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『不条理な世界をデバッグする方法』 ~元・敏腕プロジェクトマネージャー、死神の鎌で腐敗した社会システムを根絶する~  作者: チョコ大福


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第2話:構造的欠陥と最初の解体

皆様、こんにちは。『不条理な世界をデバッグする方法』第2話をお届けします。

前話で『深淵の主』と契約した執行人・アルトは、辺境の鉱山都市の地下牢で高貴なエルフの少女・フィリアと運命的な出会いを果たしました。

第2話では、フィリアとの知的な情報共有と、この都市を支配する理不尽な魔導インフラの「構造的欠陥」がいよいよ明るみに出ます。感情に流されず、冷静な頭脳戦で歪んだシステムを切り崩していくアルトの戦いぶりを、ぜひじっくりとお楽しみください!

冷たく湿った地下牢の石壁に、重く響く水滴の音が落ちていた。

幾重もの呪縛の魔導枷が外され、地面へと崩れ落ちかけた細身の体を、アルトは雑にではなく、しかし無駄のない動きで支え上げて立たせた。

「……離せ。人間の温もりなど、気色悪いだけだ」

フィリアは荒い息を吐き出しながら、エメラルドの瞳に鋭い警戒の色を宿したままアルトを押し返そうとした。その長く尖った耳が微かに震え、彼女が極限の緊張状態にあることを物語っている。人間に対する拭い難い不信感と嫌悪感が、彼女の全身のトゲとなって逆立っていた。

だが、アルトは彼女の拒絶を気に留める様子もなく、ただ淡々と身嗜みを整え直す。その漆黒のロングコートの裾には、一滴の泥すらついていなかった。

「警戒するのは勝手だが、もう少し状況証拠を整理したほうがいい。君をその首輪と呪縛枷で縛り付け、知性のリソースを一方的に吸い上げていたのは、他でもないこの都市の支配者層――あの教会の最高神官どもと領主の結託した組織だ。俺を敵に回すより、目の前にある構造的欠陥をどうにかするほうが生産的だとは思わないか?」

「……勝手なことを。お前のような人間が、私たちの技術や魔導の機密を狙っていないとでも言うのか? 人間の社会システムなど、弱者から搾取するための欺瞞に満ちた泥の巣窟に過ぎない」

フィリアの声音には、長年虐げられてきた者だけが持つ深い絶望と、それを知性で武装して耐え抜いてきた誇りが入り交じっていた。

アルトはその言葉を遮ることなく、むしろ静かにうなずいた。

「同感だな。見事なまでの悪徳構造だ。下層の人間や亜人から過酷な労働力と魔力を吸い上げ、上層の連中が私腹を肥やす。しかもそれを『神の試練』という免罪符で正当化している。組織のガバナンスとしては最低最悪の、見事なまでの欠陥システムと言っていい」

「……ガバナンス? システム? お前は、一体何を言っているんだ。言葉の端々に、聞いたこともない異質な概念が混じっている」

フィリアの美貌に、わずかな戸惑いの色が浮かんだ。彼女が知る人間たちは、暴力を振るうか、あるいは欲に目が眩んで下劣な言葉を吐く者ばかりだった。しかし、目の前の男の瞳には、怒りや欲望の色ではなく、まるで難解な図面を前にして寸分の狂いもない修正点を探しているかのような、底知れない冷徹さと知性が宿っていた。

「言葉の意味などどうでもいい。重要なのは、この都市のインフラがどうやって成り立っているかだ」

アルトは地下牢の奥にある鉄格子の隙間から、都市の中心部に向かって伸びる太い魔導配管の群れを見据えた。

「フィリア。君はこの街の魔導結界や、教会の地下炉心に関する設計図や魔導回路の構造を把握しているはずだ。奴らがこの街を完全に掌握し、誰も逆らえないようにしている『ボトルネック』はどこだ?」

その問いかけに、フィリアはハッと息を呑んだ。

彼女は元々、優れた魔導師の家系であり、都市の魔導インフラの構築やメンテナンスの知識を無理やり奪われて奴隷に落とされた過去を持つ。だからこそ、この街のシステムがどれほど強固な魔法陣と欺瞞で覆われているかを誰よりも知っていた。

