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アルメルシア クロニクル  ―魔法を鍛えてみんなで生き延びます  作者: amya


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第168話:『小隊長の帰還と、雷撃の最適化』

第168話:『小隊長の帰還と、雷撃の最適化』


私の言葉が雨音の響く廃墟に静かに溶けていく。


光輝と咲は泥だらけの顔を上げ、私の瞳を、そして肩から血を流しながらも決して倒れない悠斗の広い背中を、食い入るように見つめていた。


彼らの瞳から、あの血の幻影に対する病的な恐怖が、少しだけ引いていくのがわかった。


「……風間センパイ、梨花センパイ」

光輝が泥水の中に手をつき、ギリッと奥歯を噛み締めながらゆっくりと立ち上がった。


その両足はまだ微かに震えていたが、彼は自分の右腕に装備されたガントレットを、確かな意志を持って強く握りしめた。


「……俺、ダサすぎですね。後輩たちの前で、……こんなに無様に泣き喚いて。……挙げ句の果てに、傷だらけの先輩に庇ってもらって」


「……気にするな。最初からカッコつけられる奴なんていねぇよ」

悠斗が、大剣を肩に担ぎ直して不敵に笑う。


「咲ちゃんも立てますか?」

ソラとメイが駆け寄り、咲の両手を引いて立ち上がらせる。


「……うん。ありがとう、ソラくん、メイちゃん。……ごめんね、先輩なのに、守ってもらっちゃって」

咲は涙を袖で拭い、小さく、けれど力強く頷いた。


その時だった。


ジィィィィン……ッ。


私たちの周囲の空間が、再び不気味なノイズと共に歪み始めた。


「チッ、また来やがるぞ! AIの野郎、本当に休ませる気がないらしいな」

悠斗が舌打ちをしながら大剣を構える。


空間の歪みから現れたのは、先ほどのような血まみれの亡霊ではなかった。


今度は完全に感情を排除した無機質な殺戮機械だった。全身を鈍色の装甲で覆い、両腕にガトリングガンを装備した自律型の四足歩行ロボットが、十数体、私たちを取り囲むようにスポーンしたのだ。


『……目標の精神状態に異常な回復傾向を確認。……最適化プロセスを放棄。純粋な物理的殲滅フェーズへと移行します』


空から響くシステム音声は、トラウマによる精神破壊を諦め、単純な火力による圧殺へと切り替えてきたことを告げていた。


「悠斗! あの数は……」

私がステッキを構えようとした、その瞬間だった。


「センパイたち。……そこ、下がっててください」

光輝が、私と悠斗の前にスッと進み出た。


「光輝、いけるか……?」

「はい、ロボット相手なら俺でしょう。……もう、先輩たちの背中に隠れてるだけのガキじゃねぇってとこ……見せてやりますよ」

光輝はロボットの群れに向かって、右手のガントレットを突き出した。


しかし、以前のようにパニックで無差別に放電するということはなかった。彼は深く深呼吸をし、私が教えた『魔法は物理法則への干渉』という言葉を、自らの頭の中で反芻しているようだった。


(うまく攻撃してほしい。闇雲に雷を撃ち込むだけじゃ装甲に弾かれるわ。……相手が機械なら、可動部分じゃなく、電子頭脳を直接焼き切るような魔法が有効だと思うけれど……)


光輝のガントレットから、バチバチという派手な火花は散らない。

代わりに目に見えない何かが、彼の魔力を媒介にして極限まで圧縮されていく。


「……いけぇッ!! 電磁掌握、エレクトロハック!!」

光輝が腕を振り抜いた。


無音だ。だが光輝の手から放たれたのは不可視の電磁パルスなどだろう。前方に展開していた五体のロボットの装甲を透過し、内部の電子回路へ直接叩き込まれたはずだわ。


「ピィィィ……ガガガッ……!」

ロボットたちが一斉に奇妙な電子音を漏らし、その場にガクンと崩れ落ちた。装甲は無傷のままだが、内部の制御システムが完全にショートし沈黙したのだ。


「……おぉっ! やったぜ! 雷の出力を上げるんじゃなくて、波長を調整して内部を狂わせるイメージ……! 梨花センパイの言った通りだ!」

光輝が自分のガントレットを見て興奮気味に叫ぶ。


「見事ね、光輝くん!」

私が称賛の声を上げるが、残りのロボットたちは沈黙した仲間を踏み越え、ガトリングガンの銃口を私たちへ向けながら更に距離を詰めてきた。


「メイちゃん! 前方からの射線、防いで!」

今まで怯えていた咲が、凛とした声で指示を飛ばした。


「はいっ! ハニカムシールド!」

メイが前に躍り出て、流線型の黄金の盾を展開してから一瞬。


ズガガガガガガガッ!!!!


