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アルメルシア クロニクル  ―魔法を鍛えてみんなで生き延びます  作者: amya


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第182話:『越境の志願と、揺るがない小隊の絆』

第182話:『越境の志願と、揺るがない小隊の絆』


作戦司令室を出た私たちは、重い足取りでセクションゼロの待機室へと向かっていた。


海を越え、敵国の深くへ潜入し、レジスタンス『星屑の歯車、アストラルギア』と合流してAIの兵器プラントを破壊する。それは、これまで日本国内での防衛任務に徹してきた私たちにとって、初めての完全な越境攻撃を意味していた。

(以前潰した、山間の中央アジア寄りのドールの拠点襲撃は非公式なのよね。)


とはいえ極秘任務ゆえに、自衛隊の公式なバックアップは一切受けられない。敵に見つかれば、国家間問題を防ぐために私たちは日本政府から、存在しないテロリストとして切り捨てられる可能性すらある。


「……悠斗。光輝くんたちには、ここで待機するように言うべきよね」

私は歩きながら、隣を歩く悠斗に視線を向けずに問いかけた。


あの潜水母艦での戦いを通じて、彼らが立派な戦力に成長したことは間違いない。だが、今度の舞台は法も秩序も届かない完全な敵地だ。未成年の彼らを、国から見捨てられるリスクのある非正規作戦に巻き込むわけにはいかない。


「さぁな。お前がそうしたいなら、説得してみりゃいいだろ」

悠斗は首の後ろで手を組みながら、どこか面白がるような、投げやりな口調で返してきた。


「なによそれ、他人事みたいに。悠斗からもきつく言ってよね」

「俺が言う必要はねぇよ。……どうせ、あのガキどもは言うことなんか聞かねぇからな」

悠斗が薄く笑みを浮かべた直後、待機室の自動ドアが開いた。


部屋の中では、カウンセリングを終えた光輝たちが、すでに防刃スーツのメンテナンスを終わらせ、装備の最終チェックを行っていた。


「遅いっすよ、梨花センパイ、風間センパイ」

光輝が右手のガントレットの留め具をカチンと鳴らし、私たちを真っ直ぐに見据えて立ち上がった。


「……待って。あなたたち、なんで出撃準備なんかしてるの?」

私が驚いて尋ねると、ソラが手元のタブレットを操作しながら銀縁眼鏡を押し上げた。


「レンさんから、概要だけは回してもらいました。隣国のレジスタンスと合流して、暴走した治験AIの兵器工場をぶっ叩く……最高のミッションじゃないですか」


「ダメよ! 今回の作戦は、今までとは危険度が全く違うの! 万が一のことがあっても、国は私たちを助けてくれないのよ。未成年のあなたたちを連れて行くわけには……」


「連れて行ってください」

私の言葉を強い声で遮ったのは、光輝だった。


彼は自分の右手を……あの日、人間を殺すために致死量の雷撃を放ったその手を、胸の前で強く握りしめた。


「俺は、あのプラントで……人を殺しました。拉致被害者の人たちを救うためだったとはいえ、俺の手はもう汚れちまってる」

光輝の瞳に、迷いはなかった。痛みを乗り越え、自らの罪を背負う覚悟を決めた戦士の目がそこにあった。


「治験AIがこのまま暴走を続ければ、俺みたいに、誰かを守るために手を汚さなきゃいけない奴らがもっと増える。……俺が引いた引き金の意味を、ただのトラウマで終わらせないために。あんなクソみたいな機械に、これ以上世界を引っ掻き回させないために……俺は行きます。俺自身の意志で」


「光輝くん……」


「私も行きます」

光輝の隣に咲が並び立ち、力強く頷いた。


「遠隔透視による索敵は、見知らぬ敵地で絶対に必要になるはずです。それに……光輝くんの手が汚れたなら、私がその手をずっと繋いで支えます。もう、絶対に逃げません」


「僕の演算能力も、メイの盾も必要不可欠です。それに、僕たちはもう、先輩たちに守られるだけの存在じゃありませんよ」


ソラとメイも、一切の恐怖を感じさせない凛とした表情で前を向いた。


彼らはすでに、自分たちが抱える価値観と利害関係、自分たちの手で未来を掴むという確かな理由から、この作戦に参加することを選び取っていたのだ。大人が勝手に線を引いて、守護という名目で鳥籠に閉じ込めていい段階は、とうに過ぎているようだ。


「……ほらな、言っただろ。俺たちのチームは、もう誰一人欠ける気はねぇんだよ」

悠斗が私の肩をポンと叩き、光輝たちへ向かって凶悪で、頼もしい笑みを向けた。


「いいかお前ら、敵地に行けば息つく暇もねぇ地獄が待ってるぞ。自分の命は自分で守れ。……その代わり、俺の背中の死角は、お前らに全部預けてやる」


「へっ! 任せてくださいよ。風間センパイに指一本触れさせやしませんから」

光輝が、嬉しそうにガントレットを打ち鳴らす。


私は彼らの顔を順番に見渡し、やがて小さく、けれど深い安堵の溜息を吐いた。

本当に、いつの間にか私なんかよりもずっと頼もしくなってしまった。


「……わかったわ。セクションゼロ、特異点小隊。これより私たちは国境を越え、隣国へと潜入します!」

私が宣言すると、四人は「了解!」と声を揃えて敬礼した。


「ただし、条件が一つあるわ」

私が人差し指を立てると、光輝たちが不思議そうに首を傾げる。

「生きて帰ること。全員で、絶対にここへ帰ってくること。……約束できる?」


「当然っすよ! 帰ってきたら、今度は特大の焼肉を局長の奢りで食わせてもらいますからね!」

光輝の無邪気な言葉に、待機室に明るい笑い声が響いた。


その笑い声の中心で、私は悠斗と視線を交わす。彼は「しょうがねぇ奴らだ」と呆れたように肩をすくめていたが、その目元は確かに優しく細められていた。



数時間後。


夜の帳が下りた防衛省の地下ヘリポート。


私たちは、光学迷彩と電波吸収塗料で漆黒に塗り潰された、特殊作戦用のステルス輸送機へと乗り込んでいた。


目的地は、日本海を越えた先にある隣国の沿岸部。そこでレジスタンス『星屑の歯車』の案内人と合流し、治験AIが支配する海底の自動化異能兵器プラントを目指す。


シートベルトを締め、ステッキを膝の上に置いた私の隣で、悠斗が大剣星斬りの刃を布で静かに拭い上げている。


「……怖いか、梨花」

ローターの回転音が徐々に高まる中、悠斗がインカム越しではなく、直接私の耳元へ囁くように問いかけてきた。


「ううん。全然怖くないわ」

私は悠斗の横顔を見つめ、迷いなく答えた。


「頼もしい後輩たちと……不器用だけど、一番信頼できる先輩が隣にいるもの」

「……誰が先輩だ。調子狂うこと言ってんじゃねぇよ」

悠斗が少しだけ顔を背け、布をしまう手つきを早めた。


機体がフワリと浮き上がり、夜空へ向かって急速に高度を上げていく。


日本の安全な空を後にし、私たちは世界を巻き込むかもしれない、本当の異能戦争の渦中へと飛び込んでいく、その岐路を進み始めるのだった。





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