緊張
その青年は、大人しそうで賢そうで、それでいて、何かふてぶてしいような少し神経質そうな顔をしていた。でも、優しそうだった。声がお父さんに似ていた。
「芽生子です。」
お兄ちゃんは、あっという顔をした。その顔は、全く自分に似ていなかった。とてもかっこよくて、こんな人がお兄ちゃんだとは、信じられなかった。
「芽生子ちゃん。」
お兄ちゃんは、静かに言って頷いた。私は、こんなにじっくり自分の名前を知らない人に呼ばれたのは、初めてだった。お父さんが若い頃、とても、もてていたって、お母さんが昔、話していたような気がするけど、お兄ちゃんも、そういう人なんじゃないか、と、こんな場面にふさわしくないことを思った。
芽生子は、照れてとても大人しくなってしまった。お兄ちゃんは、
「お父さんから聞いていたけど、こんなにお姉さんだとは思わなかった。」
と言った。芽生子が、うん?という顔をすると、
「お父さんは、芽生子ちゃんのことを、まだ本当に小さい子みたいに話すから。」
と言って笑った。
父の病室に着くと、父は、起きていて、
「一緒だったの?」
と言った。
「下で会ったんだ。」
とお兄ちゃんが答えた。
「よく分かったね。」
とお父さんが言うと、
「中学校の制服を着てたし、お父さんに何となく似てたからね。」
とまた笑った。お父さんは、芽生子も笑っているか、確認するように顔をチラッと見た。しかし、芽生子は、緊張した顔をしていて、何かを考え込んでいるように見えた




