三十一話 力の使い道
「あれ……。ここはどこだ?」
倒れたはずの龍助が目を開けるとそこには一面綺麗な花畑が目に飛び込んできた。
風も吹いているが、ちょうど良い強さと温度でとても心地の良いものだった。
更には上空を見上げると無数の星々が光り輝いていた。
「なんかここ。落ち着くな」
龍助がその場に寝転がり、くつろいでみる。
まるでふかふかな羽毛布団の上にいるかと思えるほど野原の寝心地は最高だった。
「龍助くん」
龍助が寝落ちしそうなところにどこか懐かしい声が聞こえてきた。その声に龍助は飛び起き、すぐにその方向へと向く。するとそこには以前にも夢に出てきたあの男の子が立っていた。
「兄ちゃん……」
その男の子を見た瞬間に龍助の目の端から涙が溢れてくる。男の子はニコニコと笑顔を見せているだけ。そこで龍助は自分から話しかけることにした。
「兄ちゃん。ここはどこなの?」
「ここは楽園ですよ」
「楽園?」
楽園という言葉に聞き覚えがある龍助だが、なかなか思い出すことが出来ない。
しかし居心地のいいところだと考えれば、ここが楽園だと言っても不思議ではないとも感じた。
「龍助くん。とても頼もしくなりましたね」
しばらく黙っていた男の子が突然龍助を褒めてくる。その言葉に、言われた本人は照れ臭く、少しむず痒く感じた。
「ですが、ここにくるのはまだまだ早いです。なので、戻らないと」
褒めてくれたと思ったら、今度は突き放すような言葉をかけてきた男の子。
突然の変わりように龍助は動揺を隠せなかった。
できることならここにずっといたいと思う彼にとってはかなりきつい言葉だ。
「兄ちゃん。俺、戻りたくない……。どうしていいか分からなくなった……」
龍助がずっと抱えていた本音を目の前の男の子に投げてしまった。
ハッとした龍助は思わず口を抑えながら、恐る恐る男の子の方を見てみると、キョトンとしていた男の子はすぐに笑顔になりながら口を開く。
「そうですね。世の中分からないことだらけですが、龍助くんは少しずつどうすべきなのかを分かってきていると僕は思います」
つらつらと並べられた言葉のどれも龍助を励ましているというよりかは、本心から思っていることをそのまま伝えてくれていると龍助には感じ取れる。
「人の愛情を人一倍大切にしている龍助くんなら大丈夫ですよ」
その言葉は龍助にとって、とても嬉しい言葉だった。
大丈夫というこの言葉は龍助達が小さい頃から何かあるたびに言ってくれていたものだ。
最初の方は何を根拠に言っているのだと不信感に思っていた龍助だが、その言葉にどれほど助けられたかは彼が一番よく知っていた。
今でもこうして大丈夫と言われても何を根拠にと聞きたくなるが、それでもちょっとした安心感を与えてくれるこの言葉が龍助は好きだった。
「兄ちゃん。俺、戻るよ」
龍助の決心に男の子は花のような笑顔を見せながら頷いた。
決心した瞬間、大きな地震が起き始める。
「ここで一度お別れです。次に会うときも元気な姿を見せてくださいね」
「ちょ、待っ……!」
男の子はそう言うが、龍助は彼を助けようとその場から動こうとした。しかし、龍助と男の子の間に大きな地割れが入ってしまい、どんどん二人の距離は空いていく。そして龍助は割れていく地面の中に落ちていってしまった。
◇◆◇
「うわああ!」
「きゃああ!」
龍助が叫びながら飛び起きると、同じように叫び声を挙げた者がいた。
「びっくりした。驚かさないでよ……って目が覚めたのね!」
そこにいたのは叶夜だった。彼女は龍助の側に立って何か作業をしていたようだ。
手にはタオルが握られており、叶夜の後ろには水が張られたおけが置いてあった。そこから導き出される答えとしては、龍助の顔などを拭いてくれていたのだろう。
叶夜は龍助の手を握りしめながら心底ホッとしたようにすぐそこにあった椅子に腰掛ける。
女子に手を握られたことがない龍助は少し動揺した。それ故か心臓の音が自分でも分かるくらいうるさく鳴っている。
「えっと。ここはどこだ?」
「ここは本部、戻ってきたの。あなたはあの後気絶して、そのまま今日まで二日が経ったわ」
龍助は現状を理解しようと叶夜に聞くと、思わない答えが返ってきて龍助自身一番に驚いている。
何回倒れるんだと自分に突っ込みたくなるくらい。
「二日も寝てたのか俺は」
