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天空記  作者: 緒俐
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第七十四話:ホテルへ行こう

 セディは朝からハワード財団の科学研究所を訪れていた。

 そこには数々の機械や薬品、そして何やらわけのわからないものまでが置かれており、まさに未来に何か形どられるものの集合体とでも表現するしかないほど乱雑としていた。


 そんな研究所の一室に、まだ年若い金髪眼鏡の青年は自分の作品の出来栄えに満足していたところにセディは扉を開けて入って来た。


「Hello、ドクターダニエル」

「ミス・セディ、ようこそいらっしゃいました。ハワード財団の方はよろしいので?」

「ええ、日本には全く影響なくってよ。それに今回の作戦にもね」


 優美な笑みを浮かべて挨拶をかわす。そして彼女は人の形を象った銀色の柔らかそうな物体に目をやる。それが今回の彼女の注文の品だった。


「出来栄えはいかが?」

「完璧ですよ。やって見せましょうか?」


 コンピューター操作をしてその銀色の物体に信号を送ると、それは見る見るうちに柳へと変化する。

 それにニッと微笑を浮かべて肌や髪を触れば、それはまさに柳とうり二つの存在だった。


「まあ素敵。声の方も?」

「はい、篠塚柳に関するデーターは組み込ませていただきました。もちろん天宮秀にも」


 再度刺激を送れば今度は秀に変わる。体格も身長も全て本人と同じになった。それを見てうっとりしながらセディはその頬に触れた。


「……本当綺麗な顔ね」

「ですが、残念ながらあの超人的な強さまでを取り入れることは不可能でした。しかし、それでも常人の倍の力を期待して下さっても構いませんよ」

「そう、では早速使わせてもらうわ」

「すぐにですか?」

「ええ、天宮秀は私に会いたがってるのですもの」


 クスクスとセディは笑うのだった。



「着いたあ!」

「翔、さっさと荷物下ろせ」

「はいよ」


 トランクから荷物を下ろして家の中に運びこんでいく。紗枝に運転をかわれと言われた啓吾は、疲れたとタバコに火を付けて一服だ。妹達から少しは働けと言われても全くお構いなしである。


 そんな中沙南の着メロが鳴りだし鞄の中から取り出せば、それはあまり話したくない人物からの電話だった。しかし、無視するわけにもいかず出ることにした。


「もしもし、何の用?」

『沙南、親に向かって何だその口のきき方は!』

「お母さんにはちゃんとした口のきき方してるわよ。またくだらない用件ならすぐに切るわよ!」

『切るんじゃない! それより今すぐ龍に代われ!』

「龍さんに? なんで?」

『龍に用事があるからだ! これは病院の命運を握る大事な話だ! すぐに代わりなさい!』


 「一体何なのよ!」と思いながらも龍に携帯を申し訳なさそうに差し出す。


「龍さん、お父さんから」

「おじさんから?」

「なんか病院の命運を握るとか言ってるんだけど……」


 医者三人組はまた何だと思いながらも、とりあえず龍は携帯を受け取る。


「もしもし、お電話代わりました」

『龍! お前は何故私の電話を拒否してるんだ!』

「すみません、休日ですから」


 さも当然と言うようにあっさり龍は答えた。しかし、病院からはちゃんと繋がるようにしているはずなので、誠一郎も今日は休みなんだろう。


「それより病院の命運を握る話とは何なんです?」

『龍、お前病院の株は半数所持してるな?』


 龍は眉をしかめた。今回はいつも以上に厄介そうだなと彼の直感が告げる。


「……していますがそれが何か」

『……今朝ハワードの株が大暴落した件も聞いているか?』

「ええ、存じてますが一体なんだというのです?」

『すまない龍、聖蘭病院の株を取り返してくれ!』

「えっ!? どういうことなんです!?」

『私が浅はかだった! ハワードの寄付金につられ、病院の株を半数渡すことに寄ってこの病院はさらに大きく発展すると約束されていたが……ハワードがあのような状況では!!』


 なんでそんな馬鹿なことを……と龍は額に手をやる。一体どれだけの寄付金を積まれて誠一郎はハワードを信用したのだろうかと悪態を尽きたくなったが、沙南の手前、誠一郎を追い詰めるわけにはいかないので仕方ないと龍は答える。


「……分かりました。ハワードなんかに病院を乗っ取られるなんてまっぴらですからね。株主としてハワードの代表と会います。いくらなんでも相手の連絡ぐらい付くでしょう?」


