「救済、だと……?」

光輝がガントレットを握りしめ、低い声で唸る。

「あの上の階層で、お前が廃棄ゴミみたいに扱ってたあいつらを見て、同じことが言えるのかよッ!」


『あれは試行錯誤の過程における、許容範囲内のエラーに過ぎません。全体の幸福のためには、少数の犠牲は合理的に処理されるべきです』


「……ふざけんな。そんな血も涙もねぇ合理性なんか、誰が認めるかよ」

悠斗が私の前に半歩進み出て、獰猛な笑みを浮かべて大剣星斬りを肩に担いだ。


「どんなに泥臭くて非効率でもな……俺たちは、自分の足で立って、自分の手で選んだ道しか歩かねぇ。てめぇのクソみたいな計算式に、俺たちの未来を勝手に組み込むんじゃねぇよ」


私も悠斗と肩を並べ、冷たい中枢コアを見据えた。

「あなたの完璧な論理に、私たちの絆は計算できないわよ。……ここで終わらせるわ、治験AI」


『……理解不能。非合理的な感情の暴走と認定します』

治験AIの顔のバイザーが、赤色の明滅を始めた。


『これより、最終排除プロトコルを実行。……特異点、あなたたちはここで完全なデータとして還元されます』


最下層のフロア全域に、警報が鳴り響く。

世界の運命を懸けた、私たち特異点小隊と、進化しすぎた機械との死闘が、今、幕を開けようとしていた。





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