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「おはよ~」
「あっ……、おはよう、しおちゃん」
いつもの電車の中、いつも通りともちゃんと落ち合ったのだが、どうしたんだろう? なんかともちゃんに元気がないように見える。
「……、大丈夫? ともちゃん? なんか元気なさそうだけど……」
「あっ……、えっと……、ごめんね」
「へ?」
いや、何を急に謝っているんだろうこの子は?
「あ、いや、えっと、昨日のメールのことだけれども……。途中で返信来なくなっちゃったから。なんか怒らせちゃったのかと思って……」
「ん? ……、ああっ!」
そう言えば、昨日中途半端なところでメールの話を切ってしまっていたんだっけ。なんか、そのあとのことがバタバタし過ぎていて、すっかり忘れていた。
「こっちこそ、ごめんっ! すっかり返信忘れてたよ。でも、ホントもう見つかったから大丈夫だよっ!」
「えっ……、そうなの? なら、よかったんだけれども。えっと……、ちなみに忘れ物ってなんだったの?」
「え、ああっ! これ、これっ! 携帯。朝見ようと思ったら何処にも見つからなくってさ。いやぁ、焦ったわ~」
「あ、そうだったんだ。ごめんね。なんかゆー君が違うこと言ってて、それで……。ほんと、ごめんね」
なるほど。そういえばあいつ、私がアルバムを燃やそうとしているとかって言ってたっけ。全く、私があんな大切なものを焼却処分なんかする訳ないじゃないか。
「いや、そんなの全然いいし」
但し、ゆうは後日処刑である。
「でも、よかったね。携帯ちゃんと見つかって。どこにあったの?」
「うん。あの喫茶店に置いて行っちゃってたみたいで、そしたらあのマスターがさぁ……」
とりとめもなく、昨日の出来事を話す。ケーキを三つも食べてしまったこととか、昨日通った道で事故があったとか、今の園長先生にあったとか、園長先生の家の庭にはお化けがいるとか……。
しかし、気持ちに余裕があるっていうのは、本当に素晴らしい。
携帯もちゃんと見つかったし、今日はお弁当の持参にもぬかりはない。
あぁっ、たったこれだけのことなのに、何て幸せなんだろう。
「……、あっ、そういえば金曜の英語の宿題だけど」
「ん?」
「え……、英語の宿題のことだけれども」
「はい?」
なんの話だ? 宿題?
「えっ? うそっ! そんなの聴いてないっ!」
「えっ? ほら、金曜日の4限の終わりで、先生言ってたじゃない?」
先生が言っていた、そんな記憶は……。
あっ、そういえば金曜の授業は空腹で、ほとんど寝てたんだっけ。
「えっ! 知らないよ、そんなのぉっ! 冗談じゃないしっ! ていうか、どうしよぉ! ともちゃんっ! あぁあああああああっ!」
「あ……、えっと……、ここ電車の中……。落ち着いてしおちゃん。あとで私の教科書見せてあげるから……。ねっ、誰だって《そそっかしい》ミスはやっちゃうものなんだから……」
「んっ?」
そそっかしい? なんかどこかで聞いたような。
「どうしたの? しおちゃん?」
「あぁっ!」
ふいに過る記憶。いや、授業の記憶なんてもちろんない。
でも、確かに、そういえば……。
ふいに思い出されるセリフ。
土曜日、本屋で掛けられた無駄に爽やかなあの声。
「……。もしかして英語の教科書忘れたとか? 宿題のやつ。あいかわらずそそっかしいな~」
頭の中でリフレインがかかり出す。確かに聞いていた。聞いてはいたけど。
やっぱり、人の記憶なんて当てにはならないのかもしれない。
ここまでお読みくださった方、本当にありがとうございました。
一応これで完結ですが、またその後の話も書けたら載せたいと思います。
感想、ご意見、アドバイスなど頂けると嬉しいです。
今後の参考にしたいので、ぜひよろしくお願いいたします。




