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『不条理な世界をデバッグする方法』 ~元・敏腕プロジェクトマネージャー、死神の鎌で腐敗した社会システムを根絶する~  作者: チョコ大福


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第3話:疾風の猫獣人と交錯する刃

登場人物

ルナ:淡い青色の猫耳と優雅な尻尾を持つ猫獣人の少女。卓越した聴覚と圧倒的な機動力を誇るが、人間の貴族や教会から使い捨てのコマとして狙われている。

前書き

皆様、こんにちは。『不条理な世界をデバッグする方法』第3話をお届けします。

前話でエルフの参謀・フィリアが仲間となり、教会の裏側に巣食う歪んだインフラのボトルネックを突き止めたアルト。しかし、組織の側も静観してはいませんでした。

第3話では、いよいよ敵が放つ「厄介な固有スキル」との初実戦、そして物語をさらに加速させる猫獣人の少女・ルナとの運命的な出会いと合流が描かれます。三人のピースが揃う瞬間を、ぜひご堪能ください!

鉱山都市ロズウェルの夜陰は、不気味なほどに重く、そして冷たかった。

中央教会の地下炉心から繋がる魔導配管の隙間を縫うように、アルトとフィリアの二人は身を潜めながら移動していた。街を覆う防衛結界の同期を乱すための布石はすでに打ち終えている。だが、組織の心臓部をかすめ取ろうとする者たちを、教会の最高神官ドルドがそのまま見逃すはずもなかった。

「――来るわ。アルト、上空と背後の魔導波長に微弱な乱れがある。通常の衛兵じゃない。教会の直属である『異端粛清局』の特務部隊ね」

漆黒のロングコートの裾を引くように歩みを止めたアルトの隣で、フィリアが銀髪を揺らしながら低く、かつ鋭い声音で告げた。その澄んだエメラルドの瞳が、暗がりの先に広がる空間の歪みを正確に捉えている。

アルトは眉一つ動かさず、ただ冷静に周囲の状況を脳内でリビルドしていった。

(想定通りのレスポンスタイムだな。こちらが構造改革の第一手を打ったと分かれば、当然リソースを割いて排除にかかってくる。……さて、向こうが用意してきた最初の『理不尽な壁』のスペックはどれほどのものか)

アルトの胸中に去来するのは恐怖ではなく、仕様変更に対する不敵な予測だけだった。

その時、頭上の石壁や路地裏の屋根伝いに、微かな足音すら立てない不気味な気配が迫ってきた。

「――見つけたぞ。神の教えに背き、聖域の機密を荒らす鼠どもが」

冷徹な響きを伴った声が、夜の静寂を切り裂いた。

暗がりの石畳に降り立ったのは、全身を純白と黄金の聖衣で固めた教会の特務衛兵隊長だった。その手には異形のマナを宿した剣が握られているが、それ以上に警戒すべきは、彼の周囲に漂う奇妙な空間の歪みだった。

「我が固有スキル――『光学迷彩結界(ミラージュ・ヴェール)』と『重力圧壊陣』の合わせ技の前に、貴様らの足掻きなど無意味と知れ。光の届かぬ死角から、その愚かな首を刈り取ってくれる!」

隊長が腕を振るった瞬間、彼の姿が周囲の風景と完全に同化し、まるで透明な陽炎のように視界からかき消えた。それだけではない。突如としてアルトたちの足元の重力が何倍にも跳ね上がり、大地に杭が打ち付けられたかのように身体が重く沈み込む。

不可視の存在からの奇襲、そして自由を奪う重力の檻。一見すれば、初見殺しの極みとも言える見事なまでの理不尽なコンビネーションスキルだった。

「っ……! 姿が見えない上に、この重力陣では身体の平衡を保つだけで魔導リソースが削られるわ!」

フィリアが唇を噛み締め、杖を構えようとするが、急激な重力の負荷に膝が折れそうになる。

だが、アルトはその圧倒的な不利の状況下にあっても、表情一つ変えずに冷ややかに鼻を鳴らした。

「姿が消えているわけじゃない。光の屈折率を操作し、特定の波長だけを周囲の壁に反射させているだけの初歩的な光学迷彩だ。そして重力陣の発生源は、あいつが右手に持っている増幅器の魔導回路にある……。構造さえ分かれば、攻略など容易いことだ」

アルトの脳裏で、敵のスキルのボトルネックが瞬時に特定される。

しかし、不可視状態からの斬撃が、すでに背後の暗がりから音もなくアルトの首筋へと迫っていた。

「死ねッ!」

「――甘いな」

その瞬間、アルトの足元の影がドロリと歪んだ。

機動スキル『黒影の瞬歩(シャドウ・ステップ)』。

空間の隙間を縫うように、アルトの身体が一瞬で消え去る。隊長の放った見えない刃は、空を切ってただの石畳を深く抉り飛ばすのみに終わった。

「なっ……消えただと!? どこだ!」

「真後ろだ」

冷徹な声が、背筋を凍らせるように隊長の耳元で囁かれた。

振り返ろうとした瞬間、隊長の背後で空間が大きく裂け、漆黒の巨大な鎌――『断罪の死神鎌鎌(グリム・エグゼキューター)』の刃が、夜闇を切り裂くように鋭く閃いた。

しかし、隊長もただの雑兵ではない。土壇場で身を翻し、持っていた魔導盾を無理やり展開して死神の鎌の軌跡を防ぎにかかった。

ガキィィン! と、空間を揺るがすような金属的な衝突音が路地裏に轟く。

「ふはは! 我が防壁結界は、生半可な攻撃では傷一つつか……っ!?」

勝ち誇ったような隊長の笑みは、次の瞬間、絶望の色へと塗り替えられた。

死神の鎌の刃先がかすかに帯びていた青白い光が、隊長の展開した不可視の結界および魔導盾に接触した瞬間――、まるで熱したナイフがバターを切り裂くように、あらゆる防御魔法と固有スキルの同期がパキパキと音を立てて崩壊していったのだ。

