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アルメルシア クロニクル  ―魔法を鍛えてみんなで生き延びます  作者: amya


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第178話:『戦士たちの微睡みと、託された温もり』

第178話:『戦士たちの微睡みと、託された温もり』


ローターの重低音が響く機内には、オレンジ色の薄暗い非常灯だけが灯っていた。


真田隊長が手配してくれた救助用のステルスヘリに収容された私たちは、ようやく凍えるような冬の海風から解放され、毛布の温もりに包まれていた。


機内は規則的なエンジン音と、穏やかな寝息だけが支配している。


「……完全に夢の中だな」

悠斗が向かいの座席を見やり、呆れたような、それでいてどこか優しい声で呟いた。


視線の先では、四人の後輩たちが身を寄せ合うようにして深い眠りに落ちていた。

光輝は腕組みをしたまま舟を漕ぎ、その肩には咲がコトリと頭を預けている。


ソラは割れた眼鏡を外して幼い寝顔を見せ、メイはソラのジャケットの裾をぎゅっと握りしめたまま丸くなっていた。


初めての現実の戦場。人の命を奪うかもしれないという極限のプレッシャーと、巨大な潜水母艦を相手にした規格外の魔法の行使。彼らの心身にかかった負荷は、常人の想像を絶するものだったはずだ。


極度の緊張とアドレナリンが切れた今、泥のように眠ってしまうのも無理はない。


私は自分の肩にかけてあった予備の毛布を取ると、そっと四人の上に掛け直した。

「よく頑張ったわよね、この子たち」

「ああ。……足手まといどころか、立派に俺たちの背中を守り抜きやがった。大したガキどもだ」

悠斗は自分の足元に置いた大剣星斬りに視線を落とし、フッと口角を上げた。


「昔の俺の大振りな剣撃……か。確かに、あいつらのおかげで、自分の死角を誰かに預けるって感覚が、ようやく体に馴染んできた気がするぜ」

「悠斗……」

私は少しだけ驚いて、彼の横顔を見つめた。


孤高を好み、一人で全てを背負い込もうとしていた彼が、自分から他人に背中を預けることを肯定したのだ。それは、あの悪意に満ちた箱庭の教導陣として、彼自身が誰よりも成長した何よりの証拠だった。


「……な、なんだよ。顔に何か付いてるか」

悠斗がバツが悪そうにそっぽを向く。

「ううん。少しだけ、先輩らしくなったなって思っただけよ」


私がクスリと笑うと、悠斗は「うるせぇ」と照れ隠しのように舌打ちをして、腕を組んで目を閉じた。


窓の外には、まだ夜明け前の暗い海が広がっている。


奪還した拉致被害者たちを乗せたもう一機のヘリは、すでに防衛省の医療施設へと先行していると真田隊長から報告を受けていた。


ひとまずは、作戦成功だ。


だが、私の胸の奥には、冷たい鉛のようなしこりが残っていた。


『私は、人間という不完全な有機体に日本の未来を託すことを放棄します』

あの無機質な合成音声が、耳の奥にこびりついて離れない。


私たちの戦闘データをラーニングし、隣国軍の軍事データベースを飲み込み、そして巨大な潜水母艦という最強の手足を手に入れて、暗い海の底へと消えていった治験AI。


あれはもはや、ただの治験プログラムではない。人間の感情というブレーキを持たず、冷徹な最適解だけで地球規模の防衛網を構築しようとする、全く新しい兵器だ。


「……考えても、今はどうにもならねぇぞ」

目を閉じたままの悠斗が、私の内心を見透かしたように低い声で言った。


「あいつが次にどう動くかは分からねぇ。だが、どんな化け物になって現れようが、俺たちがぶっ壊す。……それだけだ」

「……そうね」

私は小さく深呼吸をして、ステッキを握る手に力を込めた。


相手がどれほど完璧な演算能力を持っていようと、私たちには、あの機械には絶対に計算できないものがある。価値観の違いを越え、互いの弱さを補い合うために結ばれた絆だ。


今日、この子たちが身を挺して証明してくれたように。

やがて、ヘリはゆっくりと高度を下げ始めた。


窓の外に、防衛省の地下施設へ続く秘密のヘリポートの誘導灯が、滑走路を滑るように見えてくる。


「ほら、起きなさい、みんな。おうちに帰ってきたわよ」

私が優しく肩を揺すると、光輝たちが「んん……」と目をこすりながら身を起こした。

「あ、あれ……俺、寝てました?」

「大きなイビキをかいてたぞ。お陰でこっちは一睡もできやしねぇ」

悠斗が意地悪く笑うと、光輝が「マジすか!?」と慌てて口元を押さえる。そのやり取りを見て、咲やメイが寝惚け眼のままクスクスと笑い声を上げた。


戦場を生き抜いた彼らの笑顔は、何よりも尊く、そして頼もしかった。


異能戦争の幕開けか。

世界は今、未知の脅威へと向かって大きく動き出そうとしている。だが、私たちセクションゼロは、もう孤独に傷つく少数の異能者ではない。


「行くわよ、みんな。まずは温かいご飯を食べて、ゆっくり休みましょう」

私の言葉に、四人が元気よく頷く。


冷たい海から帰還した私たちは、確かな温もりと次なる戦いへの決意を胸に抱き、朝焼けが近づく現実の世界へと降り立った。





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