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慣れない日々と孤島の食材 Lv.1(九話)

 港にたどり着いた時、日は傾き、黄金色に照らし始めていた。

 港の商人と話がついたサウザーは、中にいろんな物が入った袋を片手で持ちながら、人混みの中から抜け出してくる。


「すまない。待たせてしまった」


 謝る彼に幸は首を振った。


「ううん、私たちは大丈夫だよ」


 そう言いながらティーレの方を見る。


 彼女も静かに頷く。


 ティーレは気になっていた事を尋ねる。


「ねぇ、お兄ちゃん。ママにもっと良い物を作ってあげようってどう言う意味?」


 港に帰ってきたサウザーは魔物を下ろしながら、ティーレにある提案をしていた。

 サウザーはイタズラな笑みを浮かべて歩き出す。


「場所を変えよう。大丈夫、そう遠くないから」


 彼女たちは後を付いて行く。

 気がつくと先程よりも更に赤く色づいた港街を歩いていた。


 ランプに明かりが付き始める。


 サウザーが二人を連れてきた場所は、まだ、人の少ないレストランだった。


 広い店内に並んだ机、壁には常連のハンターたちが取って来た獲物の剥製が、記念碑として数多く飾られている。


「おばちゃん! 厨房借りて良いかな?」


 サウザーは声を張り上げて、奥の厨房で下ごしらえをしていた女将に呼び掛けた。

 サウザーの声に料理の手を止めて、女将が顔を覗かせる。


 大きな顔に皺が目立つ人だ。


 彼女はサウザーを見るなりニッと笑みを浮かべる。


「おや、坊やじゃないか。今日も何か取ったんだね」


「えぇ、そうなんです。魔物の肉が二つ、苔猪とストリッシャウッチェロ。これはおばちゃんの方で使ってくれ」


 厨房と食堂を繋ぐ入り口で話していたサウザーは、袋に詰めた肉を女将に手渡した。

 女将は軽く中身を確認してサウザーの方を見る。


「いつも悪いね。坊やのお陰で料理によりをかけられる」


 そう言いながら彼女はお金の入った小袋を差し出した。


「ほら、まだ忙しくないから手早く済ましな」


 親指で厨房を指差しながら端に寄って歓迎する。

 サウザーは一瞬、こちらに振り返ると首を動かして中に入る様に促す。


 厨房は暖和な雰囲気のあった食堂とは正反対の涼しい雰囲気の水色のタイルや白い床が基調となっていた。


 真ん中に大きな机が一つ置かれて、どこからでも手が回せる様になっている。

 サウザーは袖をまくり、洗面台に貼ってある水で手を洗って支度を整えていく。


 幸とティーレも同じ様に手を洗った。


 二人の用意が終わるとサウザーはパンッと手を叩いて話し出す。


「さて、それじゃあ蜜の花をより美味しくしてやろうじゃないか」


 彼の言葉にティーレは首を傾げる。


「蜜の花ってそのままで美味しいよ」


 花を積んで真ん中の甘い蜜を吸うだけでも十分、美味しく食べられる蜜の花。

 それをどの様に調理するのか、彼女たちには想像がつかなかった。

 サウザーは何度も頷いてから話し始める。


「君の言う通り、蜜の花はそのままでも美味しく食べられる。でも、甘さの強い蜜は濃密でとろみがとても強い。君のお母さんには少し重たいんじゃないかな?」


 彼の問いかけにティーレは俯いて考え込む。

 隣で聞いていた幸も少しピンとこない。

 言われてみれば、確かにハチミツの様な粘り気があった。


「それに一口にも満たない量じゃ食べた気にならないだろ?」


 クスッと微笑みながら彼は肩をすくめた。

 サウザーは鞄から白い蜜の花を取り出して料理の下拵えを始める。


「まず、蜜の花から取れる蜜を鍋に集めていく」


 スプーンを使って、花の中心にある蜜を抜き取って集めていく。

 集め終えるとくるりと向きを変えて慣れた手つきで棚から小さな瓶を二つ取り出していく。

 一つ目の瓶の中から白い粉を摘んで入れる。


「次に甘い木から取れる宝石の中で最も純度の高いジュエリーシュガーを細かく砕いた粉末を少し加えて、溶けるまでよく混ぜる」


 続いて、もう一つの瓶に入った飴色の板を一枚取り出すと細かく割り、新しい小さなボールでお湯と一緒に溶かし始めた。


「そして、苔猪の骨から搾り取った油をお湯と一緒に溶かして、先ほどの蜜の花と一緒に混ぜていく」


 彼はぷくぷくとなる鍋を見ながら、素早くジャム用の小瓶を並べ始める。


「よく混ぜたら、小瓶に移して、粗熱が取れたら冷やすだけ」


 彼は手早く均等に小瓶に白い蜜を注ぎ込む。

 あっという間に用意が終わった。


 その事に幸とティーレは目を丸くしてしまう。


「これだけ?」


 思わず尋ねる幸にサウザーはうんと頷く。


「一工夫だけど、そのまま食べるよりも何倍も美味しくなる」


 彼はそう言いながら後片付けをしていた。

 一体何が変わるのか不思議に思うティーレ。


 不意に彼女のお腹がクーッと鳴り始める。

 ティーレはお腹を抑えて、今朝から何も食べていない事に気づく。

 サウザーはティーレの方を見て、優しく笑みを浮かべる。


「そしたら……もう一品作るか。幸、少し手伝ってくれないか?」


 彼はそう言ってチラリと幸の方に視線を向けた。

 突然の事に幸は豆鉄砲に撃たれたハトの様に目を丸くする。


「え? 私!」

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

何かひと手間加えるだけで格段に美味しくなるのが料理の醍醐味ですよね。

蜜の花もそのままで全然美味しいのですが、一口サイズしかないので満足感にかけてしまう。そこでサウザーは甘さを整えつつ型に流し込む事にしました。この作り方どこかに似ている気がしますね。

さて、何ができるかはお楽しみです。

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