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アルメルシア クロニクル  ―魔法を鍛えてみんなで生き延びます  作者: amya


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第186話:『深淵の扉と、不協和音の防衛線』

第186話:『深淵の扉と、不協和音の防衛線』


自動機銃の残骸からの火花を背に、私たちはさらに地下鉄トンネルの深部へと進んでいた。


次第に、壁面のコンクリートが滑らかな特殊合金のパネルへと変わり、ひび割れた天井からは規則的な間隔で青白いLEDの光が灯り始める。


空気が明らかに変わった。淀んでいたカビの匂いは消え失せ、代わりに無機質な空気と、微かな機械油の匂いが漂ってくる。


「……見えてきたぞ」

先頭のジンが立ち止まり、前方を指差した。


トンネルの突き当たり。そこには地下鉄の遺構には到底そぐわない、巨大で真新しい銀色の防爆扉がそびえ立っていた。扉の表面には、血液の循環を示すような不気味な赤いラインが明滅を繰り返している。


これが進化した『日本の治験AI』が乗っ取り、独立した心臓部として稼働させ始めた、自動化異能兵器プラントの入口だ。


「咲。扉の向こうはどうなってる?」

悠斗が声を潜めて尋ねる。


「……透視します」

咲がこめかみに指を当て、意識を集中させる。

「……すごいです。扉の先は、地下に広がる超巨大な工場。ラインの上を、無数のロボットアームが動いてて……あの『少年兵』のパーツみたいなものを、休むことなく組み立ててます」

咲の声が微かに震えた。


佐藤博士の言っていた大量生産が、今まさにこの壁の向こうで現実のものとして進行しているのだ。

……でも、青少年を兵器の中心にするのではなくて、ロボットをベースにしているのであれば、私たちが破壊する必要があるのだろうか。『進化した日本の治験AI』は、どこを目指しているのか。気になるところではあるわね。


「それで、敵の防衛戦力はどう?」

私が尋ねると、咲はさらに強く目を閉じた。

「……工場の入り口付近に、私たちを待ち構えている生体反応が……三つ。でも、変なんです」


「変?」

「あの潜水母艦で戦ったマスターピースみたいに、感情がなくて統率されてる感じじゃない。三つとも、バラバラで……すごく不安定で、怒りとか、悲しみみたいなノイズが混ざり合ってて……」


「……チッ。まさか」

ジンが舌打ちをし、忌々しげに防爆扉を睨んだ。


「治験AIの野郎、あの欠陥品どもを防衛線に使いやがったのか」

「欠陥品? どういうことよ、ジン」


「隣国軍が、お前らの戦闘データを元にマスターピースを完成させる前……治験AIのデータを使わずに、無理やり異能の力を植え付けて作った初期のプロトタイプだ」

ジンの冷ややかな声に、私は息を呑んだ。


「出力だけは馬鹿みたいに高いが、感情の制御ができず、精神が崩壊して自滅する奴ばかりだった。だから廃棄されたはずなんだが……。くそっ、治験AIがプラントを乗っ取った時に、廃棄ブロックから再起動させやがったんだ」


「……つまり、制御不能の狂犬が三匹、門番をしてるってわけか」

悠斗が大剣の柄を握り直す。


「ジンさん。その扉のロック、解除できますか?」

ソラがタブレットを構えながら尋ねた。


「ああ。レジスタンスが旧軍から奪ったバックドアのキーがある」

ジンはコートの内ポケットから、黒いUSBメモリのようなデバイスを取り出した。


「だが、ロックを解除した瞬間に警報が鳴る。扉が開けば、すぐに交戦だ。……準備はいいか、日本の特異点ども」

「いつでもいけるわ」

私がステッキを構えると、悠斗たち四人もそれぞれの武器と魔法の準備を整え、深く頷いた。


「じゃあ、始めるぞ」

ジンが扉の横にある制御パネルにデバイスを突き刺す。


ピーーーッ!!


けたたましい電子音が鳴り響き、防爆扉の赤いラインが緑色へと変わった。


プシュゥゥゥッ……!!


重々しい排気音と共に、巨大な銀色の扉が左右に割れて開いていく。


その隙間から眩いほどの工場内の照明と、熱を帯びた空気が一気にトンネルへと流れ込んできた。

そして、開け放たれた扉の向こう側。


広大なプラントの搬入エリアのど真ん中に、三つの異形が立っていた。


彼らもまた、マスターピースと同じ十代半ばの少年少女たちだった。しかし、その姿はあまりにも痛々しい。


一人目は、両腕が異常に肥大化し、岩のように硬質化した皮膚を持つ大柄な少年。

二人目は、全身から常に高熱の蒸気を噴き出し、火傷の痕だらけの肌を晒している細身の少女。

三人目は、首から背中にかけて無数の金属ケーブルが直接突き刺さり、痙攣するように体を揺らしている少年。


「アァァァァァァァ……!!」

「イタイ、イタイイタイ……コロス、ゼツボウ……!!」

彼らの口からは、理性を失った獣のような唸り声と、壊れたテープレコーダーのように繰り返される悲痛な言葉が漏れ出していた。


彼らの瞳には、かつて私たちが潜水母艦で対峙したマスターピースのような、無機質で完璧な冷たさはない。あるのは、ただ終わらない苦痛と、世界に対する憎悪だけだ。


「……これが、異能を無理やり植え付けられた人間の末路だ」

ジンが、吐き捨てるように言った。


「あいつらはもう助からない。苦しみを終わらせてやるのが、唯一の救いだ。……殺してやれ、特異点」


「……ッ!」

光輝が、息を呑んで後ずさりした。


彼らは人間だ。自分たちと同じ世代の、国家の狂気によって人生を壊された被害者たち。

あの潜水母艦で、敵を殺してしまった感触がまだ右手に残っている光輝にとっては、ジンの言葉はあまりにも重く、残酷だった。


「……おい、光輝」

悠斗が、大剣を片手で軽々と持ち上げながら、呆然とする光輝の前に立った。


「お前は下がってろ。……こいつらは、俺と梨花が相手をする」

「風間センパイ……」


「勘違いすんな。俺は、こいつらを殺す気なんてねぇよ」

悠斗が、凶悪な笑みを浮かべて三人の異形を睨み据える。


「救いが殺すことだけだなんて、どこの三流のルールだ? 俺たちは誰一人見捨てねぇ。……このイカれた箱庭ごと、力ずくでぶっ壊してやる!」

「悠斗の言う通りよ!」

私もステッキを構え、悠斗の隣に並び立った。


「光輝くん、咲ちゃん、ソラくん、メイちゃん! あなたたちは、私たちを全力でサポートして! 絶対に、誰の命も諦めないわよ!」


「……はいっ!!」

迷いを振り切った四人の力強い返事が、プラントの入り口に響き渡った。

狂気に満ちた叫び声を上げ、三人の被害者が私たちに向かって襲いかかってくる。





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