二十九話 化身との戦闘
任務完了のために動いていた龍助達だが、TBBの幹部は倒せたものの、今度は化身という人ならざる者が姿を現した。
「龍助、離れるんだ!」
京にそう言われた龍助は即座に京達の所へと戻っていった。
「化身ってなんなんですか?」
「謎が多い存在だが、わかっているのは万物の感情が形になったものだ」
龍助の質問は京でも答えるのが難しいと言うほどだ。それだけ化身という存在は謎に包まれているらしい。
ただ、化身は人ならざる者達、簡単に言えば神様や、妖怪などの正体だとも言われているらしい。
あくまで、力者達の予測だが、万物の感情などが力を持ち、肉体を持った存在が化身だと言う。
「訳が分からない……」
「そりゃそうよね……」
龍助の感想に叶夜が同調した。
京にも分からないことが今の自分たちに分かるわけがないので、龍助は考えるのを辞めた。
「まあ、化身は人を襲うから退治しないとだね」
京が柔らかい口調で恐ろしいことを言ったが、人を襲うのであれば退治しなくてはいけないのもまた事実だった。
退治という言葉が出てきたにも関わらず、化身は慌てた様子を見せなかった。
「あ……あ……」
「え……? なんて?」
化身が龍助達の方へ向きながら声を発していたが、何を言っているのかさっぱり分からない。
「まだ肉体を手に入れたばかりで慣れていないんだな」
京の予測は的を射ていたようで、体の動きもぎこちない。
「倒すなら今だ!」
京がそう言いながら手をかざした。するとその手に真っ黒い物体が集まっていき、一つの大きな球体へと変身した。それを見ただけで先程の天誅とは違うものだと龍助にも分かった。
一定量集まったのと同時に、京が黒い球体を放つ。
球体は地面を抉り、着実に化身へと近づいていく。しかし化身は全く動かず、その場に突っ立っているだけだった。
球体がとうとう化身に到達し、そのまま儀式を通り過ぎて、通るところ全てを抉りながら奥の方へと消えていった。
(倒した……?)
球体によって生じた砂埃から目を守っていた龍助が見てみると、そこに化身の姿はなく、抉られた道だけが残っていた。
儀式をしているもの達にも影響はなく、恐らく京が能力で守ったのだろう。
「さ、流石京さん……。あっさりと消しちゃうなんて。……京さん?」
素直な感想を口にした龍助だが、京からの返答がない。
心配した龍助が京の方を見ると、なぜか彼が跪いている。
「京さん?! どうし……」
「来るな!」
龍助が近づくのを声で止めた京。彼は動きを微動だにさせておらず、一見何も無いように見えるが、なぜか不気味な感覚は感じ取れた。
「来ちゃダメだ。俺の体を硬直させやがった」
「え? どういうこと?」
「化身の力よ!」
突然の出来事で頭が回らない龍助だが、すぐ側にいた叶夜が教えてくれた。
どうやら京が先程の攻撃をした後、一瞬力を消耗した所を狙って何かしらの力で彼の身体全体を拘束したのだと言う。
「で、でも化身は倒したはずじゃ……」
「おめでたいやつだな」
龍助の背後の方で野太い男の声が語りかけてきた。
慌てて振り返ると、そこにはあの化身が立っていた。
先程まで話すら出来なかった化身がこの短時間で肉体に馴染んでいた。腕を何度も振ったり、手をグーパーして確認していた。
「この短時間で京さんの動きを封じるなんて……」
しかし、京なら無名の魔眼で力を無しに出来るのではないかと龍助は考えたが、どうやらそれすら出来ないらしい。
「多分だけど、京さんが力を使った瞬間にあの人の力を吸い取って魔眼を使いにくくしてるのかも」
叶夜の説明は難しかったが、能力で理解した龍助。
つまりは、先述の通り京が強い魔法を使い、一瞬消耗した隙を狙って彼の残りの力を気づかれないように吸い取っていたようだ。
結果、力を十分に発揮出来ず、魔眼も発動できないようだ。
「ほう。そこの小娘、よく分かっているな」
化身に話しかけられた叶夜が構えた。それは龍助も颯斗も同じだった。
「お前は下がってろ」
「いや、俺も戦う」
「は?!」
「落ち着いて。この状況なら仕方ないわ。私たちでサポートしましょ」
颯斗の指示を断った龍助に苛立ちを隠せていなかった颯斗に叶夜が宥めた。
三人はいつでも戦えるように化身を睨みつけながら構えた。
「ほう。ガキが俺を止めるなんて、片原痛いわ」
化身が嘲笑いながらおぞましい力を体から漂わせていた。
双方の間には緊迫感だけが走っていた。
最初に緊迫感を破って動き出したのは颯斗だった。
魔弾をすかさず化身に向けて何発か撃ったが、化身は先程のことが嘘のように素早く動いてかわした。
「これでもくらいなさい!」
化身が着地した瞬間を狙って今度は叶夜が仕掛ける。
化身の足下から木の根のようなものが生えてきて、化身を囲んで動きを封じようとした。
しかし、こちらに関しては力を強くした化身に蹴り飛ばされて消されてしまった。
「今だ!」
その隙を狙って今度は龍助が接近して警棒を化身に叩きつけたが、こちらも両腕で受け止められてしまった。
すぐに龍助は後退して距離を取った。
「なかなか良い動きだな」
化身から嬉しくもない褒め言葉をもらった龍助は敵を睨んだことで、再び緊迫感がその場を支配する。
この短時間で化身が本当に体を使いこなしているのが嫌でも分かった。
この戦いはかなり長くなりそうだと龍助は密かに感じていた。




