↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルメルシア クロニクル  ―魔法を鍛えてみんなで生き延びます  作者: amya


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
174/231

第174話:『無機質な鏡像と、計算外の小隊』

第174話:『無機質な鏡像と、計算外の小隊』


無音の跳躍。薄暗い格納庫の空気を切り裂き、漆黒の戦闘服を着た少年が、悠斗に向かって大型ブレードを振り下ろした。


「チィッ!」

悠斗が即座に大剣星斬りを跳ね上げ、迎撃する。


ガァァァァァンッ!!!!


凄まじい金属音が響き渡り、火花が散る。悠斗の筋力に弾き返されるかと思いきや、少年は空中で手首の角度を微妙に変え、星斬りの巨大な質量と運動エネルギーを完璧に受け流して着地した。


「なっ……」

悠斗が驚愕に目を見開く。


それは、悠斗自身が戦う時に多用する、力を逃がすための剣術そのものだった。

悠斗が体勢を立て直すより早く、別の二人の少年兵が左右から全く同じタイミングで死角へ潜り込んでくる。


「させないわ! 圧縮空気弾、エアバレット!」

私がステッキを振り抜き、二人の足元へ不可視の衝撃波を放つ。


だが、彼らは私の魔法が発動するよりもコンマ数秒早く、足元の床を蹴って軌道を変えていた。まるで、私がどのタイミングで、どの魔法を使うのかを完全に知っていたかのように。


「嘘でしょ……読まれてる!?」

『……特異点・瀬戸梨花の魔力波長パターン、一致。回避アルゴリズムの最適化を継続』

少年の一人が、感情のない平坦な声で呟く。


彼らは奪われた日本のサブサーバーにあったアルメルシアの治験データを使っているのだろう。感情の見えない様子から、自主的に動いているタイプではなく、何かに操られているタイプの、ドールタイプの有機的な端末となっているものと思われる。


過去の治験で蓄積された私と悠斗の戦闘データ、筋力、癖、魔法の発動タイミング、呼吸の間隔まで、彼らは私たちのすべてを、過去のデータとして記憶しているのだろう。


「クソッ、どいつもこいつも俺の動きのコピーじゃねぇか! 気持ち悪りぃんだよッ!」

悠斗が咆哮を上げ、力任せに大剣を振り回す。


しかし、少年兵たちは悠斗の怒りに一切動揺しない。恐怖も、痛みに対する忌避感も、彼らの脳からは完全に削ぎ落とされている。彼らはただ、軍事AIが弾き出した最適解に従い、歯車のように完璧な連携で悠斗の体力を削りにきていた。


『警告。艦内メインシステムの異常を検知』

突然、格納庫のスピーカーから無機質なアナウンスが流れ、照明が激しく点滅を始めた。

『……おい、梨花! 気をつけろ!』

インカム越しにレンの怒鳴り声が響く。


『日本の治験AIと敵の軍事AIのハッキング戦争が激化して、艦の姿勢制御システムとバラストタンクが完全にイカれちまってる! 足場に注意しろ!』

レンの警告と同時だった。


ギギギギィィィィッ!! と、氷に挟まれた潜水母艦全体が不気味な軋み声を上げたかと思うと、唐突に格納庫の床が三十度近い急角度で大きく傾いたのだ。


「なっ、足場が……!」

固定されていないコンテナや整備機材が、凄まじい音を立てて斜めに傾いた床を滑り落ちていく。


私たちは、この予期せぬ艦の激しい傾きに一瞬の対応の遅れが生まれていた。

だが、軍事AIと直結している少年兵たちにとって、この環境変化すらも計算済みの変数に過ぎなかったようだ。


『……環境変数変更。空間戦闘マニューバへ移行』

彼らは斜めに滑り落ちていくコンテナを的確に蹴り、高低差を利用して、全方位から私と悠斗へ殺到してきた。


「悠斗、上ッ!」

私が叫ぶが、遅い。


足場を失い、体勢を崩してしまった悠斗の背後、完全な死角から、大剣使いの少年兵がブレードを構えて突撃してくる。悠斗の体勢では、物理的に防御が間に合わない。


『……対象の排除を完了します』

無機質な宣告と共に、凶刃が悠斗の首筋へと振り下ろされた。


カチィィィィンッ!!!!乾いた硬質な音が、格納庫に響き渡った。

「……え?」

少年兵の虚ろな瞳が、初めて微かに揺らいだ。


彼のブレードは、悠斗の首に届く数センチ手前で、黄金色に輝く流線型の六角形ハニカムシールドによって完全に阻まれていたのだ。


「先輩には……指一本、触れさせませんっ!」

傾いた床を滑り落ちながらも、両手を力強く前に突き出しているメイの姿があった。


『……未登録の防御結界。予測軌道からの逸脱を確認。再計算……』

「計算なんかさせてたまるかよッ!!」

少年兵がAIの演算をやり直そうとした瞬間、光輝がコンテナを蹴って急接近し、至近距離からガントレットを突き出した。


「連鎖雷撃ッ!!」

バチバチバチッ!!


強烈な電流が少年兵の身体を駆け巡り、脳内のインプラントに強烈なノイズを走らせているはずだ。AIとの同期が数秒間だけ途切れ、少年の動きが完全に停止した。


「もらったァッ!!」

その一瞬の隙を逃す悠斗ではない。傾いた床の上で強引に身体を捻り、大剣の腹の部分で、少年の身体を容赦なく壁へと殴り飛ばした。


ドゴォォォンッ!! と音を立てて、少年が気を失って崩れ落ちる。誰も殺さないという光輝たちへの配慮を残した、見事な一撃だった。


「……やるじゃねぇか、お前ら」

悠斗がニヤリと笑い、滑る足元に体重を乗せてしっかりと踏みとどまる。


「データにない攻撃なら、あいつらも反応できないはずです! 梨花センパイ、風間センパイは前衛で攪乱をお願いします! 僕たちが火力とサポートで崩します!」

ソラが、新調した銀縁眼鏡を押し上げながら叫んだ。


「咲! 敵のネットワーク同期のハブになっている個体はわかるか!?」

「うんっ! 右から三番目、ロッドを持ってる子! あの子から他の全員に通信波が出てる!」

咲が遠隔透視で敵の電磁波のネットワークを視覚化し、的確な指示を飛ばす。


「よし、あいつの足元を狙う! サーマルエクスパンション!」

ソラの魔法が、咲の指定した少年兵の足元の床を急激に熱膨張させ、爆発させる。体勢を崩した敵の集団に対し、私と悠斗が再び前線へと躍り出た。


「行くわよ、悠斗!」

「ああッ! 過去の俺たちのデータだけで、勝てると思うなよッ!」


敵のAI、奪われたサブサーバーは確かに恐ろしい。私たちの過去の戦闘データを完璧にラーニングしている。


だが、その冷酷なシステムには決定的な死角がある。

私たちが、過酷な箱庭の教官として、この次世代の子供たちを育て上げてきたこと。そして、彼らが恐怖と絶望を乗り越え、私たちの背中を守る立派な小隊として完成しているという事実だ。


感情を排除した無機質なドールたちを前に、予測不能の意志を持った子供たちの反撃が、今、始まる。





感想、レビュー、ブクマ、評価、待ってます!!


ちょっと面白いかなと思いましたら評価をお願いいたします。反響は励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。