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天空記  作者: 緒俐
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第七十三話:とんでもない奴ら

 別荘に戻って着替えて一階に降りれば、沙南と紫月が朝ご飯の支度をしていてニッコリ笑って挨拶をしてくれる。

 そしてもう一人、そこには何もなかったかのようにコーヒーを飲む秀が「おはようございます」と笑顔を向けてくれる。

 それにくすくす笑いながらも柳は挨拶を交わしてソファーに寝転がっている兄を揺さぶり起こした。


「兄さん起きて! 朝ご飯よ!」

「休みなんだからもう少し寝せろ……」

「ダメ! 早く顔洗ってきなさい!」


 被っていたタオルケットを引っぺがしてやればゴロンと床に落ちて大あくびする。そして柳はニッコリ笑っていうのだ。


「おはよう」

「……おはようさん。なんかいいことでもあったのか?」


 まだ寝ぼけ顔の癖に相変わらず鋭い。それに秀はコーヒーを飲みながら微笑を浮かべ、柳は少し朱くなりながらも答えた。


「朝の外が気持ち良かったの。兄さんも出てみたら?」

「ああ……確かに気持ちいいかもな」


 そしてまた大あくびしながら啓吾は洗面所に向かっていった。


 それから柳はパタパタとリビングを片付けて沙南達が作った朝食を並べ終われば、残りのメンバーを起こしに行こうという話になる。


「じゃあ僕は末っ子組を起こしてきますから」

「んじゃ、俺は紗枝んとこにでも」

「兄さんはここにいなさい!!」


 柳と紫月に止められ啓吾はその場にちょこんと座る。啓吾に紗枝を起こしに行かせるのはどっちに転んでも危険だとの判断である。

 まあ、返り討ちにあって朝から死人が出る方だろうなと秀と沙南は思うわけだが。


「とりあえずご飯冷めちゃうから起こしに行きましょう」


 それぞれの担当が決まっているのかというほど四人は散っていく。

 だが純の部屋から夢華が出て来るのを見て啓吾が騒ぎ、翔が朝からボコボコにされて起きて来たり、龍が朱くなりながら出て来たりと全員が無事に朝食を前に出来たのは約二十分後だった。



「いただきま〜す!」


 取り合い突き合いの賑やかな朝食。朝から茶碗何杯食べるんだと天宮家のエンゲル係数の高さに篠塚家は毎度のことながら思うわけだが、それでも味に対しての賞賛は欠かさないのが三男坊である。


「この玉子焼きうまい!」

「ありがとうございます」

「紫月が作ったのか、スゲェな!」

「バイト先のマスターに教えてもらいました」


 確かにあの店の料理うまかったもんなぁと、見ていて清々しくなるほど翔は良い食べっぷりを見せてくれる。

 一方、龍は龍で花を飛ばしながら朝食にありついているわけでそれに沙南もニッコリと笑っている。


 だが、ふと毎回食べる側になっている紗枝に啓吾は尋ねてみた。


「そういや紗枝は全く料理手伝ってねぇけどダメな方か?」

「ダメじゃないわよ? ただ沙南ちゃんや紫月ちゃんの方がプロ級だから甘えさせてもらってるだけ」

「ふ〜ん、てっきりダメなのかと」

「あら、だったら食べさせてあげましょうか? お米を洗剤で洗ってみそ汁の具材をスポンジにした紗枝スペシャルでも!」

「絶対食いたくねぇ……」


 それに一同ドッと笑い声を上げる。こんな冗談を言えるということはそこそこ熟せるということなんだろう。


「だけどさ、天宮家の男どもは料理はどうなんだ?」


 いつも沙南に頼ってばかりというイメージしかないので啓吾は尋ねてみれは、翔と純は心の底から答えた。


「沙南ちゃんがいないと生きていける気がしない……」

「僕も……」


 さすがは年少組、食べるのは得意でも作るのは苦手らしい……


「龍と次男坊は?」

「僕は家庭科の調理実習レベルですけど……」


 天宮家と紗枝の哀れみな視線が龍に向く。答えは一つだ。


「龍には聞くなと……」

「オペの腕は最高なんだけどね……」


 天宮家裏の家訓である。「長男にメスは握らせても包丁は握らすな」と言われるほど龍一人に料理させると危険である。下手すれば料理を覚えたての子供よりひどいんじゃないかという定説が立っているほどだ。


