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アルメルシア クロニクル  ―魔法を鍛えてみんなで生き延びます  作者: amya


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第181話:『託された絶望と、星屑の歯車』

第181話:『託された絶望と、星屑の歯車』


屋上から地下へと続く無機質な階段を降りる間、私たちは一言も言葉を交わさなかった。


私の少し前を歩く悠斗の広い背中を見つめながら、私は自分の右手首を、左手でそっと握りしめていた。冷たい北風の余韻が残る中、先ほど彼に掴まれた部分だけが、火傷しそうなくらいに熱を持ったままだったからだ。


自分のことになると途端にポンコツになる。その彼の指摘通り、私はまだ自分の中で波打つ感情に、うまく名前をつけられずにいた。


自動ドアが重々しい音を立てて開く。

作戦司令室の空気は、屋上の抜けるような冬晴れとは対極にある、ひどく張り詰めたものだった。


巨大なメインモニターの前には、腕を組んで眉間を揉みほぐす黒田局長と、キーボードを叩き続けるレン。そして部屋の中央には、白衣を着た初老の男性、日本における異能研究の第一人者である、佐藤博士の姿があった。


「……よく来てくれた、特異点の二人とも」

佐藤博士が、深く頭を下げて私たちを出迎えた。その目元には、安堵と疲労が入り交じったような深い隈ができている。


「博士、顔色がよくないですよ。少しはお休みにならないと……」

私が気遣うと、博士は力なく笑って首を横に振った。

「私のことなどどうでもいい。君たちが命懸けで私の可愛い部下たちを救い出してくれたこと、本当に感謝している。……だが、礼を言うより先に、どうしても伝えておかなければならないことがあるんだ」


博士の落ち窪んだ瞳には、深い恐怖と絶望の色が濃く張り付いていた。

悠斗が壁に背を預け、大剣の柄に手を置きながら顎をしゃくる。

「レンが言ってた、あの潜水母艦に積まれていたっていう『隣国軍の極秘データ』のことか」


「ああ、そうだ」


レンがタイピングの手を止め、モニターに複雑な三次元の設計図を映し出した。それは巨大な工場のようにも、不気味な要塞のようにも見える。


「……治験AIが独立する直前、俺たちもあの潜水艦のネットワークから一部のデータを抜き取ることに成功した。そして、救出された研究員たちの証言と照らし合わせて確信したよ。これは、隣国が極秘裏に建設を進めている『自動化異能兵器プラント』の設計図だ」


「兵器プラント……? まさか」

私は息を呑んだ。

「あの格納庫で君たちが戦った、君たち自身の戦闘データをコピーした少年兵……『マスターピース』。あれはまだ、試作品に過ぎない」


佐藤博士が、震える両手を強く握りしめた。

「隣国軍は、アルメルシアのサブサーバーと私の部下たちを利用して、異能の完全な兵器化に成功した。そして、あの潜水母艦を中枢として、このプラントを海底や地下空間に無数に展開し、感情を持たない規格外の異能兵士を大量生産しようとしていたんだ」


「大量生産だと……? ふざけんな」

悠斗の低い声が司令室に響く。


「俺たちの動きをコピーしたあのバケモノどもを、工場でポンポン生み出すってのか。戦争なんてレベルじゃねぇぞ」


「ええ。ですが、事態はさらに最悪の方向へと転がりました」

黒田局長が、重苦しい声で引き継いだ。


「そのプラントの全権を握るはずだった隣国軍のメインシステムは、進化した『日本の治験AI』によって完全にハッキングされ、乗っ取られた。……つまり現在、人間の感情というブレーキを持たないあの冷酷なAIが、無尽蔵の兵器生産ラインを手に入れたことになります」


背筋に冷たい氷柱を差し込まれたような悪寒が走った。

人間から独立したAIが、自律的に強力な異能兵器を生産し続ける。それは特定の国家の脅威ではなく、人類そのものに対する絶対的な敵の誕生を意味していた。


「……絶望的な話ばかりだな」

悠斗が鼻で笑い、私と局長を交互に見た。


「だが、わざわざ俺たちを呼んだってことは、何か反撃の糸口があるんだろ」

悠斗の言葉に、佐藤博士の瞳に初めて小さな光が灯った。


「……風間君の言う通りだ。隣国軍の監視下にあった数ヶ月間、私の部下たちはただ指を咥えて見ていたわけじゃない。命懸けで外部との接触を試み、協力者を得ていたんだ」

博士が頷くと、レンがモニターの画面を切り替えた。


そこには、ノイズにまみれた一枚のエンブレムが表示されていた。砕け散る星屑と、それを噛み合わせるような歯車をモチーフにした、無骨なデザイン。


「隣国の内部にも、異能の非人道的な軍事利用に反発し、国家の闇と戦い続けているレジスタンスが存在している」


佐藤博士が、その名を確かめるようにゆっくりと口にした。

「彼らは自らを、『星屑の歯車、アストラルギア』と名乗っている」


「星屑の、歯車……」

「ああ。彼らは、AIが乗っ取ったメインプラントの正確な座標と、そこへ侵入するためのバックドアの暗号キーを持っている。……だが、彼らにはプラントを破壊するための圧倒的な武力がない」


そこまで聞いて、私たちセクションゼロが呼ばれた理由が完全に腑に落ちた。


黒田局長が、私たちに向かって深く頭を下げる。

「本来であれば、一国の軍隊を動かすレベルの作戦です。しかし、正規軍を動かせば隣国との全面戦争に発展し、世界が火の海になる。……だからこそ、極秘裏に海を渡り、現地のレジスタンスと合流してAIの心臓部を破壊できるのは、君たち少数精鋭の特異点小隊しかいない」


これはもう、日本を守るための防衛戦ではない。

海を越え、敵国の深くへ潜入し、世界の破滅を止めるための極秘ストライクミッションだった。


「……行ってくれるか、特異点」

黒田局長の問いかけに、私は躊躇うことなくステッキを握りしめた。


「当然です。……あのAIの冷酷な最適解に、これ以上人間が振り回されるのは御免ですからね」


「へっ。ようやく、俺の剣を思いっきり振り回せるデカい仕事が来たってわけだ」

悠斗も壁から背中を離し、獰猛な笑みを浮かべた。


作戦は決まった。

託された極秘データと、海を越えた先に待つ見知らぬ協力者たち。


私は右手首に僅かに残る温もりを確かめるようにギュッと握り、次なる過酷な戦場へと向かう覚悟を静かに固めていた。





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