「ば、馬鹿な……!? 私の固有スキルが……魔力が、強制的に遮断されるだと……!?」

「言ったはずだ。この世界の歪んだシステムに、例外など存在しないとね」

アルトが不敵に口角を釣り上げたその時、教会の特務部隊のさらなる増援が、路地裏の四方から一斉に押し寄せてきた。

包囲網はさらに狭まり、絶体絶命の窮地へと追い込まれるかに見えた。

「――っく、人間のにおいって、いつ嗅いでもムカつくんだよ……!」

その緊迫した空気を切り裂くように、高い屋根の上から鋭い少女の声が降ってきた。

ガシャアアア! と、古い瓦が激しく崩れ落ちる音と共に、一筋の疾風が闇夜を駆け抜ける。

淡い青色の猫耳をピンと立て、優雅な尻尾を大きく揺らした一人の少女――ルナが、敵の包囲網の真ん中へと華麗に着地した。彼女の手には即席で作られた細身のナイフが握られており、その野生の勘と圧倒的な身のこなしは、教会の衛兵たちが持つ追跡結界の隙間を完璧にすり抜けていた。

「なんだ、あの亜人のガキは……! 捕らえろ!」

衛兵たちが一斉にルナへと矛先を向けた瞬間、ルナの青い耳がピクリと大きく動いた。

「遅いんだよ、トロい人間ども! あたしの敏感な耳を舐めんな!」

ルナは地面を蹴り飛ばし、驚異的な反射神経で衛兵たちの死角へと瞬時に潜り込む。そのスピードは、アルトの『黒影の瞬歩』の軌跡にすら綺麗に追従できるほどの、文字通りの疾風怒涛の機動力だった。

彼女は教会の衛兵たちが放つ牽制の魔導弾を軽やかに跳び越え、逆に敵の足の裏や武器の接続部を的確に蹴り崩していく。

「フィリア、援護だ。あの猫獣人の機動力と、君の魔導解析を噛み合わせれば、この包囲網の『出口』が一発で開く」

アルトの指示に、フィリアは迷うことなく杖を地面に突き立てた。

「言われなくても分かってるわ! ……そこの猫の獣人さん、そこの右側の衛兵の足元、魔導回路の結び目が緩んでいるわよ! そこを狙いなさい!」

フィリアの研ぎ澄まされた解析が、敵の陣形のわずかな隙(ボトルネック)を割り出し、ルナの耳へと直接届く。

ルナはその声を反射的に拾い上げ、一瞬でターゲットの足元へと滑り込んだ。

「了解! ……そこだぁっ!」

少女の軽やかな蹴撃が、教会の特務部隊の陣形を支えていた魔導基盤の核心を正確に打ち抜いた。

ドゴォォン! と小さな爆発が起き、特務部隊の維持していた多重結界が完全に同期エラーを起こして総崩れとなる。

「なっ……部隊の同期が崩れただと!? 一斉に撤退しろ……!」

隊長が青ざめながら叫ぶが、すでに手遅れだった。

アルトの漆黒のロングコートが翻り、再び空間の影から死神の鎌の圧倒的な気配が敵の退路を完全に塞ぐ。

「撤退の選択肢はない。君たちの悪徳システムは、ここで一度リセットさせてもらう」

アルトの一閃が、逃げ惑う衛兵たちの背後に広がる魔導の網を根底から断ち切った。

光が収まり、路地裏に静寂が戻ったとき、教会の追っ手たちは全員、戦闘不能となって石畳に倒れ伏していた。

静まり返った闇の中で、息を弾ませた猫獣人の少女――ルナが、警戒心をあらわにしながらも鋭い眼差しでアルトとフィリアを見上げた。

「……なんだよ、アンタたち。人間にしては、なんか変な匂いがする……でも、あのクソったれな教会の野郎どもを一網打尽にするなんて、悪くないじゃん」

ルナはピンと立った青い耳をピクピクと動かし、少し照れくさそうに鼻を擦った。

フィリアは優雅に息を整えながら、ふっと冷ややかな笑みを和らげた。

「お陰で助かったわ、野良猫のスピードスターさん。……私はフィリア。こっちはアルトよ」

アルトは死神の鎌を影へとしまい込み、静かにルナを見据えた。

「元PMのアルトだ。……君のその機動力、この歪んだ都市の構造をデバッグするにはなかなかの好リソースだな。どうだ、俺たちと一緒に一暴れしないか?」

ルナはしばらくきょとんとした顔をしていたが、やがて悪戯っぽい、しかしどこか嬉しそうな笑みを浮かべて大きく頷いた。

「上等じゃん! あたしをこき使ったあの教会の連中に、たっぷりと利息をつけて返してやらないと気が済まないからさ!」

こうして、冷徹な頭脳を持つ主人公アルト、知性派のエルフの参謀フィリア、そして圧倒的機動力を持つ猫獣人のエージェントルナ――。

最強の三人パーティが、ここに完全に揃ったのだった。

第3話、いかがでしたでしょうか?

ついに猫獣人の少女・ルナが参戦し、アルト、フィリア、ルナの3人パーティが勢揃いしました!

敵の厄介な固有スキル(光学迷彩や重力陣)をアルトの冷静な分析とフィリアの解析、そしてルナの機動力で攻略していくコンビネーションバトルは、本作の大きな見どころの一つです。

次回の第4話では、いよいよこのチーム体制で、辺境の都市を牛耳る悪徳領主と最高神官ドルドの本丸へ向けた本格的な反撃作戦が始動します。どうぞお楽しみに!

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