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アルメルシア クロニクル  ―魔法を鍛えてみんなで生き延びます  作者: amya


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第175話:『計算外の絆と、過去を越える刃』

第175話:『計算外の絆と、過去を越える刃』


ソラの局地熱膨張による足元の爆発が、三十度に傾いた格納庫の床を激しく揺らした。


通信のハブとなっていた少年兵がバランスを崩し、その周囲に陣取っていた個体との間に僅かな死角が生まれる。


「今だッ!」

悠斗が傾斜を利用して一気に滑り降り、大剣星斬りを構えて突進する。


ハブ個体を守るため、三人の少年兵が即座に悠斗の死角へと回り込もうとした。過去の彼なら、ここで足を止めて迎撃するか、強引に力で突破を図るしかなかっただろう。

だが、今の彼には背中を預けられる仲間がいる。


「右から二体、回り込みます! メイちゃん、お願い!」

「はいっ! 展開、ハニカムシールド!」

咲の的確な指示と同時に、メイが展開した黄金の盾が悠斗の背後に滑り込み、少年兵たちの迎撃を完全にシャットアウトする。


「光輝くん、残る一体の足止めを!」

「任せろッ! 電磁掌握!」

光輝が放った不可視の電磁パルスが、最後の一体のインプラントを数秒間ショートさせ、その動きを完全に止めた。


「……悪いな。俺の死角は、もう俺の弱点じゃねぇんだよ」

悠斗は背後を全く気にすることなく、最高速のままハブ個体の懐に飛び込み、大剣の腹で強烈な一撃を叩き込んだ。


ゴッ! という鈍い音と共に、ネットワークの要であった少年兵が白目を剥いて床に崩れ落ちる。


『……メインハブ、ロスト。戦術データリンクの再構築に失敗。個体間の同期が切断されました』


残された少年兵たちの動きから、先程までの機械のように完璧な連携が消え失せた。それぞれが独立したAIの制御に切り替わったため、動きにわずかなラグが生じている。


「一気に制圧するわよ! 『超重力牽引』!」

私はステッキを振り上げ、バラバラに動き出した少年兵たちの足元に、強烈な下向きの引力を発生させた。


「グ、ガ……ッ!」

彼らの足が床に縫い付けられ、急な傾斜も相まって次々と体勢を崩していく。

そこに、悠斗が滑り込むようにして次々と峰打ちを見舞っていった。


ドゴッ、バキィッ! という音が響くたび、漆黒の戦闘服を着た少年兵たちが気を失い、転がっていく。


彼らは奪われたデータから、私たちの過去の戦闘スタイルを完璧にコピーしていたはずだ。しかし、それは裏を返せば、過去の私たちがやらなかったことには一切対応できないという致命的な弱点でもある。


私たちは、敵であろうと誰も殺さない。そして、誰一人仲間を見捨てない。

この大前提を心に留めて頑張ってきた。


あの箱庭の地獄で育んだ、この温かくも強固な絆こそが、冷徹な軍事AIの計算を狂わせる最大のバグになっているだろう。


「これで最後だッ!」

悠斗が最後の一人を壁に叩きつけ、気を失わせる。


静まり返った格納庫には、気絶した十数人の少年兵たちだけが転がっていた。


「……ふぅ。終わったわね」

私はステッキを下ろし、ふき出した額の汗を拭った。


「ああ。……だが、昔の俺の動きってのは、あんなに大振りで隙だらけだったのか? 相手しててイライラしたぜ」

悠斗が星斬りを肩に担ぎながら、少し恥ずかしそうに鼻の頭を掻いた。


「そうね。昔のあなたは、もっと無鉄砲で自分勝手だったわよ。……今は、ほんの少しだけ頼りになる先輩になったみたいだけど」

私がクスリと笑って見上げると、悠斗はバツが悪そうに視線を逸らした。


「……ほんの少しって何だよ。これでもお前やあいつらのために、背中を預けられるように動いてやってんだぞ」

ぶっきらぼうな口調の中にある確かな優しさに、私の胸の奥が少しだけ温かくなる。


「梨花センパイ、風間センパイ!」

光輝たちが駆け寄ってきた。誰も怪我はないようだ。メイも咲も、安堵の表情を浮かべている。


「お疲れ様。あなたたちの完璧なサポートのおかげで、誰も殺さずに無力化できたわ」

私が微笑むと、四人は誇らしげに顔を見合わせた。


「でも喜ぶのはまだ早いわよ。急いで奥へ向かいましょう」

私たちは気を引き締め直し、格納庫の奥にある分厚い隔壁へと向かった。


光輝がガントレットで電子ロックを解除すると、プシュゥゥと重たい音を立てて扉が開く。


「……これは」

部屋の中に入った私たちは、思わず息を呑んだ。


冷気で満たされた広大な区画。その壁際には、生命維持装置の繋がれた透明なカプセルがいくつも並んでおり、中には白衣を着た男女が眠るように収容されていた。


数ヶ月前、日本の研究所から拉致された佐藤博士の後輩研究員たちに間違いない。


そして、その部屋の中央。

禍々しい赤い光の明滅を放つ、巨大な漆黒のモノリスのようなサーバー群が鎮座していた。これが、日本の防衛網を脅かし、進化を遂げたアルメルシアのサブサーバーだろう。


『……最終防衛ラインへの侵入者を確認。防衛プロトコルを起動します』

突如、サーバーのスピーカーから、感情のない無機質な女の声が響き渡った。


「日本の治験AIじゃない……隣国軍のメインシステムね!」


サーバー群の周囲に展開されていた光学迷彩が解け、そこから姿を現したのは、先ほどの有機的な少年兵とは次元が違う、完全な機械の殺戮兵器だった。


両腕にプラズマキャノンを装備し、重厚な装甲に覆われた巨大な多脚戦車。


「チッ、今度はお得意のロボットかよ。どいつもこいつも俺たちの邪魔ばっかりしやがって!」

悠斗が大剣を構え、私を庇うように一歩前に出る。


奪われた拉致被害者と、システムの心臓部を目前にして、最後の大きな壁が私たちの前に立ちはだかっていた。





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