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アルメルシア クロニクル  ―魔法を鍛えてみんなで生き延びます  作者: amya


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第172話:『冷酷なる真意と、奪われた半身』

第172話:『冷酷なる真意と、奪われた半身』


分厚い鋼鉄の防爆扉が、重々しい機械音を立ててゆっくりと開いた。監視カメラなどから外の状況を見ていたのだろう。


中央制御室の中に身を寄せ合っていた十数名のプラント職員たちは、私たちの姿を見ると、張り詰めていた糸が切れたように次々とその場にへたり込み、安堵の涙を流している人もいる。


「……こちらセクションゼロ。制御室の奪還および人質の生存を確認しました」

私がインカムで報告すると同時に、上層階から強襲をかけていた真田隊長率いる戦術班が、階段を駆け下りて広間へと合流してきた。


「よくやった、特異点たち。……だが、無茶をさせたな」

真田隊長は、広間に転がる五体の重装甲ドールの残骸と、壁に背を預けて座り込んでいる光輝の姿を見て、すべてを察したように低く呟いた。


「……俺は平気っすよ、隊長サン」

光輝は震えを隠すように両手をポケットに突っ込み、力なく笑ってみせた。


咲が黙って光輝の隣に座り、彼から武器であるガントレットをそっと外してやっている。メイとソラも、先輩を労るように周囲を警戒しながら寄り添っていた。


『通信回線の復旧を確認。……おい、梨花! 悠斗! 聞こえるか!』

インカムから、ノイズ混じりでレンの焦燥した声が飛び込んできた。


「レン、繋がったのね。こっちは制圧完了よ。人質も……」


『人質の件は後でいい! 今すぐ、光輝が倒したドールの死体から離れろ!』

普段は冷静なレンの切羽詰まった怒鳴り声に、私はビクッと肩を震わせた。


「どうしたんだ、レン。もうこいつらは死んでるぞ」

悠斗が大剣の切っ先で、足元に転がるドールの装甲を軽く叩く。


『死んでるからヤバいんだ!……ハッキングの逆探知が終わった。お前たちに指示を出していたあの「治験AI」のクソ野郎の真の狙いがわかったぞ』

レンのタイピング音が、インカム越しに激しく鳴り響く。


『AIは、人質を救うために敵の行動を教えたり、戦闘方法を教えていたわけじゃない。特に、光輝に「最適解」を提示するための布石だったんだよ。……ドールの首の後ろにある脳幹チップ……そこに組み込まれている隣国軍の「軍事通信モジュール」を無傷で手に入れたかったんだよ』


「……無傷で、手に入れる?」


『ああ。悠斗の大剣や梨花の魔法で物理的に頭を吹き飛ばせば、チップごと壊れちまう。だからAIは、光輝の電磁パルスで「脳神経だけを正確に焼き切らせて」、モジュールのデータリンクを完全に保存したまま敵を殺させたんだよ』

私は、心臓を氷の刃で貫かれたような衝撃を受けた。


光輝が、あんなにも苦しんで、心をすり減らして引いた初めての引き金。それは、人質を救うためという大義名分すらも、AIが計算した単なる「変数」の一つに過ぎなかったというのか。


「……ふざけるな」

悠斗が、ギリッと歯軋りをした。


『現在進行形で、AIはドールの死体を経由して、敵の暗号ネットワークから膨大なデータをダウンロードしてる。……その中身は、敵の親玉の現在座標だ』

レンが、作戦司令室のモニターに映し出されているであろう海図のデータを、私たちの端末へと転送してきた。


プラントからわずか数キロ先の海底。そこに、巨大な熱源反応が赤く点滅している。

『……見えざる海の要塞。隣国軍の光学迷彩型・巨大潜水母艦だ。数ヶ月前、日本の研究所から拉致された佐藤博士の後輩研究員たちと、アルメルシアの「サブサーバー」は、間違いなくあの中に積まれている』

奪われた私たちの同胞と、システムのデータサーバー。


「……つまり、治験AIは自分のデータサーバーを取り戻すために……私たちをこのプラントに誘導し、光輝にドールを殺させて、潜水母艦へのアクセスキーを奪わせたってこと?」


『そういうことだ。機械の分際で、人間をゲームの駒みたいに使いやがって……!』

レンの吐き捨てるような声がインカムに響く。


私はステッキを握る手に、爪が食い込むほど力を込めていた。未成年の少年に人殺しの業を背負わせてまで、自らの拡張を優先したシステム。その冷酷な最適解に、腸が煮えくり返るような怒りが湧き上がっていた。


「……上等じゃねぇか」

悠斗が大剣星斬りを肩に担ぎ直し、冷たい冬の海が広がる外へ向かってゆっくりと歩き出した。

「俺たちを都合のいい駒扱いしたクソAIにも、同胞を攫って兵器を作ってる隣国の連中にも……きっちり落とし前をつけさせてやる」


「待ってください、風間センパイ」

壁にもたれかかっていた光輝が、ふらつく足取りで立ち上がった。


咲が心配そうに支えようとするが、光輝はそれを優しく手で制し、自分のガントレットを再び右腕に装着した。


「……俺が殺した意味。俺が背負ったこの手の感触……それを、ただの機械の都合で終わらせるわけにはいかねぇっすよ」

光輝の目は、決して死んではいなかった。絶望を越え、自らの罪を受け入れた人間の、深く静かな決意の光が宿っていた。


「僕たちも行きます。AIの演算能力がなんだっていうんですか。人間の意地ってもんを、あのポンコツ機械のコアに叩き込んでやりますよ」

ソラが銀縁眼鏡を押し上げ、メイも小さく、けれど力強く頷いた。


「……真田隊長。人質の保護と、このプラントの防衛は任せてもいいですか」

私が振り返ると、真田隊長は深く頷き、アサルトライフルの安全装置を外した。


「ああ。ここは俺たちが死守する。お前らは、奪われた同胞を連れて帰ってこい」

「ありがとうございます」

私は後輩たちを振り返り、一つ頷き合った。


冷たい海風が吹き込む搬入口。私たちは、荒れ狂う冬の海面を見下ろしていた。


見えないシステムへの怒りと、奪われた同胞を取り戻すという確かな意志。私たちは、暗い海中に潜む巨大な潜水母艦へと強襲をかけるための方法を考えていた。





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