三十話 龍助の覚醒
廃村の中にある施設で何度も大きな衝撃音が聞こえて来る。
それは、龍助達と化身の激闘の様子を物語っていた。
「くそ、全然当たらないぞ」
颯斗が悔しそうにそう呟いた。彼の魔弾は全てかわされてしまい、一つも命中しないのだ。
叶夜も援護しつつ攻撃を繰り出すが、なかなか化身の動きを封じれない。そして龍助はというと、肉体の力を持っている彼でも少し疲れが出てきている。
「なかなかやるじゃないか」
三人と敵対している化身はまだ余裕の様子だが、龍助達の攻撃を受けたところから血液が流れたり、傷を負っている。
少なからずダメージは与えているようだ。
緊張が支配する中、龍助がもう一発くらい攻撃をおみまいしてやろうと動き出したが、足が微動だにしなかった。
(足が、動かない?!)
「無駄だ。人体である以上俺の能力からは逃げられない」
驚きを隠せなかった龍助に化身が不気味な笑みを見せながら語りかけてきた。
「俺は人の感情の化身だ。人体に関することはなんでも出来る」
化身は自分自身のことを話したついでに持っている能力のことを語った。
どうやら彼が持っている能力は「人の力」で、主に人間の体を操ることが出来るらしい。
今龍助の足も化身の力で止められているようだが、京の場合は力を消耗した瞬間でないと止めることが出来なかったらしい。ちなみに叶夜と颯斗にも力の差で効かないようだ。
「まだ力者として未熟なお前を狙ったわけさ」
図星をつかれてしまったからか、龍助は落胆してしまう。
そして化身が徐々に龍助の方へ近づき目の前にまで到着した。
「哀れだよな。まだ力を使いこなせないなんて」
「うるさい!」
化身の言葉に反論した龍助だが、次の瞬間、首を絞められながら持ち上げられる。
息が全く出来ず、ただ苦しい感覚が龍助を襲った。
「ちょっと! 龍助を離しなさい!」
「おいおい、今攻撃したらこいつに当たるぞ」
叶夜達が助けようとしたが、化身に龍助を見せられ、何もすることが出来なかった。
「最後に言い残すことは?」
首を絞めながら化身が皮肉に言ってきた。言葉を発することも出来ないというのに。
意識が朦朧し、もう本当に終わりだと思った龍助だが、次の瞬間。
龍助の体全体からとてつもなく強い力が溢れだしてきた。
危険を察知したのか化身が龍助の首を離し、すぐに後退した。
「貴様……。その力は」
「な、なんだこれ?」
龍助自身の意志関係なく力が発動しているため、また暴走かと思ったが、この間のような痛みが全くない。
それどころか、いつもよりもくつくつと力が湧いてくる感じで、今なら力も使いこなせると思うほどだった。
「全く人間というのは気持ち悪いくせして、良いものだけは持ってるんだな」
化身が嘲笑いながら言葉を吐き捨てる。その言葉は龍助には聞き捨てならなかった。
「人間の何が気持ち悪いんだよ」
「全てだが、特に人と人が愛し合う所とかだな。家族愛、恋愛、兄弟愛、挙句には同性を愛する者もいるじゃないか」
つらつらと並べられる理由に龍助は吐き気がした。
「他者を愛して助け合うなんて、人間共は本当に気持ち悪く救いようがない」
「黙れ」
「……ッ!!」
化身がこれでもかと人間のことを酷く言ってきたので、この時点で龍助の堪忍袋の緒が切れてしまった。
切れたのと同時に、いつの間にか化身の目の前にまで瞬間移動していた龍助は握っていた警棒を思いっきり振り、化身の顎に攻撃した。
「ッが!?」
痛々しい音を出しながら、化身が後方へ飛ばされてしまう。
先にあった壁にのめり込んでしまうほどの威力だった。
「人の愛し合う心を馬鹿にするな。なんの罪もないことを否定するお前の方が気持ち悪いわ」
まるで別人のように言葉を発してくる龍助。それほど化身の言葉は心を害するものだったようだ。
化身は痛みに耐えながら龍助を睨み、すぐさま攻撃である真っ黒い光線を放ってきたが、龍助は避けるわけでもなくただ拳を地面に叩きつけた。
すると、その衝撃で生じた風が光線を消してしまった。
「な、なんだ今のは?!」
(不思議だ……。ずっと前からこの力を知っているような……)
吠えている化身を無視しながら龍助はそんなことを考えていた。
そして、化身に向けて手をかざすと、そこから黄金に光輝く球体が現れ、それをそのまま放った。
球体は一瞬で化身に飛んでいき、触れたのと同時に大爆発を起こした。その衝撃で大きな地響きも起こったぐらいだ。
「ぐああ!」
龍助の攻撃をまともに受けたからか、化身は戦闘不能になってしまった。
その一部始終を見ていた叶夜と颯斗は呆気に取られていた。
「龍助……。今の力は何なの……?」
叶夜がおそるおそる聞いてきたが、龍助にも全く分からない。
「星の力だよ」
「京さん! 大丈夫なの?」
「ああ、すまない。油断した俺に責がある」
答えに困っていた龍助の代わりに背後から京が答えてくれた。どうやら、化身を戦闘不能にしたことで京を抑えていた力が無くなったようだ。
「今、星の力って言いました?」
「それよりもこっちが優先だ。龍助、もうひと踏ん張りしてくれ」
京がそう言いながら儀式の方へと指した。
龍助は了承したが、先程の力を使ったせいか、かなり消耗していた。
倒れそうな所を踏ん張って発動式の中心へと歩いていく。
目的地に到着した龍助は握っていた警棒を振り上げ、鮮血の魔眼で見えている発動式の弱点に向かって思いっきり叩きつけた。
叩きつけた場所を中心に発動式にヒビが広がっていく。端まで届いたヒビはやがて音を出しながら割れて消えていってしまった。
発動式が消えたのと同時に、儀式を行っていた人々が次々と倒れていく。
これで、最終任務も完了した。
安心したのか龍助の意識が遠のき、体から力が抜けていってそのまま倒れてしまった。