「……まさか、本気なのか? あの教会の地下炉心は、最高神官ドルドが直接管理する多重の『絶対防壁結界』で守られている。それに、周囲の衛兵や、連中が飼い慣らしている狂信的な特務部隊が持つ固有スキルは、生半可な攻撃をすべて無効化する。正面から挑めば、一瞬で蜂の巣にされるだけだ」

「正面から殴り合うつもりなど、最初からない」

アルトは冷ややかに、だが確信に満ちた笑みを浮かべた。

「どんなに堅牢に見える城壁であっても、いや、複雑怪奇に組み上げられた組織であればあるほど、維持するための『単一の急所』が存在する。全体のバランスを保つためのコアがダウンすれば、周囲のどれほど強力な防衛結界や固有スキルであっても、一瞬で同期エラーを起こして自壊するのさ」

アルトの脳裏には、現代日本で数々の炎上プロジェクトを立て直してきた記憶が生々しく蘇っていた。不条理な納期、理不尽な上層部の無茶振り、形骸化したルール。それらをすべて論理的に分解し、どこを叩けばシステム全体のバランスが崩れるかを冷徹に割り出す作業は、彼にとって呼吸をするのと同じほど自然なことだった。

「……私の知見を、お前のその異質なやり方に貸せと?」

フィリアは恐るべきものを見るような目でアルトを見つめながら、しかし、その胸の奥で燻っていた復讐心と、理不尽な世界に対する憤怒の炎が微かに疼くのを抑えられなかった。目の前の男の放つ圧倒的な存在感と、すべてを計算し尽くしたような不敵な佇まいは、絶望の淵にあった彼女にとって、暗闇を切り裂く唯一の光に見え始めていた。

「貸してほしいとは言っていない。ただ、君もこの歪んだシステムに引導を渡したいのなら、知恵を共有しろと言っているだけだ。――取引しよう、フィリア」

アルトが手を差し伸べる。その背後で、空間の影がうねるように黒く歪み、死神の鎌の気配が微かに漏れ出した。

「君の知性と、俺の持つ『死神の権能』があれば、この街の腐敗した構造を根底から粉砕できる。……さあ、どうする?」

フィリアはしばらくその差し出された手を見つめていたが、やがて自らの両手で固く握り締められていた鎖の残骸を払い除け、冷徹かつ誇り高い笑みを浮かべてその手を取った。

「いいだろう、人間の男……いや、執行人アルト。私の知性のすべてを使って、あの忌々しい教会のシステムを、完膚なきまでに丸裸にして見せよう」

エルフの参謀が完全に仲間に加わった瞬間だった。

地下牢の冷たい空気が、わずかに熱を帯びる。

「上出来だ。では、最初のステップに移る」

アルトは冷ややかな眼差しを地上へと向けた。

教会の裏手では、夜陰に乗じて不穏な足音が近づいてきている。最高神官ドルドの手引きによって差し向けられた、最初の「理不尽な固有スキル」を持つ追っ手たちが、すでに彼らの足音を捉えていた。

「――来るぞ。奴らの固有スキルの『穴』を、ここからどうやってこじ開けるか。フィリア、データを出せ」

「任せなさい。あの衛兵たちの魔導回路の癖は、私がすべて解析して見せるわ」

歪んだ世界の歯車を狂わせるための、最初の本格的な頭脳戦と反撃の狼煙が、今まさに静かに、そして確実に上がろうとしていた。

第2話、いかがでしたでしょうか?

アルトの圧倒的なPM的思考と、エルフの参謀フィリアの知性がガッチリと噛み合い、物語が本格的な戦略フェーズへと突入しました。

次回はいよいよ、教会の追っ手が放つ最初の「厄介な固有スキル」との頭脳戦、そして死神の鎌による鮮烈な最初の「かすり(スキル強制切断)」が描かれます。どんどん熱くなっていく『不条理な世界をデバッグする方法』、次回の第3話もどうぞお楽しみに!

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