慣れない日々と孤島の食材 Lv.1(十話)
粗熱が取れて白い蜜が入った小瓶を氷魔法が施された箱に入れた幸は、立ち上がり振り返る。
「それで私は何をすればいいの?」
振り返ると忙しなく手を動かしていたサウザーはチラリとこちらを見て、ボールを手渡して来た。
中には僅かに色の違う二種類の桃色のお肉がミンチになって、入っていた。
「それじゃあ、この中に目の前にある調味料と卵を入れて、よく混ぜてくれ」
広い机の上には小さなお皿と塩胡椒の入った瓶が置かれている。
幸は言われた通り、用意された調味料と卵、そして、硬くなったパンを細かく千切って中に入れた。
(ハンバーグでも作るのかな?)
見覚えのあるやり方に幸はぼんやりと予想してしまう。
隣ではサウザーが目まぐるしいスピードで、付け合わせの野菜を切っていく。
「坊や、これもお願いね」
ついでの感覚で女将が仕事を振って来た。
ティーレの白い蜜の花を調理するはずが、なぜか別の物を作り始めている。
本来の目的から外れている様な気もするが、あの子もお腹が空いているからいいのかもしれない。
調理場の入り口側で座っていたティーレは退屈そうに料理をしている二人を眺めていた。
「二人は付き合ってるの」
「え! あ?」
「え!」
前触れのない、質問に幸と珍しくサウザー声が漏れる。
「えっと……どうしてそう思うのかな?」
幸は思わず、聞き変えしてしまう。
彼女の質問にティーレは首を傾げる。
「ん〜なんとなく」
なんとなくでそんな事、聞かれたんだ。
幸は思わず苦笑いを浮かべてしまう。
サウザーは小さくため息をこぼすとお肉を捏ね終えた幸に言った。
「肉は一度、寝かせるからさっき、蜜の花を入れた箱に入れといてくれ」
「うん」
「あとは……」
サウザーは孤島で取ってきた綿雲キャベツを机に乗せる。
周りに雲の様な白い綿がくっついたキャベツを逆さまにして、筋の部分に包丁を入れて丁寧に剥いていく。
「お湯を使うならこれを使って」
別の料理をしていた女将は、サウザーの隣に鍋を差し出す。
「ありがとうございます」
一瞬、顔を上げた彼は女将にお礼を言って、キャベツの筋を補足切り落とす。
幸の方をちらりと見る。
「ありがとう。そろそろ、混む頃合いだから先に席を確保して、待っていてくれないか?」
彼の言う通り、仕事の終わりを告げる鐘が街中に鳴り響いていた。
港から仕事を終えたハンターたちがやってくる頃合いだ。
外はうっすらと紫色に変わり始めている。
幸は手を洗い直すとティーレと共に食堂へ場所を変えた。
人はまだ来ておらず、がらんとした食堂に幸はどこに座るか迷ってしまう。だが、ティーレは違がった。
目の前の席にすぐに座る。
幸は回り込みティーレの前に座った。
「ねぇ、サウザーお兄ちゃんは何を作ってるのかな?」
彼女の問いかけに幸は考えてみる。
思い当たる物を答えてみた。
「ん〜ハンバーグかな?」
幸の答えにティーレは楽しそうに首を振る。
「ハンバーグはフライパンで作る物だよ」
ニヤニヤと笑みを浮かべていた。
彼女にはすでになんの料理か、予想がついているのかもしれない。
椅子に座った幸は一日分の疲れがすぐに訪れてしまう。
抗えない眠気が襲いくる。
幸は海に落ちるように飲まれていく。
「ねぇ、ねぇ、お姉ちゃんは、サウザーお兄ちゃんの事どうおも……」
ティーレが何か聞いてきている。
幸は遠のいていく意識を呼び止めようとした。しかし、これ以上、耐えられない。
子供の相手をした方がいいと思いつつも、ぼんやりと離れていく意識を引き止められない。
彼女は料理ができる直前まで目を瞑って休む事にする。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
どうにも不思議な事に幸はリトラルへ訪れてからしばらく、体調が落ち着かないみたいです。
もしかすると、檻の中の方がよかったかな?
もちろん、そんなはずはないと思います。ただ、新しい事と大切な自由を手放さない様に頑張っているせいで上手くいって居ないようです。無理な生活スタイルが不安定な心を追い込んでしまったのかもしれませんね。