「ええ。でも京さんの予想よりは早いお目覚めよ。さすが肉体の力」
冗談っぽく言った叶夜に笑いかけた龍助は、気絶した後のことを聞いた。
龍助が倒れた後に、叶夜達が化身にトドメをさそうとしたが、いつの間にか化身は姿を消していたらしい。
化身もいなくなり、京も復活した後は本部に連絡して、巻き込まれた一般人や怪我人などを一時的に本部まで連れてきたという。
「天地くん。目が覚めたのですね」
一通り話した叶夜の背後から千聖が姿を現し、声をかける。突然幽霊のように現れたので龍助は少しびくついた。
びっくりはしたものの、それ以上に千聖があの男の子に似ているなという気持ちの方が強かった。
名前が違う時点で同一人物ではなく、別人だということは龍助にも分かっている。
世界には同じ顔の人が三人いるという言葉を思い出し、千聖と男の子がそれに該当するのではと考える龍助。
「具合の方はどうですか? 念の為に診察しておきましょう」
考え込んでいる龍助の様子を気にしてか、千聖が診察の提案をした。我に返った龍助はお願いすることにした。
一通り診察を終えると、千聖が京を呼びにいくために席を外した。
今この空間にいるのは龍助と叶夜だけだ。
そんな彼女は何か言いたげな表情をしており、この表情に龍助は見覚えがある。
「叶夜? ど、どうした?」
「本当に心配した。京さんが大丈夫だとは言っていてもやっぱり怖いものね」
いつかの穂春と同じように悲しげな表情をしながら龍助を見つめてくる叶夜。
何か言葉をかけたい龍助だが、いつものようにうまく言葉が出てこない。
「まあ、あの、ほら。俺ってばよく寝ると元気もりもりで復活するから!」
龍助が腕を掲げながら笑顔で発言すると、叶夜が少しだがフッと小さく笑った。
「それに、叶夜には笑顔でいてほしい」
どうにか叶夜に元気になってほしくて思いつく限りの言葉を口にした龍助。
必死すぎる龍助の気持ちを感じ取ったのか、叶夜が笑顔になってくれた。
「このくらい元気なら大丈夫ね。少し心配しすぎたわ」
叶夜はそう言ったが、龍助は心配してくれたことに感謝をしたいと思っている。
心配かけるのは不本意ではあるが、自分を思ってくれていると言う証拠だと確認できるからだ。
(まあ俺は倒れすぎだけど……)
人に心配をかけるということはその人を不安にさせるのと同意義だ。それを何度もさせている龍助は心の中の自分に叱責した。
「そういえば、俺はまた暴走になったのか?」
少し和んだところを狙って龍助が話題を変え、聞いてみると叶夜は首を横に振る。
「京さんは違うって言っているわ。それに私も違うと思うの」
「え? そうなのか。じゃあ何だったんだ?」
叶夜の違うという言葉にあの時の力が暴走ではなくなんだったのか分からず、混乱する龍助。
「これは私の憶測だけど、あなたのまた違う能力が覚醒していたんじゃないかと思うの」
「覚醒?」
今持っている能力とはまた別の能力が覚醒して、一時的に使うことができたのだと叶夜は推測したらしい。
「なんの能力かは分からないけど、かなり強大なものだと思うの」
叶夜はただの推測だと言うが、なぜか龍助もその推測が腑に落ちる。
あの時はいつもの能力を使った時の力とはまた違う感覚だったと記憶していた。
しかし、困ったことにその時の力と使い方は思い出せないでいる。この矛盾な状態に龍助は頭を抱えた。
「肝心の力の使い方を忘れるとかないわ……」
「大丈夫よ。一度出来たことはまた出来るわ。自信持ちなさいよ」
落ち込んでいる龍助を見て、少し笑った叶夜がフォローしてくれた。
彼女の言葉で、今の自分でもしたいことと出来ることを見つけることが出来た。それは、力を使いこなせるように修行しながら皆を守りたいというものだ。
そして龍助は叶夜に聞きたいことを聞こうと決心する。
「叶夜」
「ん?」
「俺の力って、ちゃんと誰かのために役に立って、使えるようになるよな?」
それだけ言って龍助は恐る恐る叶夜を見ると、彼女はキョトンとした顔をしていたが、それは一瞬のことですぐに満面の笑みで答える。
「龍助と龍助の力なら絶対大丈夫よ。私が保証するわ」
力の使い方次第で力は善にも悪にもなると叶夜は言いつつ、龍助なら大丈夫だと断言してくれた。
本当に叶夜の笑顔と言葉は彼の心を照らしてくれる太陽のようだと感じるものだった。




