エピローグ
龍助が目を覚まして数日が経ったある日、彼は一度久しぶりに施設に戻ることになった。
理由は、一度穂春達の元気な姿を見たいという兄馬鹿な願いを聞き入れてもらえたからだ。
施設の最寄りのバス停に降りた龍助は歩いて施設に向かっていく。
正門の前にまでやってくると、子供達の元気な声が聞こえてくる。
「あ! 龍助お兄ちゃんだ!」
「お帰りなさい!」
一人の男の子が龍助に気づき、他の子供達を呼ぶと続々と施設から子供達が出てきた。
龍助はこれでも施設ではみんなのお兄ちゃんという立場で大人気。
たくさんの子供達に囲まれて、腕を引っ張られたり抱きしめられたりとすごいモテっぷりだ。しばらく施設にいなかったので、泣いている子供達もいた。
「みんな。元気にしてるか?」
龍助の問いかけに子供達は大きな返事を返した。そして、大好きなお兄ちゃんと遊ぼうと我先に龍助に詰め寄り、腕を引っ張ったり背中に乗ってきた。
流石にバランスを崩しそうになって、困っていた龍助を助けたのは後から出てきた黒髪の少女だった。
「ほらみんな。お兄ちゃんが困っているでしょ? 少し落ち着ついて。おやつの時間だから部屋に戻りなさい」
龍助の実の妹、穂春だった。
エプロンをつけていたところを見ると家事の手伝いをしていたのだろうと予想が出来る。
注意された子供達はおやつという言葉に興味を惹かれるも、まだ名残惜しそうに龍助を見ている。
「行っといで。俺もすぐに行くから」
子供達は龍助の言葉を信じて施設の中に戻っていったので、その場には龍助と穂春の二人だけになった。
「穂春。ただいま」
「お帰りなさい。兄さん」
子供達の前では頼もしいお姉さんだったが、二人っきりになった途端、先ほどの子供達と同じ瞳で龍助を見ていた。
前もって一度帰ることを連絡していたが、やはり実際に会うとテンションが上がるようだ。
「まだ一週間も経ってないけど。みんな元気そうで何よりだよ」
「その短い期間でも私には途方もない時間のように感じました」
その気持ちに共感したい龍助だが、事件の調査などで大変だったからか、あっという間に時が流れたように感じていた。
「穂春。申し訳ないんだけど。やっぱりしばらくずっと向こうで訓練することになったよ」
龍助の言葉に穂春の返事はない。穂春の顔を見るのが龍助には怖かった。
春休み中とは伝えてあるものの、もしかしたら春休みが終わっても帰って来れない可能性も無きにしも非ずだ。
「そうなのですね。でも、兄さんの元気そうな顔を見せていただいたので、また頑張って待つことができそうです!」
少し間を空けてから口を開いた穂春の言葉はとても強いものだった。
一度でも龍助の元気な顔を見れたことでまた次も頑張れる。彼女はそう言うのだ。
「相変わらず頼もしい妹だよ」
「あら、兄さんだって頼もしいですよ?」
そんな話をして二人は笑った。この短い期間で穂春は更に頼もしくなったことを龍助は誇りに思う。
「さ、みんな待ってますよ。行きましょ」
穂春がそう言って施設へと歩いていった。
妹の後ろ姿を見て龍助はこう決心する。
(みんなを守れるように。俺は強くなる)
穂春。施設の先生と子供達。そして今手助けをしてくれている人達。この大事なもののために龍助は今自分が持っている力を、「守る」ために使いこなせるようになろうと決心した。
「お兄ちゃん早く!」
「兄さん。おやつがなくなりますよ」
「おー! 今行く」
大好きなお兄ちゃんを待っている家族の元へ一歩一歩と歩いていく龍助だった。