無数の銃弾を左右へと逸らす。


咲はメイの背後に立ち、両手を額に当てて目を閉じた。

「遠隔透視、クレアボヤンス・フルリンク!!」


彼女の脳内には、この戦場の立体マップが完璧に構築されているはずだわ。敵の配置、射線、瓦礫の死角。彼女は自らの恐怖をねじ伏せて、その能力を逃げるためではなく、仲間を導くために全力で頑張っているはずね。


「ソラくん! 右斜め前方の廃ビルの3階に狙撃型のロボットが二機! あなたの魔法なら、あの鉄骨を崩して下敷きにできるはずです!」


「了解だ! やってやる!」

ソラが咲の指示通りに右手を突き出し、廃ビルの鉄骨の接合部の温度を急激に変化させる。


「局地熱膨張、サーマルエクスパンション!」


ドォォォォンッ!


内部からの熱膨張によってコンクリートが爆ぜ、鉄骨が崩落。狙撃型ロボット二機が瓦礫の下敷きとなって完全に圧殺された。


「光輝くん! 左から四機、回り込んできます! 距離十五メートル、水たまりの上です!」


「サンキュー、咲! 水たまりの上なら、俺の独壇場だぜッ!」

光輝が左手を水たまりに向け、今度は最大出力の電流を解き放つ。


「連鎖雷撃ッ!!」

水という完璧な導体を伝い、四機のロボットが一瞬にして黒焦げになり、ポリゴンの破片となって消え去った。


「……すげぇな」

悠斗が大剣を肩に担いだまま、彼らの完璧な連携を見つめて感嘆の声を漏らした。

「ええ……」

私も驚きと共に目を細めた。


咲が戦場全体を俯瞰し、敵の死角と弱点を完璧に把握する。


メイが絶対的な盾となって敵の攻撃を逸らし、ソラと光輝が、物理法則を応用した精密かつ強力な魔法で敵を的確に粉砕していく。


彼らはもはや、私たちに守られるだけの無力な子供たちではなかった。


互いの弱点を補い合い、自分の能力の特性を完全に理解した、一つの独立した部隊として機能し始めていたのだ。


「……すごいわ。彼ら、もう自分たちだけで戦局をコントロールしてる」

「ああ。特に、あの二人だ」

悠斗が、光輝と咲の背中を指差した。


血の恐怖に心を折られ、絶望の底に突き落とされたはずの第3世代。

だが、彼らはそこから這い上がり、今、ソラとメイという後輩たちを的確に率いる小隊長のように、立派にその役目を果たしている。


ズガァァァァァンッ!!!!


光輝の最後の一撃が、残るすべてのロボットを粉砕し、戦場に再び静寂が戻った。


灰色の空から降る雨の中、四人の子供たちは荒い息を吐きながらも、誰一人倒れることなく、しっかりと自分の足で立っていた。


「……ハァッ、ハァッ……。やりましたよ、センパイたち」

光輝が、額の汗を拭いながら、誇らしげな笑顔で私たちを振り返った。


咲もメイとソラとハイタッチを交わし、嬉し泣きのような笑顔を見せている。


「よくやったわ、みんな。……もう、私の教えることは何もないかもしれないわね」

私が心からの賛辞を送ると、悠斗が「バカ言え」と鼻で笑った。


「まだまだヒヨッコだ。俺の背中を越えるには、あと百年はえぇよ。……だが、合格点はくれてやる」

悠斗の言葉に、四人が顔を見合わせてパッと表情を輝かせる。


『……第2フェーズ、適応訓練の完了を確認。……全対象者、ログアウトシーケンスへ移行します』


空からは、治験終了を告げるシステム音声が響いた。


足元の泥水が、廃墟の街並みが、白い光の粒子となってゆっくりと溶け出していく。


私たちは今度こそ、誰の心も壊させることなく、この悪意に満ちた箱庭の試練を打ち破ったのだ。


光に包まれる中、私は悠斗と顔を見合わせた。


私たちの教導陣としての戦いは、一つの大きな成果を実らせた。だが、彼らがこれほどまでに急速に強くなったということは、大変嬉しいことではあるが、反面、現実世界での戦いもまた、彼らの力を必要とするほどに激化していくのかもしれない。


光の向こう側。目を覚ました現実の世界で、私たちを待っているのは、休息か、それとも新たな戦場の火蓋か。


私たちは互いの手を強く握りしめ、現実世界への帰還の光へと身を委ねた。





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