 そこまでは馬鹿ではないだろうと言いたい。いや、言わせないでくれと心底願った。


『ああ。ミス・セディはハワード国際ホテルに滞在してると聞いている』

「ハワード国際ホテルですね、分かりました」


 通話を切った途端深い溜息をついて、龍は沙南に携帯を渡した。


「医院長なんだって?」

「ハワードに聖蘭病院の株を渡したんだってさ」

「うわっ、タイミング悪っ!」


 全くだと龍は呆れを通り越したようにがっくりと肩を落とす。しかし、株式市場を混乱させる技を持つ弟はこれ幸いという表情を浮かべて兄に尋ねた。


「兄さん、取り返してはおきますけど名義は全部兄さんにして構いませんよね?」

「いや。おばさんに連絡して管理してもらうさ。おじさんから病院にいくたびに株のこと言われたらたまったもんじゃないし、かといっておじさんに渡すつもりもない。

 なによりもとはおばさんが持つのが当たり前なんだからさ」

「分かりました。天宮家の血筋であるおばさんなら僕も文句はありません」


 どのみちいつかは沙南の名義になって龍に戻ってくるのだろうし、という考えが当然含まれての同意ではあるが。


 天宮家の唯一の分家である沙南の母親は、代々その財産を継いでいく権利があった。だが沙南の父親、折原誠一郎と結婚した際に誠一郎が病院の医院長となったために株の管理を任せたという経緯がある。


 しかし、どんな経緯や事情があったにせよ、自分の父親が龍達に迷惑をかけたのは事実だ。沙南は申し訳なさそうな表情を浮かべて謝る。


「龍さん、本当にごめんなさい、父が迷惑かけて……」

「気にしなくていいさ。それに相手のもとに乗り込む正当な理由が出来た」

「そうですね、じゃなければまた犯罪の一つや二つ起こさなければなりませんでしたし」


 そういって笑ってくれる二人の気遣いに沙南は感謝する。本当に素敵だなと思いながら。


「さて、そうと決まれば早速……何だその目は」

「兄貴だけうまいもの食う気かよ」

「ずるいよ! 一人だけ行くなんて!」

「お前達なぁ……皆で行ったら今月苦しくなるぞ?」

「でも行きたい!!」


 ただでさえ別荘から早く引き上げる羽目になったのに!と年少組から抗議の声が上がる。

 確かにもっともな言い分ではあるが、扶養家族四人抱えてる身としてはあまり貯金を崩すことはしたくないようだ。家計簿担当の沙南に助けを求めた。


「沙南ちゃん、何とか言ってやってくれ……」

「私もエスコートされたいんだけど?」

「ハッハッハ!! さっすが沙南お嬢さん!!」


 デート四回キャンセル分は五つ星ホテルの食事に値するらしい。龍はおいおいと言いたそうな顔をしてるのを見て秀が笑った。


 だがこの問題は天宮家だけのものではなかった。


「お兄ちゃん、私もホテル行きたい!」

「そうですね、五つ星の料理なんて滅多に味わえませんし」

「無茶言うな。あんなとこ行ったらうちの家計は破綻する」

「そうね、ちょっと無理かしら」


 篠塚家の家計から考えれば兄の給料だけでは厳しいとの結論である。

 だが、ふと紗枝は考えて提案した。


「だったら柳ちゃん、バイトしない?」

「……バイト、ですか?」

「ええ、それで今日のホテルの食代と正装代は菅原財閥でもつわよ?」

「そうですね……」

「お姉ちゃん、お願い!」


 夢華が目をうるうるさせて頼んでくる。正直その顔に弱い。それに珍しく紫月も「お願いします、姉さん」という表情を向けられると柳は眉毛を下げて承諾するしかなくなった。


「分かりました、お願いします」

「やったあ!!」


 夢華は跳びはねて喜んだ。本当に可愛らしい女の子とは彼女のためにある言葉だ。

 そして紗枝はさらににっこり笑って秀に尋ねる。


「天宮家は秀ちゃんやる?」


 やらないとは言えないわよねとその表情が語っている。秀は降参と両手をあげた。


「いいですよ。柳さんがやるというなら僕もやらないわけにはいかないでしょう?」

「さっすが秀兄貴!」

「ありがとう秀兄さん!」


 年少組はうまいものが食えるぞー!と大はしゃぎして、沙南はだったら龍さんのタキシード用意しなくちゃと家の中に入り込んでいった。

 しかし、啓吾は微妙な面持ちになる。


「紗枝、変なバイトじゃないだろうな?」

「当たり前でしょ? 柳ちゃんに変なことさせると思う?」


 紗枝が真顔で言うのでとりあえず信じることにした。それでも嫌な予感がするのは何故だろうと思うが……


「それじゃあ連絡入れとこう。向こうはわさわざこちらから出向くとなれば拒否はしないだろうし」

「そうですね。だけど油断も出来ませんよ兄さん」

「ああ。でも相手の出方よりうちのマナーの方が心配なのは何故だろうな……」


 苦労性の家長らしい意見だなと秀は笑った。




さあ、別荘から戻ればいきなり誠一郎医院長から何やってんだあんたは!との依頼が入るものの、さすがは天宮家年長組、余裕です(笑)


いよいよ話も天空記の内容に入り込んできそうなので、面白い話にしていけたらいいなと思います。


そして秀と柳ちゃんのバイト内容は一体何なのでしょうか。

だけど紗枝さんが啓吾兄さんにその内容を明かさないあたりで想像がつくのではないかなあと思います。

でも、秀みたいに裏のバイトではありませんよ(笑)




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