「そういう啓吾はどうなんだ?」

「俺? まあ人並みだな」

「怪しいですねぇ」

「秀さん本当なんです。兄さんは私達を育ててくれてたので意外と料理はできます。ただ面倒くさがりなだけで……」

「あっ、なるほど」

「おい、最後の部分だけ納得するな次男坊」


 そしてまた笑いが起こる。それから翔は沙南におかわりと茶碗を差し出しながら龍に尋ねた。


「それで兄貴、今日はどうするわけ?」

「うちに戻る」

「ええ〜!? まだ遊びたりねぇよ!」

「僕も! 海釣りに行きたい!」


 年少組の意見はやっぱりなと龍の予測通りだったが、家長はもっともな意見で二人を宥める。


「お前達なあ、昨日あれだけ襲われてるんだ。海はさすがに危ないだろ」

「だけど家に戻んのは敵前逃亡になるみたいでやだな。ホテルも海軍基地もあるんだろ? その両方に大打撃を与えてやってから帰ってもいいんじゃないの?」

「僕もそう思う! 紗枝さんを襲った奴らを倒しにいく!」

「夢華もいく!」

「夢華、落ち着いてください」


 さすがは年少組である。やられたらやり返す者の集まりだ。

 しかし、それを制したのは紗枝だった。


「皆の気持ちは有り難いけど、残念ながら与える必要がなくなったのよね」

「なんで?」


 年少組は首を傾げた。


「ハワードからホテルの名義を菅原財閥にしちゃったし、昨日私を襲った海軍基地にも圧力がかかったから」


 ニッコリ笑って答える紗枝に啓吾は青くなった。紗枝が意図する答えは一つ。


「……紗枝、お前まさか」

「ええ、私は菅原財閥会長の孫娘だもの。それくらいは余裕よ?」

「ええ〜!!!!」

「紗枝ちゃん、言ってなかったのかい?」

「言うまでもないかなって」


 やけにあっさりと会話を進める医者二人に篠塚家の面々は驚きを隠せなかった。

 菅原財閥と言えば日本一の金持ち、そして何よりアメリカにも名が通るほどの大企業を従えておりあの高原老でも介入不可となっていた大財閥である。

 紗枝が人質にされないのも、それだけの権力を敵に出来ないという理由からであった。


「それで昨日の怨みと報復したってわけか……」

「あら、潰さなかっただけマシだと思ってほしいんだけど?」


 洒落にならないとはこういうことなんだろうなと啓吾は思う。しかし、そうだと分かればより翔は疑問に思う。


「だったらなおさら何で戻るんだよ。危険がなくなったならゆっくりすればいいじゃんか」

「なくなってはいないだろう? 今回の黒幕が残ってるからな」

「あっ」


 そう言われれば翔は納得する。昨日の夜は襲撃がなかったとしても、これから受けないという可能性はゼロとはいかないのだ。


「だったらこっちから仕掛けてやろうかと思ってね」

「まさかアメリカ旅行!?」

「あっ! それは素敵かも!」

「僕も行きたい!」


 天宮家の年少組と沙南はそれは大歓迎と騒ぎ出すが、御生憎様と龍は苦笑した。


「残念だけどそれは二日じゃ無理」

「じゃあどうするんだよ」


 龍は秀に視線を送れば仕方ないですねと肩を竦めた。


「分かりました兄さん」


 そして何やら秀はパソコンをいじり始めて最後にエンターボタンをカチッと押してニッコリ笑うと、テレビの電源を付けた。


「テレビなんか付けてどうしたんだ?」

「すぐに分かりますよ」


 その直後だった。いきなり臨時ニュースに切り替わる。


「臨時ニュースをお伝えします。つい数十分前、ハワード財団が所有する株価が大暴落し市場が大幅に荒れるという事態が発生致しました。

 この煽りを受け、日本におけるハワード財団が所有するホテルも大きな影響を……」


 全員が言葉を失った。間違いなくこの事態を引き起こした張本人が目の前にいる。


「さっ、これでアメリカのハワードは今日一日は僕達に手を出してる場合じゃなくなりましたよ」

「よくやった。じゃあ、あとは俺達にちょっかいをかけてくるミス・セディに会いに行こうか」

「はい、兄さん」


 あくまでも平然と会話をしている天宮家の年長組に残りのものはぞっとした。


「紗枝、こいつらその気になれば世界経済牛耳れるんじゃ……」

「出来るでしょうね……」


 啓吾はとんでもない奴らと付き合ってたのだとようやく自覚したのである。




はい、今回はいろいろなことが明らかになったり起こったり……


まず紗枝さんは日本一お金持ちのお嬢様でした。

だけど聖蘭病院で働いてる一介の医者です。

お見合い話を断って親に泣かれている理由やなかなか人質にされない理由がこういうわけですね。


そして秀……相変わらず何者なんだとつっこまれそうですが、彼は株式市場を混乱させることなどお茶のこさいさいだったりします(笑)

これが彼の裏社会に浸って会得した技のほんの一つだったりします(笑)

普通は犯罪ですがばれなければいいという彼なりの法律らしいです。


だけど龍、秀さんに簡単にそんなことさせて……

やっぱり彼が悪の総大将なのか……




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